第137話〜凱竜天・双牙〜
プリース王国・首都パイナス。
まだ眠気も覚めない中、爆音と爆風によって強制的に叩き起される民衆たち。
阿鼻叫喚。パニック状態。
「な、なんだ!? 地震か!?」
「違う! い、隕石だ!」
「大地が空から降ってきた!」
「なにをバカなことを!」
「マジなんだって! 土石操作の大魔術じゃないかって言われてる!」
「炎と氷の大魔術の次は、地魔法の大魔術かよ⋯⋯」
「まだ間に合う! 逃げるぞ!」
「逃げるって⋯⋯騎士は!?」
「それが、マナ切れで魔法部隊も狙撃部隊も使い物にならないらしい!」
「どうせここに居たら死ぬ⋯⋯か⋯⋯」
「あぁ、そうだ! 逃げよう!」
やっと現実を理解した民衆は何十万という人の波となって、パイナスから逃げ出そうと必死だ。
民衆は西へと大脱走をはじめている。
なぜなら、東は巨大なクレーターができ、土ぼこりが舞っているからだ。
それをパイナス南に陣取るスピルドとオリオン率いる騎士団は黙って見ていた。
「お、オリオン様。とっ捕まえなくてよろしいので⋯⋯?」
「あぁ⋯⋯」
否。本来は捕まえなくてはならない。
ハロルドからは「逃げる民衆は背中から討て」との命令が出ている。
しかし、オリオンはそれを無視し黙って民衆を見送った。
近衛騎士たちにも「私が責任を取る。もし、逃げる民衆を見かけても、決して害さないでくれ」と、お願いしてあるのだ。
スピルドは民衆を捕まえようとしないオリオンを見ながら思った。
(これって重罪じゃね〜〜〜??)
彼は、どこまでもクズだった。
(えっ!? ハロルド様から捕まえろって指示出てなかったっけ!? これ、後でチクったらオリオンやべーんじゃね〜の? ってなると、騎士団長の座も危うくなって〜! 俺様、ワンチャン昇格するんじゃね〜??)
義兄弟シルドルと共にピグリアムという優れたジョブ持ちを検挙し、王の勅命である『ピグリアムの誘導尋問』にも成功した彼らは、一個小隊を任されるほどの地位についていた。
その成功体験が、彼スピルドをさらなる欲求へと駆りたてたのだ。
そこに騎士の誇りやオリオンの高潔な精神。これらを理解する頭など到底持ち合わせていない。
(ピンチかと思ったけどツイてるぜ〜! 脱走兵の処理はオリオンに任せて〜、作戦の隊長である俺様が手柄をひとりじめするだろ〜? その後、オリオンのことをハロルドにチクれば完璧! うっひょ〜! 面白くなってきたァ〜!)
そして、プリース王国とブバスティス帝国の『圧倒的な武力の差』についても、理解する頭を持ち合わせていなかった。
そんな愚かなスピルドなど完全に視野に入れていないオリオンは、ひとり、どうすれば民衆が無事にプリース王国へ戻ってきてくれるかを考えていた。
(プリース王国を存続させるには国民は必要不可欠。ハロルド様には申し訳ないが、虐殺するわけにはいかない。それがプリース王家をお守りすることにも繋がる。⋯⋯私が一人でブバスティス帝国を壊滅させるしか、手は無いか)
そう思考し、フッと笑みがこぼれた。
(無理だな⋯⋯)
しかし、プリース王国・騎士団長オリオン・バークライトの意思は固い。
(それでも、最後まであがこう。この国と、この国に生きるすべての民のため。そして、ロウル様をはじめとするプリース王家のために⋯⋯!)
