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夕日に映る君――初恋の音色  作者: 月原 悠
交錯する想い

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雨の日に

水江が工場から帰宅する時だった。

突然、雨が降り出した。

水江は傘を持ってきていないので困っていた。

その時だった。


「よければ、私の傘に入りませんか?」


男性は水江に声をかけた。

どうやら、工場に仕事で訪れたようだった。


「バスでお帰りですか?」

「はい」

「私もバスで帰りますので、よければ傘に入ってください」


ふいに声をかけられたので水江は驚いた。

水江の工場では自宅方向へバスが通っており、またバスで帰宅する従業員が多かった。


「いえ、大丈夫です」

「気にしなくていいですよ」


水江の工場では見かけない顔だった。


「失礼ですけど、どちらさまですか?」

「ええ、工場との取引先の者です。雨が降り出したので、親切な方が、工場にある傘を貸してくださったのです」


水江は恥ずかしくて戸惑った。

しかし、雨は次第に強くなっていったので、男性の傘に入ることにした。


「申し訳ありません」

「いえ、お気になさらないでください」


男性は水江より二回りほど年上のように見えた。

二人でバスに乗り、下車すると、男性は水江の自宅まで送ってくれた。


翌朝になり、工場長が水江に声をかけた。


「水江さん、工場でお世話になっている方がいてね、よければ、一緒に食事をしたいとおっしゃってるんだ。なんでも昨日一緒に水江さんと帰った時に気に入られたみたいなんだ」


水江はまだ結婚は考えてもいなかったので、すぐに断った。

工場長は笑みを浮かべて水江に告げた。


「水江さんも、そろそろ身を固めたらどうだね」

「いえ、私はまだ若いですし、それに、その方はご年配の方です」

「いや、あの方はまだ三十歳を過ぎたばかりなんだよ。それに取引先の社長だし。水江さんも安泰だよ」

「いえ、遠慮いたします……」


工場長は困惑した表情を見せて、水江にさらに頼み込んだ。


「実はな工場はあの方から資金援助してもらっているんだ。一度だけでいいから、食事をともにしてくれないか? これは仕事だと思ってもいい」


水江は困ったけれど、工場長の強い勧めに断れず、食事をすることになった。

男性は山村と名乗り、高級レストランで食事をともにした。

高級レストランは初めてだった。

驚きを隠せなかったが、吾郎との一件もあったので慎重にならざるを得なかった。

しかし、話をしていくうちに、吾郎とは異なる魅力を感じて惹かれるものがあった。

水江も気を許して、つい、渡辺のことも話した。


山村は渡辺とも親交があることもあり、親身に相談にのってくれた。

物腰も柔らかく、水江に交際を求めることはなかった。

水江からしたら、年上で安心感のある男性に映った。


山村は度々、仕事で工場を訪れるようになった。

水江は山村と休憩時間に話をすることが増えた。

日常生活や仕事の悩みにも耳を傾けてくれた。

山村が工場を訪れるたびに心が踊った。


水江は山村と日帰りで出張をすることになった。

山村と出会った時のように雨の日だった。

水江と山村は出張先に行くために列車に乗った。


なぜか、その日は不思議な気持ちがしていた。

水江は列車に山村と向き合って乗っていた。

列車は駅で停車していた時だった。

雨のために列車の窓ガラスは曇っていた。

何気なく、景色を見るために窓ガラスをハンカチで拭いた。


水江は驚いた。

我が目を疑った。

駅の向こうに渡辺の姿があった。

あまりに偶然だった。

水江は動揺を隠せなかった。

山村は渡辺に気づくことはなかった。

渡辺も水江に気づくことはなかった。


列車は再び走りだした。

水江は駅にいる渡辺の姿を目で追った。

胸が熱くなった。


雨はしとしと降っていた。


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