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夕日に映る君—―初恋の音色  作者: 月原 悠
それぞれの道

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13/23

琴音は転校してきてから、気になっていたことがあった。

親友である百合子の口数が少ないことだった。

最初は大人しい性格からくるものだと思っていた。


「百合子、いつも元気がないけど、何かあったの?」

「うん」

「どうして、いつも、返事だけなの? 私のことが嫌いなの」

「……」

「もう、百合子ったら。知らない」

「ごめんね。待って琴音ちゃん……」


百合子にはどことなく暗い影があった。

琴音は一人で家へ帰った。

家には水江がいた。


渡辺との一件があって、しばらくは琴音は水江と口を聞かない時期があったが、気持ちの切り替えは早く、すっかり、水江とは仲がよくなっていた。


水江は少しばかり、元気がなかった。

それが、琴音は気になった。


「お姉ちゃん、今日はどうしたの? 元気がないわよ」

「ううん、いいの……気にしないで」

「まだ、川崎先生のこと気にしているの……?」

「それもあるけど、今は違うことで悩んでいるの……」

「教えて」

「琴音に言えることじゃないの……」


水江が働く工場での出来事だった。


「みんな、聞いてくれ、今日から勤務することになった、今永吾郎君だ。よろしく頼む」

「吾郎さん……」


水江の表情は曇った。

しばらく前のことだった。


「水江さん、僕と交際してください」

「ごめんなさい……」

「駄目なのですか? 誰か好きな人でもいるのですか?」

「それは言えません……」


彼女は丁重にお断りしたものの、吾郎は水江に対して強い想いがあった。


「水江さん、明日、食堂で食事をしませんか?」

「いえ、明日は都合が悪いです」

「それじゃ、明後日はどうでしょう?」

「いえ、明後日もごめんなさい……」

「じゃあ、近いうちにどうですか」

「考えさせてください……」

「わかりました。水江さんのいい返事を待っています」


水江は優しくて素朴な吾郎に心が傾いていたが、渡辺のことが忘れることができなかった。

そんなうちに、吾郎が水江の工場に勤務してきたものだから、水江は不安に感じた。

そして、不安は現実になろうとしていた。


一方で、渡辺はマエストロよりレッスンを重ね、めきめき、ピアノの腕を上げていった。


「雄二、よかったわね」

「ああ、流石、マエストロだよ。的確な指導に驚いている」

「よかった。紹介したかいがあったわ」

「ありがとう。ミレーゼ」


渡辺はピアノが上達していくたびに、喜びに変わるとともに複雑な気持ちに襲われた。


理恵子……

お兄ちゃんはピアノを頑張っているよ。

でも、理恵子はもういない。

お兄ちゃんのせいで……

お兄ちゃんだけが上達していってごめんね。


更に思う。


僕はこのままでいいのだろうか。

このまま、コンクールに出場してもいいのだろうか。

辛い。

辛いよ……


こんな僕を誰か消し去ってくれ……


影が渡辺を覆いつくしていた。


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