思惑
水江は吾郎と映画を観に行くことになった。
空は晴れていた。
しかし、水江の心はどことなく晴れなかった。
「水江さん、今日の映画は恋物語みたいです」
「そうなのですね……」
「どうなされました?」
「いえ……」
スクリーンには切ないラブストーリーが映し出されていた。
しかし、水江の心には響いていなかった。
二人が座席に座っていた時のこと、吾郎は水江の手に触れた。
「吾郎さん……」
「ごめんなさい、水江さん、たまたま、手に触れてしまいました」
「いえ、大丈夫です……」
「水江さん……手をつないでいいですか?」
「ごめんなさい……それは……」
「そうですよね。そうですよね。そうですよね……」
水江と吾郎は映画館を後にした。
吾郎は水江を見送り、自宅へと帰り着いた。
「吾郎ちゃん、吾郎ちゃん、どうしたの?」
「ううん……」
「どうして、泣いているの? 誰かがいじめたの?」
「お母さん……」
「よしよし」
「お母さん……」
吾郎は映画館の出来事を母親に話した。
映画を観に行った翌日、工場での休憩時間の時だった。
「水江さん、お茶でもゆっくり飲んでください」
「吾郎さん、ありがとうございます」
「いえ……」
「痛い……」
湯呑にひびが入っており、水江は指を怪我をした。
「どうして……」
「水江さん、絆創膏を貼りましょう。それに僕の母は看護婦なのです。帰って傷の手当をしてもらいましょう」
「いいのですか?」
「はい、傷が深いですから」
「すみません」
水江と吾郎は吾郎の自宅へと向かった。
「あら、吾郎、今日はお客さんかしら」
「ああ、僕の知り合いで、水江さんという方だよ。お母さん、水江さんは指を怪我したんだ。手当をお願いできないかな」
「ええ、もちろんですよ。水江さん家の中へどうぞ」
「はい、お邪魔します」
「お母さん……」
「わかっているわよ、吾郎ちゃん」
「え……?」
「どうしたの? 水江さん」
夕暮れの空には三日月が輝き、薄く笑っていた。




