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夕日に映る君—―初恋の音色  作者: 月原 悠
波音が君を呼ぶ

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3/23

想いのメリーゴーランド

とある場所にて、時が流れて行った。


「僕はいずれ……」


男は一人寂しく呟いた。


「どうしたの、元気がないよ。何の独り言を言っているの?」

「空耳だよ……」

「それより、すべきことがあるでしょ」

「そうだね、でも、僕は自由の羽を奪われたんだ」

「また、そんなことを言う」

「僕が悪かった」

「一人で呟いていて、男らしくないわよ」

「今日は一人にさせてくれ……」

「わかったわ……」


男は一人になり想いをはせた。


あの人に会いたい。どうして僕はこうなるんだ。

今頃、君は何をしているのかな? 笑っているのかな。

優しい笑顔だよね。怒った顔も見てみたい。

さぞかし可愛いだろうな。僕のことをどう思っているのだろうか?

この世に神がいれば僕は見捨てられたようなものだ……

きっと、そうだ……


ピアノ教室にて琴音は川崎にレッスンを受けていた。


「琴音ちゃん、あ、琴音さんだったね」

「やっぱり、琴音ちゃんが可愛いですか? 先生……?」

「そうだね、琴音ちゃんの方が可愛いよ」

「じゃあ、琴音ちゃんでいいです」

「練習してきたかな?」

「はい!」


琴音の心は踊っていた。


「最初はね、バイエルという教本で練習するんだ。これを練習したら、少しずつ弾けるようになっていくよ」

「頑張ります!」

「琴音ちゃん、ドレミファの音階の場所は覚えたかな?」

「はい、先生!」

「じゃあ、弾いてみて」

「こんな感じですか?」


琴音は恐る恐る弾いてみた。


「そうだよ。上手く弾けているね。次はバイエルの音階の簡単な練習曲を弾いてみよう。こんな感じだよ」

「こうですか?」

「そうだよ。上手だよ」

「本当ですか?」

「ああ!」

「うれしい、先生!」

「この調子で練習しておいで!」

「うん」

「琴音ちゃんは可愛いね!」


「先生、バイバイ!」


喜ぶ琴音に対し揺れる心の水江


「お姉さん、お姉さん。川崎先生から褒められてね。それでね!それでね!それでね!可愛いって言われたの!」

「本当、よかったね……」

「うん」

「うれしくて、今日は眠れるかな? 川崎先生、好きです」

「琴音、何か言ったの?」

「何も言ってないよ」

「そう、琴音……明日、学校だから早く寝なさい……」

「そうね……どうしたの、お姉さん?」

「ううん。渡辺さんのことを想っているの……琴音、おやすみ……」

「おやすみ、お姉さん!」


水江の想いは眠りを妨げていた。


渡辺さん。どうして、私の手をつないでくれなかったの……

私の片思いなのかしら……

でも、私の瞳がきれいだって言ってくれた……

あれはなんだったのかな……

ただ、からかっただけかな……

でも、海に誘ってくれたし……

私のことをどう思ってくれているのかな?

海がきれいだったな。きれいな波の音にピンクの貝殻。

また、連れて行ってくれるといいのに……

ああ、こんなことを考えたら眠れなくなっちゃった。

あの時みたいに月がきれい……


翌日になって


「おはよう、水江さん」

「おはようございます。渡辺さん……」

「どうしたの? 水江さん? すぐ、あっちを向いて」

「花がきれいかなと思って……」

「そうだね、でも、花がきれいだから、あっちを向いたのかな?」

「そうです……」

「そうなんだね?」

「いえ……」

「どうしたの? 水江さん……」

「いえ、なんでもないです……」


「そうか、花もきれいだけど、水江さんもきれいだよ」

「本当はそう思っていないのでしょ?」

「どうして、水江さん?」

「だって……」

「だってとは?」

「いえ……」

「ほら、水江さん?」

「どうしました?」

「肩に葉が落ちているから取ってあげるよ」

「水江さん……」

「ごめんなさい……」

「どうしたの?」

「渡辺さんの手に触れてしまって……嫌ですか? 渡辺さん」

「それは……」

「そうですよね……ごめんなさい」

「水江さん……」


水江と渡辺は工場にいた。


「水江さん、ほら、書類を書くのを手伝ってあげるよ」

「いえ、結構です」

「さっきのことで怒っているの?」

「いえ、ちがいます……渡辺さんの気持ちがわかりません……」

「水江さん、ちがうよ」

「どうして、ちがうのですか?」

「それは言えない。言えないんだ……」

「どうせ……私のことは……」

「ちがうよ、水江さん……ちがうんだ」

「もういいです……」


二人の想いは交錯していた。


一方で、ピアノ教室にて琴音は川崎からレッスンを受けていた。


「琴音ちゃん、練習してきたかな?」

「はい!」

「頑張りました。ほら、先生!」

「おお、上達したね!」

「はい、だって……いえ、なんでもないです……」

「琴音ちゃんは可愛いね。肌の色が白くて」

「本当ですか? でも、最近ね、太ったの……」

「そうかな? そんなことないよ」

「先生……」

「どうしたの?」

「聞いてもいいですか?」

「いいよ。琴音ちゃん」

「先生は好きな人はいますか?」

「うん、いるよ」

「教えて……どんな人ですか?」

「可愛い子だよ」

「誰ですか?」

「それは教えられないな」

「先生、本当に私は可愛い?」

「ああ、本当だよ」

「先生は年下の女の子とかは好き?」

「好きだよ」

「頑張る子とか?」

「そうだね、応援したくなるね!」

「肌の白い女の子とか好き? ぽっちゃりとした子は好きですか?」

「ああ、妹みたいで可愛いよ!」

「本当?」

「ああ」


「先生、バイバイ!」


「まだ、練習の途中じゃないか、何か気になることでもあったの?」


琴音は自宅に帰り、喜びを隠そうとはしなかった


「お姉さん、お姉さん、お姉さん!」

「どうしたの、琴音?」

「私は川崎先生と両想いかもしれない」

「そうなの……琴音?」

「どうしたの、お姉さん? 元気がないよ」

「ううん、いいの……」

「もしかして、渡辺さんと何かあったの?」

「もう、ほっといて」

「あ、ごめんなさい……」



琴音は後悔した。


しまったなあ、言わなきゃよかった。どうしよう……

そっとしておこう。

でも、うれしい。どうやって、川崎先生をデートに誘うかな……

ああ、見えても、川崎先生は恥ずかしがり屋さんのような気がするな!


琴音は嬉しくてたまらなかった。

心の中の花が咲き乱れていた。


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