第133話〜捕虜を守ろう〜
パイナスの南へと逃亡するマギラ率いる三万の兵たち。
ギコム畑を踏み荒らし、猫じゃらしのような草原へ到達。
もう少しで南の山へと入れそうだ。
「早く! 早く! 早く!!」
マギラは顔を真っ青にしながら早歩きしている。
と、そこへ上空から女の子を抱えた青年が舞い降りた。
「あぶねっ!!」
――破竜撃――
着地の瞬間に拳から地面へとマナを放つエータ。
その衝撃により、ふわりとその身をおろした。
「ごめんな、イーリン。怖かったか?」
エータはイーリンをそっとおろし頭を撫でる。
「んーん」
と、イーリンは顔を左右に振り、
「エータと一緒だから」
そう言って、ふんすっとサムズアップした。
(かわいい⋯⋯)
エータはほっこりとしながら、イーリンのほっぺをぷにぷにと触る。
「ひぃぃぃ!!」
ほんわかした雰囲気とは裏腹に、マギラをはじめ兵士たちは恐怖におののいている。
「降参! 降参します!! ブバスティス帝国の傘下にくだりますぅぅ!!」
マギラは杖を落とし両手をあげた。
その姿を見て、プリース王国の兵士と騎士もガチャガチャと武器をおろして両手をあげる。
完全降伏である。
先ほどの大魔法を使ったであろうギムリィとイギルは居ない。しかし、この黒髪の少年エータがひとりで大量の騎士を無力化し、無事に帰ったことを知っている。
2対30000でも分が悪いと踏んだのだろう。
マギラの判断は賢明である。
そんな大軍の姿を見て、エータはぽりぽりと頭をかいた。
「おう、良いぞ! ブバスティス帝国に歓迎する。戦争が終わるまで捕虜ってカタチになるけど、それでも良いか?」
「ももも、もちろんです!」
マギラは、にへらと口角をひくつかせて応えた。
その瞬間、兵士たちから光が漏れパイナスの方へと飛んでいく。
「おわっ! なんだ!?」
「私たちがプリース王国の民では無くなったので、ハロルドの富国強兵の効果が無くなったのかと⋯⋯」
「な、なるほど⋯⋯」
そうなると問題は無職の兵士たちである。
彼らはきっとゴブリン一匹に苦戦するほど弱くなっているはず。
そこでエータは三万の兵士たちをモンスターから守るため、簡易的な野営地をつくることに。
「ちょっと待ってな、お前たちがしばらく生活する場所を作るから。アイテムボックス!」
草原に手を向け、前の世界でいう『アパート』のような建物を設置するエータ。
そして、トイレと炊き出し所をいくつか設置し、兵士たちが踏み荒らしてしまったギコム畑からギコムを回収。
それを各炊き出し所へと脱穀し、粉末状にして麻袋に詰めて大量に置いた。
あとは調理具と調味料。
保存食なども少々。
パイナスを囲っていた城壁も利用し、モンスターが絶対に突破できないよう囲む。
門は一応、東西南北に作った。
そんなわけでエータは、パイナス近くの草原に捕虜の収容所という名の『ちいさな街』を作ってしまったのだった。
その過程をマギラたちはポカーンと口を開けてながめている。
「降参して良かった⋯⋯」
「マギラ様の判断に従ってなかったら俺たちは今ごろ⋯⋯」
「わ、私、夢でも見てるのかしら⋯⋯」
兵士たちからそんな言葉が聞こえてくる。
「すまん、こんなモンで良いか?」
マギラに問うエータ。
「ここ、こんな立派な場所を捕虜が使って良いのですか!?」
「さっきの放送でも言ったけど、プリース王国から逃げるヤツとは敵対しない。それと、ブバスティス帝国を建国した後には人手も必要だからな、モンスターからも守ってやる。命の保証はする、約束するよ」
そう言ってエータはマギラの杖を拾って、彼女に手渡した。
圧倒的強者の余裕な対応。
その姿にマギラは心から屈服し、
「エータ・ミヤシタ皇帝陛下の寛大なるお心遣い、深く感謝いたします。わ、私はマギラ・モーファ。ギムリィ・モーファの娘でございます」
と、片膝をついて頭を垂れた。
「ギムリィの娘!?」
「えっ!?」
突然の事実に驚く二人。
「じゃ、じゃあ! イーリンのお母さん!?」
イーリンとマギラを交互に見ながらエータは言う。
「い、いえ! 私は独り身ですので、妹のイギルの子では無いかと⋯⋯」
