第132話〜逃亡せよ〜
大爆発とともに消滅する海を見ながら、三万のプリース王国軍とマギラはあいた口がふさがらないでいた。
人智を超えたチカラ。
それを目の当たりにしてしまったからだ。
「⋯⋯逃げましょう」
マギラがぽつりとつぶやく。
その言葉に側近の騎士が冷や汗をかきながら言う。
「ま、マギラ様。それは敵前逃亡という事でしょうか⋯⋯?」
マギラは目を丸くしたまま「そうよ」と、こぼした。
「だって⋯⋯だって、あんなの勝てるワケ無いじゃない! 尽滅魔法よアレ! 人類が追い求めた叡智の極み! 世界中の魔道士が目指す到達点なのよ!! それを!!」
マギラは恐怖に頭を抱えながら言う。
「た、ただの威嚇に使われたのよ⋯⋯」
近くの兵士たちがゴクリと固唾をのんだ。
マギラがなにを言いたいのか痛いほど理解してしまったからだ。
――お前たちなんていつでも殺せる。ブバスティス帝国は我々にそう示したのだと。
「お、王国ごと⋯⋯ただの一人も、遺体も残らず⋯⋯」
マギラはそうつぶやくと、ガクガクと笑う足を殴りつけながら立ち上がり、
「わ、私は逃げる! ジーニアス魔道国へ! あんたたちはどうするの!?」
と、鬼気迫る表情で言い放った。
兵士たちは顔を見合わせ、
「マギラ様についていきます」
「お、俺は国に家族があるから行けねぇ」
「正気ですか、マギラ様!」
と、混乱しているようだ。
そんな中、一人の兵士が前へ出る。
「マギラ様⋯⋯敵前逃亡は重罪です。しかも、戦争中のジーニアス魔道国へなどと⋯⋯」
彼の目の前に紅蓮の炎が巻き起こる。
「あんたバカなの!? 大バカなの!?」
マギラのアーツドライブだ。
彼女のギラギラとした目は、精神が完全におかしくなっているのを物語っている。
「プリース王国よりブバスティス帝国のほうが圧倒的に強い、私たちが数百万人いたって敵わない! 逃げるチャンスは今しかない! 戻ったらハロルドとロウルに殺される! 進めば尽滅魔法で魂ごと焼かれる! 選択肢はひとつしかないのよ!」
マギラは兵士に詰め寄った。
「私を裁くなら裁けば良い。あんなバケモノどもの相手をするくらいなら、あんたたち三万の兵士とやり合った方がまだ勝機があるわ!」
フンッと兵士に鼻息をかけたマギラは、南に向かって歩きはじめた。
「着いてくるなら守ってあげる! 攻撃するなら容赦しない! 今すぐ決めなさい! 私はもう行く!!」
そう言って腕を振りながらずんずんと進む。
兵士たちは顔を見合せ、そのほとんどがマギラについて行った。
――――――
その様子をエータたちは遠くからながめている。
「ん? アイツらどこ行ってんだ?」
首をかしげるエータにライオは言う。
「まさかとは思いますが、逃げてるんじゃねーですか?」
「逃げる? でも、パイナスから離れてるぞ」
それにクロウガも続く。
「主。きっと、拙僧らとプリース王国。双方から逃げ出したのかと」
「プリース王国からも?」
「さようです。処罰をまぬがれるために⋯⋯」
「あー⋯⋯」
エータはプリース王国の繋がりの弱さを痛感していた。
「恐怖政治は、それ以上の恐怖が襲ってきたら終わりってワケか⋯⋯」
「ともに良い国をつくりましょう。主」
スッキリしたような顔でほほえむクロウガに、エータはやれやれと言った様子で「そうだな」と、ほほえみ返した。
「あれだけの人数が逃亡すると周辺に混乱が起きそうだな。ブバスティス帝国に来ないか誘ってみるか」
エータの言葉にライオは静かにうなずいている。
「良いと思いますぜ。軍事力は数も大事ですからね」
そして、逃げる兵士を見ながらフンッと笑い、
「腰抜けどもでも、ブバスティス建国後の防衛くらいには使えますでしょう」
バカにするようにそう吐き捨てた。
「それじゃ、行くか」
エータはイーリンをお姫様抱っこし、身体強化、高速飛行、迅速で空へ駆ける。
その後をクロウガが翼を広げて追った。
「あー! 大将たちずるいっすよ! くそっ!!」
その後をライオは走ってついてきた。
――――――
王城の最上階にある自室から、自軍が逃げているのをながめているハロルド。
「な⋯⋯なんだあれは⋯⋯」
三万の兵士が根こそぎ逃げ出したことには腹が立つ。
だが、それよりも⋯⋯。
「あんなものが我がパイナスに直撃していたら⋯⋯」
イーリンの放った魔法の威力に戦慄していた。
「陛下」
オリオンが冷や汗をかきながら話しかける。
「なんだ! いま我に話しかけるな!!」
「⋯⋯魔法大臣のマギラ様が逃亡したようです」
「うるさい! うるさい!!」
ハロルドは机の上にある、豪華な装飾のなされたコップを投げつける。
オリオンは水びたしになりながらも話を続けた。
「至急、対応しなければなりません。ご指示を」
ハロルドは「ぐぅ⋯⋯」と、声を漏らし、
「あのバカ娘を連れてこい。新しいオモチャを仕入れてやるから手を貸せと⋯⋯」
「⋯⋯承知しました」
オリオンは踵を返し、ハロルドの自室を後にした。
「ギムリィは死んだのではなかったのか⋯⋯? くそっ! あのスピルドとかいうヤツめ⋯⋯! 適当な報告をしおって!!」
怒りに任せて机をなぐるハロルド。
それは衝撃に耐えきれず二つに割れた。
「こうなれば徹底抗戦だ⋯⋯! この街から逃げる民も容赦しない」
ハロルドは気持ちを落ち着かせ、王族のマントを羽織り、冠を被って部屋を出た。
赤いカーペットのひかれた道を威風堂々と歩く。
「この国のため、どんな犠牲を払ってでもヤツらを殺す」
(邪魔をするものは許さない。かならず叩き潰す。ブバスティス帝国⋯⋯!)




