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夕日に映る君――初恋の音色  作者: 月原 悠
それぞれの道

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22/30

水江は、吾郎の家を訪れた翌日に、自分の気持ちを伝えた。


「吾郎さん、もう、お食事にいったりはやめましょう」

「どうしてですか? 水江さん」

「だって……」

「水江さん、渡辺さんのことは忘れてください。僕こそが水江さんを愛しているのです」

「どうして、渡辺さんとのことを……」

「ええ、僕は色々と知っていますよ。水江さんには可愛い妹さんがいましたね」

「やめて……やめてください。それだけは……」

「何もしませんよ。安心してください」


吾郎は執念深かった。

琴音が学校からの帰宅時のこと。

突然、中年の女性が琴音の元にやってきて話しかけた。


「あら、琴音さんかしら」

「どうして、私のことを知っているの? おばちゃん」

「水江さんから、聞いたの。川崎さんと琴音さんは仲がいいのでしょ」

「そうなのよ。実は……でも、どうしておばちゃんは川崎先生のことを知っているの?」

「息子から聞いたのよ、水江さんにもよろしく伝えてね」

「はい!」 

「おばちゃんは今から用事があるから、今度、川崎さんのことを話しましょう」

「はい!ぜひ!ぜひ!」


琴音は心を躍らせながら自宅へと帰り着いた。

水江が仕事から帰ってくるなり、まくしたてるように言った。


「お姉さん!、お姉さん!」

「どうしたの? 琴音」

「琴音とお姉さんのことを知っているおばちゃんがいたの。そしてね!そしてね!川崎先生のことも知っていたの」

「え……本当」

「うん!今度また話そうって」

「駄目よ、駄目」

「どうして? 優しいおばちゃんだったのよ」


水江は何も言えなかった。

恐怖に襲われた。


翌日、工場でそのことを吾郎に伝えた。


「吾郎さん、妹だけはそっとしていて」

「え、何のことですか? 僕は何もしていないですよ」

「お願いします」

「水江さん、また、食事に行きましょう」

「いやです」

「そういえば、琴音さんは可愛らしいって、母から聞きましたよ」


水江はあまりにも怖くて、何も吾郎に言い返すことはできなかった。

どうすればいいかわからなかった。

悩んだあげく、工場長に相談した。


「まさか、あのおとなしくて優しい吾郎君が、水江さんの考えすぎだよ」

「本当です。本当です」

「まあ、一応、彼から事情は聞いてみるよ。水江さんは心配性だから」


工場長は信じようとはしなかった。


ある日のことだった。

水江が勤務が終わり帰宅しようとすると、吾郎が工場の門に立っていた。


「水江さん、待っていましたよ。今日こそは食事をご一緒しましょう」

「いえ、今日は都合が悪いです……」

「それじゃ、明日はどうですか?」

「明日も……」

「じゃあ、明後日は?」

「もう、私につきまとわないでください」

「そうですか……それは仕方ないですね」


水江は急に琴音のことが心配になった。


「琴音だけには手をださないでください」

「え、何も言っていないじゃないですか。もう一度言います。今日、僕と食事を一緒にしてください」

「食事だけですよ……」


水江は恐怖のあまり、吾郎と食事をともにすることになった。

食堂へ着くと、水江は言葉を失った。

そこには吾郎の母親がテーブルに座っていて、水江を見ていた。どことなく薄笑いを浮かべながら。


「あら、吾郎ちゃん、遅かったのね」

「水江さんがね。なかなかうんと言ってくれなくて」

「そうよね、どうしても結婚の約束はできないわよね」

「帰ります」

「あら、せっかくのお見合いなのに、吾郎ちゃんが可哀想でしょ」

「いやです」


水江はその場を逃げるようにして帰った。

その翌日だった。


「お姉さん、お姉さん!」

「どうしたの? まさか……」

「この間のおばちゃんから聞いたのだけど、お姉さん、吾郎さんという人と婚約したの?」

「してないわよ」

「そうなの、変ね、優しいおばちゃんだったのに、それにね、琴音が可愛いって」


水江はその夜は眠れなかった。

外はまるで嵐のように雨風が吹き荒れていた。


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