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夕日に映る君――初恋の音色  作者: 月原 悠
それぞれの道

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27/36

前夜

渡辺はコンクールに向けて、聴力の不安もありつつも、練習に励んでいた。

一時は諦めかけていたものの、マエストロの後押しやミレーゼの支えもあった。


「雄二、コンクールまで一か月を切ったわね。どう? 調子は」

「ああ、聴力の方もなんとかなっているよ」

「そうね、ピアニシモも少し違和感はあるけど、大丈夫よ。頑張るのよ」

「ああ、そのつもりだよ」


そして、コンクール本番の日を迎えた。


「雄二、頑張って」

「ありがとう。それじゃ行くよ」


渡辺はピアノの前に座った。

演奏曲は得意とするショパンだった。


コンクールの結果は優勝こそ逃がしたものの、特別賞を受賞した。


「雄二、残念だけど、特別賞だけでもすごいわよ。おめでとう」

「ありがとう」

「これで、ピアニストとしての評価は得たわ。十分よ」

「そうだね」


渡辺は結果を出した。

しかし、心は晴れなかった。

どうしても、日本への想いがぬぐいされなかった。


渡辺は日本の実家へと手紙で報告した。



父さん、母さんへ


元気にしているかな。

僕も、ついにコンクールで受賞したんだ。

これも、僕を育ててくれた、父さんと母さんのおかげだよ。

ありがとう。

そして、報告だけど、ミレーゼと結婚することになった。

短いけど、近況の報告だよ。

でも、日本が懐かしいかな。

また、帰ってくるよ。


雄二


その後だった。

マエストロから提案があった。


「雄二、君は日本で生まれた、日本での凱旋公演をしたらどうだ」


渡辺は複雑だった。

日本へ帰りたい、でも、結婚も迫っている。

苦悩したうえ、ミレーゼに告げた。


「ミレーゼ、マエストロからの日本公演の件は聞いているだろう」

「ええ、聞いているわよ」

「それまで、結婚は待ってくれないか」

「いいわよ。その代わり、水江さんの想いを断ち切って」

「ああ、そうするよ」


渡辺の日本公演が決まった夜だった。


水江さん、これで本当に心の中での終わりだよ。

僕は決めたよ。

情けない僕と決別を告げるためにも日本公演をする。


そして、その日が来た。

日本の音楽愛好者の中では、渡辺の凱旋日本公演を期待する声が多かった。


「おい、そういえば、日本人初のギリシャコンクールでの受賞者だぞ」

「ああ、楽しみだな」


その声は偶然にも、琴音と水江にも届いた。

それは百合子の父親から届いたのだった。


「琴音ちゃん、私はピアノの仕事をしているといっただろう」

「うん」

「琴音ちゃんから聞いていた、川崎さん、今は渡辺さんだったね」

「そうよ。川崎先生がどうしたの?」

「今度、日本で演奏会をするんだ」

「本当!本当!?」

「ああ、おじちゃんがその仕事をすることになってね。ピアノの調律をすることになったんだ」

「行きたい、行きたい」

「そうだろう、百合子と一緒に行くかね?」

「行く、行く」

「じゃあ、連れっていってあげるよ」


琴音の心は踊るばかりだった。

自宅へに帰った。


「お姉さん!お姉さん!」

「どうしたの?」

「川崎先生が日本に来るのよ、そして、日本でピアノの演奏会をするの」

「本当?」

「お姉さんも行く?」


水江は渡辺を忘れるのに必死だった。


「琴音、私は行かない……」

「どうして?」

「渡辺さんのことは忘れるっていったでしょ」


水江は心が揺れ動きながらも、心の中で別れを告げていた。


いよいよ、演奏会当日を迎えた。


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