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夕日に映る君—―初恋の音色  作者: 月原 悠
それぞれの道

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14/20

異変

琴音は相変わらず、百合子があまりに無口であることを心配していた。

理由があって、自分に何かを隠しているようにも思えた。

百合子のことがほっておけなかった。


「百合子、何でもいいから、私に言ってね。気にしなくていいから」

「うん……」

「どうして、百合子はいつも、うんとしか言えないの? もっと他に言えないの?」

「ごめんなさい……」

「でも、いいのよ。琴音は気にしないことにしたから」

「うん。ありがとう」


琴音の笑顔を見て、百合子の表情は穏やかになった。


「そうよ。ほら、百合子、元気を出してね。琴音も辛いことがあるけど、気にしないようにしているのよ」

「うん」


窓を見ると木々の間から柔らかい陽射しが差していた。

どこか、柔らかい風が二人の頬をなでた。


工場で働く水江は、吾郎の視線が気になっていた。

吾郎の机は水江から少し離れた横の方にあった。

目が合うと、吾郎は目線をそらした。


水江は勇気を振り絞って、吾郎に自らの気持ちを伝えることにした。


「吾郎さん、ごめんなさい。私は気になっている人がいます。私のことは忘れてください。ごめんなさい」

「そうですか……でも、僕は水江さんが心変わりするのを待ちます。待ち続けます」

「そんな……」

「僕のどこが嫌ですか? 顔が悪いからですか? お金を持っていないからですか? 僕は頑張りますから、もう少し待ってください」

「吾郎さん……」


水江は何も言えずに、家路へと向かった。

必死で懇願する吾郎の姿がいつまでも心に残った。


水江は思う。


渡辺さん。

どうすればいいですか。

私を想ってくれる人がいます。

私に優しくしてくれます。

嫌いではないのですが、どうしても、渡辺さんが忘れられないのです。

海辺で優しく抱き寄せてくれたぬくもりが忘れられないのです……

やっぱり、渡辺さんのことを忘れて、その方とお付き合いしたほうがいいですよね……

でも、辛いです。

渡辺さん……


自分の想いと吾郎の想いが水江には重なって映った。


一方で、ミレーゼはいつまでも、水江のことを忘れられない渡辺のことを想うと辛かった。


雄二、どうして……

どうして、私に振り向いてくれないの……

雄二を本当に愛しているのは私だけなの。

どうして、どうして……

私を抱いてくれている時も、あなたは私をみていない。

遠くを見ているじゃない。

わかるのよ……

水江さんのことを想っているのが……


渡辺がマエストロからレッスンを受けている時だった。


「雄二、このフレーズはもっと優しくレガートに弾かないと駄目じゃないか」

「マエストロ、ここはそう弾いているつもりですが……」

「いや、粗いぞ。これじゃコンクールでは通用しない」


渡辺は自宅で練習していた。


「雄二、どうして、そこはもっと静かに弾かないと駄目でしょ。そんなに大きな音で弾いたら駄目よ」

「そんな、馬鹿な。弱く弾いているじゃないか」

「雄二、最近……もしかして」

「そんな馬鹿な……」


渡辺は異変に気付き始めた。

それが現実になろうとしていた。


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