第136話〜王国滅亡まで、後6時間〜
コクシ歴2026年。夏至。
剣と魔法が飛びかい、人とモンスターと亜人が生きる異世界『バハスティフ』。
そんな世界のとある国。『プリース王国』は、照りつける太陽で、今日も灼熱の暑さである。その暑さを忘れんばかりに走りまわる使用人と兵士たちの姿。
「報告いたします! またも大量の汚物が上空より出現! 首都・パイナス南西、貴族街から市民街にかけて降りそそいだとの事です!」
「続けて報告いたします! その影響で、なおも市民の間で病が流行中! 医者、錬金術師、神官、それぞれ職業がまったく足りておりません! このままでは貴族にも影響がおよぶと思われます!」
「陛下! 御指示を!」
「陛下!!」
必死に訴えかける兵士たちを後目に、玉座に座るプリース王国の国王ハロルド・ラ・プリースは、生気を失ったように力なく、ただ窓を見ていた。
兵士たちは困惑した。いつもなら「めんどくさい!」だの「貴族優先である!」だの言ってくるはずなのに。なぜ?
ただ事ではないと感じた一人の兵士が、恐るおそる聞いてみる。
「陛下。いかがなされたので⋯⋯?」
ハロルド王は兵士たちに目をくれることなく応えた。
「⋯⋯なんだ、あれは?」
なんだ?とは、なんだ?陛下は何をおっしゃっている?何をそんなに怯えているんだ?
兵士たちが顔を見合わせる。
「陛下。あれ、とは⋯⋯?」
完全に兵士たちのことが目に入っていない国王。
「我々は⋯⋯我々はなにを敵にまわしたのだ?」
主君のただならぬ様子にやっと『外で何かが起きている』と察した兵士たちは、窓へと視線を向ける。
直後、王の間は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
ーー巨大な土塊、いや『山』が今まさにプリース王国の首都パイナスに落ちようとしていたのだ。
「アイテムボックスとはなんだ? ただ物を出し入れする能力では無かったのか? まるで⋯⋯まるでこの世の終わりではないか! これがかつて我が国を興したという伝説の武芸術――」
直後、大地を揺るがす轟音と共にハロルド王の言葉はかき消された。
――――――
「エルフの⋯⋯我が同胞の怒りを思い知るが良い、プリース王国」
エータのアイテムボックスにより出現した『北のエルフが住んでいた、死んだ山』。
それが、パイナスの東側へと堕ちていく。
黄金のギコム畑をなぎ倒し、猫じゃらしのような草原を爆風で吹きとばす『怒り』。
その悲しい一撃を、西の山から悲哀の目で見つめる金髪の森人の少女、フィエル。
彼女は両手を祈るように組み、亡き同胞と森に住んでいたすべての生命のために祈る。
「もう二度と、こんな悲劇は繰り返させない」
そして、腰の鞘から風宝細剣をすらりと抜き、天へとかかげた。
「いまここに誓おう。私は⋯⋯私たちは! ハロルド・ラ・プリースを討ち! 亜人種を解放し! この地に平穏をもたらすと!」
フィエルのその姿を、ブバスティスの仲間たちは誇らしく見つめている。
そして、エータは彼女の肩に手をおき、お互いに微笑みあった。
「もうすぐ終わるんだな、この悪夢が⋯⋯」
フィエルはエータを見ながら言う。
「あぁ、終わらせて⋯⋯そして、始めるんだ」
エータは土煙舞うプリース王国をにらんだ。
「新しい時代を! 亜人種と人間が、手を取りあって生きていける世界を!」
そして、ブバスティスの面々に振り返り、力の限り叫んだ!
「行こう! 開戦だ!!」
エータたちはプリース王国・首都パイナスへと進軍をはじめた。
たくさんの人たちの悲しみ、祈りを背負い。
そして、その胸に熱い魂を燃やしながら。