(あら? イギルから話を聞いていないのかしら⋯⋯それとも、とうの昔に死んだ? でも、だとしたらさっきの魔法は⋯⋯? なんにせよ、この子がイギルの娘なら好都合だわ。これで、殺される心配は無いはず)
マギラは、静かに呼吸を整えた。
と、そこへクロウガとライオが駆けつける。
「主! たった二人では危険すぎます! 先行しないでいただきたい!」
「そ、そうだぞ大将! 護衛する身にもなってくださいよ!」
クロウガはふわりと降り立ち、ライオは肩で息をしながらエータの後ろに立ち止まった。
「して、この者たちは?」
クロウガの鋭い眼光に、硬直する兵士たち。
「あぁ、降参して俺たちの傘下にくだるらしい。約束通り保護する流れになった」
あっけらかんと話すエータに、クロウガは「ふぅ⋯⋯」と、ため息をつき、兵士たちの方を向いた。
「貴様ら、我が主の度量の大きさに感謝するが良い。もし、舐めた真似をしてみろ。その時は⋯⋯」
クロウガの身体から漆黒のマナが立ちのぼる。
明らかな実力の差を感じた兵士たちはビシッと直立して、敵意が無いことをしめした。
「私が責任をもって兵士たちを律します」
マギラが口を開く。
「とはいえ、先ほどの大魔法を見て変なことを考える輩は居ないと思いますがね。絶対に敵にまわしたくありませんから⋯⋯」
その様子を見て、エータは「って言ってるからさ⋯⋯」と、クロウガを諭した。
「皇帝も、ここに居る兵士たちのほとんどが俺を認めたって言ってるし大丈夫だ。とはいえ、プリース王国の追手からも守ってやる必要があるな」
「えっ? 良いのですか?」と、驚いているマギラに、エータは優しく告げた。
「だってもう味方みたいなモンだし、俺たちもマギラさんたちが殺されたら困るからな」
(((ほ、本当に降参して良かった)))
そう思う兵士たち。
「ほんじゃ、オレが監視と護衛をしますかね」
「良いのか? ライオ」
「えぇ。こいつらが心から屈服したのは確認済みなんでしょう? なら、オレのスキルドライブの効果を受けるはずなんで」
エータはパチンッと指を鳴らした。
「なるほど! 確かにライオなら矜恃咆哮があるし、大軍の責任者としてうってつけだな!」
ライオは「でしょう?」と、ニシシと笑う。
「なんで、ここは任せて大将たちは次の作戦に行ってください。そこの女魔道士もなかなかやるようですし、遅れを取るこたぁ無いんで」
エータは「ありがとう」と言って、イーリンをお姫様抱っこした。
「我が主、拙僧もこちらを守りましょうぞ。空からの襲撃もあるやも知れませんので」
「オッケー! りょーかい! 頼んだぞ二人とも!」
そしてエータはイーリンと共に西の山へと飛んだ。
――――――
パイナスから西へと進んだ先にある山。
そこにあるブバスティス本陣へと、エータたちは帰還。
ブライたちに事の顛末を報告した。
「よし、大方予想通りだね」
顎に手を当ててブライは言う。
「それじゃあ次の作戦へと移行しよう。民衆の不安を煽る」
「ウチの出番だね〜」
ケイミィが手を口に当てながら笑う。
そして、上着の内側から一つの瓢箪を取り出した。
「一角牛鬼の毒糸とイビルテンタクルを配合した、スペシャルポイズン〜。これを何万倍も薄めて使ってね〜」
エータはアイテムボックスの中にそれを収納した。
「な、なぁ。本当に大丈夫なのか? コレ」
冷や汗をかいているエータに彼女は告げた。
「原液だと三分と持たずに死ぬかもね〜」
「うぉい!!」
「でも、薄めて使えばだいじょ〜ぶ〜! 涙と鼻水が止まらなくなるだけだよ〜」
本当にそうなのか?
心配になる一同。
「しかもね〜、これ診断にかからないんだ〜」
「診察に!?」
ケイミィは「そ〜」と、得意気だ。
「毒や病気では無いからね〜、身体が勘違いして〜、た〜だひたすら涙と鼻水が止まらないだけ〜」
「あー⋯⋯花粉症みたいなモンか⋯⋯」
前の世界を生きたエータは、それがどれほど凶悪な『バイオ兵器』なのかをいたく理解した。
「カモフラージュとして〜、堆肥もセットで降りそそげば良いよ〜。きっと大混乱だろうね〜、汚物による感染症かと思ったら〜、原因不明なんだから〜」
悪魔のように笑う彼女を見ながら、
(((この子だけは敵にまわさんとこ⋯⋯)))
と、思うブバスティス一同と闇夜の影一同なのであった。




