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夕日に映る君――初恋の音色  作者: 月原 悠
それぞれの道

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21/29

後悔

理恵子……


渡辺の遠い過去が脳裏によみがえった。


「お兄ちゃん、ピアノを一緒に弾こう」

「ああ、いいよ。理恵子」

「ほら、弾けるでしょ」

「ああ、上手だよ」


あの時は理恵子が得意げに弾いていたな。

でも……異変が起きたんだよな。


「お兄ちゃん、このピアノは壊れているの?」

「どうして、そんなことを言うんだい?」

「だって、最近音が小さいでしょ」

「理恵子、そんなことはないよ。気のせいだよ」

「うん、そうね」


もっと早く気づいてあげればよかったんだ。

時が流れる前に……


「お兄ちゃん、最近、先生の声が小さく聞こえるの……」

「そんなはずはないよ」

「そうね……」


あれから、すぐだった。


「川崎さん、理恵子さんの担任の前田と言いますが、理恵子さんは耳が遠いようです。検査に行ってみてください」

「理恵子、病院へ行こう」

「うん」


冷たく聞こえたな。


「川崎さんですか、妹さんは原因がわかりませんが、聴力が失われつつあります」

「先生、いつか聞こえるようになるんですよね」

「いえ、このまま、回復することはないでしょう。奇跡が起きないかぎりは……残念ですが」


渡辺が思い出していると、ミレーゼが部屋に入ってきた。


「雄二、どうしたの、下をうつむいて」

「いや……」

「もしかして、水江さんのことを考えているの?」

「違うよ。違うんだ」

「もしかして、理恵子さんのこと?」

「ほっておいてくれ」

「雄二が悪いんじゃないでしょ」

「いや、俺が悪いんだよ」


ミレーゼが部屋から出ていくと、渡辺は再び遠い記憶が蘇った。


あの時だったな……


「お兄ちゃん、町でお祭りがあるの。連れていって」

「ああ、いいよ」


そして、俺は町へと理恵子を連れていったんだ。


「お兄ちゃん、綿菓子が食べたい」

「ちょっと待っていて、ここで待っているんだよ。理恵子は耳が悪いから、ここでね」


あの時、俺が目を離したのがいけなかったんだ。

俺は向こう側の綿菓子の売り場に行ったな。


「すみません。綿菓子を二つください」

「ああ、いいよ」


キー、キー


「危ない」

「おい、女の子が馬車にはねられたぞ」

「理恵子、理恵子……どこだ」

「ああ、君は?」

「兄です」

「すぐさま、馬車に乗った者が連れていったぞ、きっと病院じゃないか」

「わかりました」


俺は病院を転々と探したよ……



渡辺の遠い過去への想いは続いた。



まさか、そんなはずが……そんなはずはと思ったよ。


「すみません、ここに女の子が運ばれませんでしたか?」

「ええ、運ばれてきました……」

「理恵子は理恵子は……?」

「女の子なら、残念ながら……」

「そんな……それで、理恵子は?」

「その後はわからないです……」


結局、理恵子の眠っている姿すら見届けられなかった。

ひっそりと海に形見を投げたんだったな。

せめて、眠っている姿を見たかった……



「雄二、マエストロがお見えよ。何をいつまでも考えているの?」

「ああ、今、行くよ」


全て俺が悪い。

あの時に手を離さなければよかったんだ。


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