根っこから腐りきったプリース王国。
そんな国に、オリオンは産まれ落ちてしまった。
彼は産まれてくる場所と時代を間違えてしまったのだ。
一等星のごとく純白に輝く彼は、人知れず、愛する祖国と心中することを決めた。
――――――
パイナス西方面。
エータたちは、逃げてくる民衆たちに「ブバスティス帝国に歓迎する、城壁のほうへ向かえ」と指示を出しながら進む。
「騎士団長のオリオン様が攻めてくるぞ!」
と、うろたえる人も居たが、
「大丈夫! かならず守る!!」
そう言って、なんとか捕虜の街へと向かわせた。
捕虜の街は、ライオ、クロウガ、ピグリアム、鴉天狗部隊。そして、ヒョウドルをはじめ闇夜の影の人たちが護衛についている。
西からパイナスへ侵攻するのは、エータ、ドロシー、ディアンヌ、イーリン、フィエル、アイチェの六人。
ブライは西の山の本陣に残り、その護衛はケイミィとクマコーゲの戦士たちが務める。
――――――
「すごい数の脱走者ですわね」
走りながら言うドロシー。
「あぁ、これで半分以上は逃げたかな?」
誘導の漏れが無いかを確認しながら進むエータ。
「全員、逃げてくれたら、私の魔法で、終わりなのに」
エータにお姫様抱っこされながら呟くイーリン。
(イーリンちゃん⋯⋯良いなぁ⋯⋯)
それを羨ましそうにながめるディアンヌ。
「シロウさんとビートくんの捜索をしないとッスね」
分かっているとは思うが、このままパイナスを破壊されてはたまらないと口をはさむアイチェ。
「あぁ、国盗りは出来るだろう。彼らの救出を最優先に考えるくらいがちょうど良いかもな」
フィエルはそう言って、目の前にせまるパイナスをにらんだ。
「捕まる前にビートは言っていましたわ。『北の地下になにかがある』と⋯⋯」
ドロシーの言葉に、エータは言う。
「ビートたちが捕まってるとしたら、その北の地下にある謎の場所か、隠密部隊の報告に出ていた王城の地下監獄だな⋯⋯」
そして、一考。
「ドロシーとフィエルとアイチェは北へ向かってくれ、地下に続く道はフィンの風で探せるはずだ」
「わかった!」
「わかりましたわ!」
「はいッス!」
「俺とイーリンとディアンヌは王城へ行って、ハロルドを討つ!」
「おー!」
「わかりました!」
そうこうしている内にエータたちは、まだ数万人はのこるプリース王国を守る騎士たちを視認した!
「アイテムボックス!!」
エータがそう叫ぶと、騎士たちはまたしても肌着と下着のみとなってしまった。
「くそっ! どうすりゃ良いんだよ!」
「どうしようもねぇよこんなの!」
「こうなりゃヤケだ!」
「プリース王国に栄光あれぇー!!」
プリース王国の騎士たちは、そのままエータたちへと玉砕覚悟の特攻をしかけてきた。
「バカヤロー⋯⋯!」
エータはつぶやく。
その様子を抱っこされたまま、イーリンは心配そうに見つめていた。
そして、先頭を走っていたエータは立ち止まり「目の前で見せてやらないとダメみたいだな」と、悲しげにこぼした。
後ろを走っていたドロシーたちも、彼がなにかをしようとしているのを察し、立ち止まる。
エータはイーリンを優しくおろし、アイテムボックスの中から騎士団長室で手に入れたウォーハンマーを取り出した。
「みんな、下がっててくれ」
そう言うと、彼は『あの構え』に入る。
(手になじむ。やっぱりコレはダストンの⋯⋯)
バチバチとマナで白光するエータの身体。
そして、重なる凛とした老兵の影。
「これは⋯⋯!」
「だ、ダストン!?」
「エータくんの身体に重なって見えますね⋯⋯」
「魂、神秘。理の外にあるみたい」
「すごいマナっす!!」
エータは激怒していた。
なぜ、なぜその愛国心を、正しい方向へ使わなかったのかと⋯⋯!
盲目的に信じるだけがすべてなのかと!!
「思い出せ! お前らの愛した英雄を⋯⋯!」
輝きはより一層の激しさを見せ、ドロシーたちは固唾を飲んでそれを見守っている。
「お前らが失望させた英雄の技だ!」
――凱竜天――
一匹の巨大な龍が、地面をえぐりながら北へと射出される!
「うおおぉぉぉぉおお!!!」
エータはさらにマナを込め、アーツドライブの勢いをそのままに、もう一度ウォーハンマーを振り切った!!
――双牙――
もう一匹現れる龍。
それは、エータたちの南へと進む!
二匹の龍は、生身で向かってくる騎士たちの目の前をさえぎるように、地面をえぐりながら這う!
「うわぁぁぁ! と、止まれぇー!!」
「凱竜天だ!!」
「だ、ダストン様の⋯⋯」
「それを⋯⋯二匹⋯⋯!」
巨大な龍が飛来し、えぐれた地面を見ながらその場にへたりこんでしまう騎士たち。
指先ひとつ触れれば、ちぎれ飛んで居たであろう。
騎士たちは我にかえり、ヒザをガクガクと震わせた。
エータは遠くからそれを確認すると、フィエルに「声の拡声を頼む」と、告げた。
フィエルは「あぁ。フィン!」と、風の精霊を呼び出し、エータの口元に風の螺旋をつくりだす。
「一度しか言わない! 降参しろ! 俺たちの邪魔をしないのであれば命は助けてやる!! もし! 少しでも妙な真似をしてみろ!!」
エータは、息を深く吸い込んだ。
「肉片ひとつ残らないと思え!!」
そう叫ぶと同時に、天に昇るほどのマナの奔流を身体から発するエータ。
それを見た騎士たちは、恐怖で抜けた腰に鞭を打ち、地面を這いつくばってエータたちの道をあける。
「行こう」
エータはイーリンを抱えなおし走り始めた。
その後ろをドロシーたちも続く。
エータたちを歓迎するように割れた大軍の亀裂。
たくさんの騎士に見送られながら、エータたちはパイナスへと侵攻した。




