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夕日に映る君—―初恋の音色  作者: 月原 悠
それぞれの道

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12/20

歩み

琴音は渡辺のことを想いながらも、力強く日々を送っていた。

一方で、水江はデリケートであった。

海で渡辺に抱き寄せられたことが頭から離れなかった。

工場でもふさぎ込むことが多く、仕事もままならなかった。


それを見かねた、工場長は知人の一人息子を水江に紹介することにした。

名は吾郎という青年だった。


水江は紹介されたものの、気は乗らなかった。

しかし、渡辺のことを忘れるために会うことにした。

工場長は、近くの食堂でともに食事をするように手配してくれた。

吾郎は渡辺ほど、好青年ではなかったが、真面目で優しかった。


「水江さん、何を食べられますか?」

「私は簡単なものでいいです……」

「いえ、せっかくですから、僕がご馳走しますよ。焼き魚定食などはどうですか?」

「はい、それではお言葉に甘えさせていただきます」


水江も次第に吾郎の素朴で優しいところに心を許していった。

しかし、渡辺のことを忘れる日はなかった。


一方で琴音は学級でも、可愛らしいこともあり、男子生徒からは人気があった。


「琴音ちゃんは、三つ編みで可愛いね」

「ありがとう。和樹君。前もね、可愛いって言われたことがあるの」

「え、誰に?」

「それは内緒よ」

「教えてよ」

「駄目よ。私の中の大事な人なんだから」


琴音は男子生徒に人気があったこともあり、同じ女学生からは虐められていた。

嫉妬心からくるものだった。

それでも、琴音は強かった。

堂々としていた。

そんな中で、唯一の友達である、百合子とはいつものように一緒に下校していた。


「百合子、私はね、同級生から嫌なことを言われるけど、大丈夫なのよ」

「うん」

「だって、川崎先生ってかっこいい人が私の心の中にいるから平気なの。それにね、百合子とも仲良しだし」

「うん」

「百合子は誰か好きな人がいるの?」

「うん」

「誰?」

「うん」

「そうよね。秘密ね」

「うん」


渡辺と言えば、マエストロと言われる、ニコラオス・ディミトリウ氏に師事していた。

マエストロは渡辺の才能を高く評価していた。

ギリシャでは4年に一度、世界的なコンクールが開催されていた。

優勝者は世界的な活動が支援されることになっていた。

いわば、ピアニストにとって登竜門だった。


「雄二、君は今度のギリシャコンクールに出場してみないか? 君なら優勝できる」


渡辺は、以前からピアニストになるのが夢であっただけに、コンクールに出場することになった。

婚約者であり、ピアニストでもあるミレーゼの全面的な協力もあった。


「雄二、仕事は私に任して、コンクールに専念するのよ」

「ありがとう」


渡辺もまた、水江のことを忘れることがなかった。

しかし、ピアノに打ち込むことで自らの道を開いていこうと思い始めていた。


水江さん、僕は今、新しい道を進もうとしている。

君のことは忘れたくない。

でも、新しい道に進まないとね。

今度、生まれ変わったら一緒になろう。

いつまでも、応援しているよ。

心の中で……


それぞれ、自らの道を歩み始めたのだった。


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