第134話〜無茶ぶり〜
パイナスを一望できる場所へと戻ったエータは、さっそくアイテムボックス内で薄めたケイミィの毒を撒くことに。
「聖域も診断も貫通するなんてヤバすぎるな⋯⋯」
エータはすこし躊躇しながらも、それを無毒な堆肥に混ぜ、パイナスの上空から散布した。
「アイテムボックス!!」
――――――
一方その頃、パイナス。
北の海の大爆発。
三万の兵士が逃げ、その先に城壁が出現。
これらを知った国民は大混乱となっていた。
「な、なぁ! 俺たちも逃げないとヤバいんじゃないか!?」
「でも、もしハロルド様の不興を買ったら⋯⋯」
「私たちにはオリオン様もロウル様も居る! あの方たちを信じて、ここに残りましょう!」
そんな話をしていると⋯⋯。
突如、天空から汚物が飛来。
「うわっ! なんだこりゃ!」
「くせぇ!」
「なにこれ! 目がかゆい!」
「はだびずもとばんでぇぞ!」
「聖域はどうなってんだ!?」
「は、早く病院か神殿へ!」
数十万人の民をかかえるパイナスはもはや混沌とし、押しつ押されつのパニック状態へと変貌。
「お、俺は逃げる!」
「逃げたら許して貰えるんでしょ!?」
「私も行く!」
城壁の無くなったパイナスは『逃げ放題』と言った様相で、必死に止めようとする騎士たちを跳ねのけながら、国民は三万の兵士たちのいる城壁へと走った。
その数、約二万人。
三十万ちかくの国民が居るパイナス全体で見ると微々たる数ではあるが、彼らの逃走が残った国民たちの不安をさらに煽った。
「お、俺たちも行った方が良いんじゃ⋯⋯」
「バカ! 口にするだけでも重罪だぞ!」
「騎士に聞かれでもしたら⋯⋯」
恐怖という名の鎖で繋がれた国民の足は重い。
――――――
プリース王国・城内。
修繕を急ぐ謁見の間。
不機嫌そうに玉座にすわるハロルド。
そして、その前に片膝をついて伏す、高身長細身のくるんっと巻いたヒゲの騎士。
「王国騎士団、遠征部隊・隊長スピルド。これはいったいどういう事だ?」
スピルドは顔を真っ青にし、ガタガタと震えながら答える。
「ハッ! 恐れ入りますがハロルド様! わ、わたくしめにも何がなにやらサッパリで⋯⋯」
ハロルドの身体から黄金のマナが噴出し、暴風を巻き起こす。
その姿にスピルドは大きく取り乱しながら口を開いた。
「ほほほ、本当なのでございます! お、鬼の住処は確かに占拠しました! 堕ちた英雄ダストンも、魔法女帝ギムリィも、たたた確かに亡き者にしたのですぅ!!」
ハロルドの怒りはおさまらない。
「では、あれはなんだ!? ブバスティス帝国とはなんなのだ!! 貴様! 鬼の住処を見たのであろう!!」
さらにマナの奔流が激しくなるハロルド。
「ひえぇぇ!! わ、わたくしめが行った時には、エータ・ミヤシタという者も! 大魔法を使う者も居なかったのでございますぅぅぅ! 本当なのです陛下ぁぁ!!」
スピルドはガチガチと歯を鳴らしながら恐怖におののいている。
どうやらウソを言っていないらしい、スピルドのその姿にハロルドは「ぐぅぅ⋯⋯」と、声を漏らし、マナをおさめながら、
「スピルドよ、自分で後始末をつけるのだ」
と、告げた。
スピルドは頭をあげ、鼻水を垂らしながらハロルドの方を見る。
「あ、後始末でございますか?」
「そうだ」
ハロルドは玉座にもたれながら言う。
「お前の隊で、あの城壁にいる裏切り者どもを始末しろ。それで許してやる」
「あ、あ、あの要塞を堕とすのでございますかぁ!?」
ハロルドはギラりとスピルドをにらむ。
「なにか、不服か?」
「めめ、滅相もございませんん」
そして、スピルドはビシッと敬礼をし、
「このスピルド! 我が身に変えても任務を遂行して見せます!」
と、こたえた。
(冗談じゃねぇぇ! 城を出たら真っ先にスメリバに亡命してやる!!)
どこまでもクズなスピルドはそんな事を考えている。
彼の思惑など、分かりきっているハロルド。
「とはいえ、貴様の隊だけでは心許なかろう。オリオンと数名の近衛騎士をつけてやる。ありがたく思うが良い」
「お、オリオンさまぁ!?」
顔面蒼白。
プリース王家に絶対の忠誠を誓っているバケモノ。
(に、逃げられねぇ⋯⋯)
オリオンがついてくるなら逃亡など不可能。
そう悟った彼。
(いや待てよ。オリオンが一緒ならワンチャン勝てるんじゃね?)
と、思考を切りかえ、
(そーだよ! アイツに全部やっつけてもらって、手柄だけ俺様のモンにしちまえば良いんだ!)
そんな結論に到達。
「騎士団長様がご一緒であれば、もはや任務は達成したような物! 副長シルドルの不始末は、このわたくし! 遠征部隊・隊長のスピルドが、きっちりとカタをつけますので!」
そう言ってスピルドは意気揚々(いきようよう)と、玉座の間の出口へと向かう。
「明日の明朝出発いたしますー! 必ずや、吉報をお持ちしますぞぉー!」
と、ルンルン気分で出ていった。
その姿を見てハロルドは大きくため息をつき
「近衛騎士に伝えろ、逃げるようなら背中から討てとな」
と、側近に耳打ちするのだった。




