第131話〜陰陽太極・尽滅魔法〜
完璧な陣形をたもち、エータたちの居る西の山へと進軍するプリース王国軍。
その数、約三万。
次々と現れる兵士たちがいくつもの四角形の陣をつくり、横五列、縦三列に並んで進んでくる。
その中央には本陣。
齢45にして魔法大臣を務める才女、マギラが指揮をとっていた。
「ヤツらは少数でプリース城を襲撃し、逃げきったバケモノよ! 気を引き締めなさい! 最悪、西の山を焼き払うわ!」
マギラは叫ぶ。
(さっきは不覚をとったけど遠距離戦なら負けないわ。だって私は、あの魔道女帝ギムリィの血をひいてるのよ)
マギラは地位を利用して得た魔道武器『不死鳥の杖』をギュッと握りしめながら思った。
「ブバスティス⋯⋯。ギムリィ母さんは死んだって聞いたけど⋯⋯イギルはまだ居るかも知れないわね。あの子のアーツは氷結操作。どちらがより理に近付いたのか、勝負しましょう」
マギラは「全軍、その場で待機!」と、命じた。
そしてフェニックスロッドを掲げ、天空を割くほどの大声で叫んだ。
「この世界の真理の扉! その一つ! 地獄門から業火を呼びだす!」
マギラの身体が烈火のごとく真紅に輝きはじめる。
「私はいつか! 母さんを超える!!」
マギラのマナが魔道武器へと吸収され、大気が振動をはじめた。
「喰らいなさい!! イギル!!!」
――大炎界・焦熱地獄――
軍隊の先頭に全長1キロはある巨大な炎の門があらわれ、そこから灼熱の炎が発射された。
その炎は西の山を焼きつくさんと猛スピードで進む。
――一方、その頃エータたちは。
「来たぞ、イーリン」
「おぉー、すごい魔法」
「大丈夫かよ、ちびっ子」
「ライオ殿、心配ありますまい。イーリン殿の実力は拙僧らも周知するところ」
余裕をもってその炎をながめていた。
「それじゃ、頼んだ」
エータの言葉にこくりとうなずき、イーリンはギムリィのお墓から借りた杖をくるくるとまわした。
「エータ、頭なでて」
炎を見たまま言う彼女。
「えっ?」
突然の申し出に呆気にとられたエータだったが、ちいさくて可愛らしい彼女の頭を、ほほえみながらやさしく撫でる。
「頼りにしてるぞ、イーリン」
イーリンは「むふー!」と、満足気にしている。
そしてせまりくる炎へ、ビッと杖を向けた。
「魔法なら、負けない!」
バチバチと赤と青の光をはなち始めるイーリン。
それは螺旋をえがくように、彼女の足から頭にかけて上昇していた。
「チカラを貸して! おばあちゃん!」
その二つのエネルギーは、はるか上空で陰陽太極図のカタチとなり回転をはじめた。
「相反する二つの魔素、理を持ってこれを顕現す」
赤と青のエネルギーは更に回転を増す。
「動を持って静と成す、零を持って熱と成す」
大気を吸収するかのごとく、ぶつかり合うエネルギーが強風を巻き起こす。
「開かれしは万理の扉、開かれしは真理の扉」
太極図からバチバチと電流のような物が走る。
近くの木々はバサバサと揺れ、小動物たちが恐怖に逃げはじめていた。
「我等、一を以て、此処に全を誓わん!」
「これは⋯⋯!」
「ババア⋯⋯」
クロウガとライオが驚きの声をあげる。
そしてエータは、涙を浮かべていた。
「ギムリィ、やっぱりそこに居たんだな⋯⋯」
イーリンの背中にギムリィの姿が映し出され、彼女の肩をそっと抱いていた。
空に描かれた太極図が、より回転を増し激しく金色に輝く!!
イーリンは背中に暖かい光を感じ、それが何なのかを深く理解しながら思いきりマナを解放した!!
――陰陽太極・尽滅魔法――
極光をはなつレーザービームのような物が三万の兵士たちに向かって放たれた。
それはマギラのアーツドライブなどまったく意に介さず、時空をゆがませながらすべてを『消滅』させていく。
勢いを落とすことなく、その破滅の光は敵陣へと向かう。
「ひえぇぇああぁぁ!!」
マギラは腰がくだけ、地面を黄色い液体で染めた。
「ま、マギラ様! あれは!?」
「誰よ! ギムリィ母さんが死んだなんて報告したバカは!!」
マギラは歯をガチガチと鳴らし、涙目になりながら襲いくる極光を見る。
「母さんとイギルだわ⋯⋯。ダメ⋯⋯みんな死ぬ⋯⋯私も⋯⋯あは、あはは⋯⋯」
「マギラ様! ご指示を! 防御魔法を!」
「うわっ! うわぁぁぁ!!」
「もうダメだぁぁー!!」
プリース国の軍団が死を覚悟した瞬間。
極光は大きく軌道をかえ、北の海にそのエネルギーを爆発させた。
――ギュゥワァァン⋯⋯。
爆発の後。それはブラックホールのように時空そのものを飲み込み。
半径8キロほどの球体となりながら、海と大地をこの世から消し去った。
はるか遠くリヴァイアサンの咆哮が聞こえる。
それはまるで『海の一部を消滅させたこと』を怒るような、イーリンの魔法に恐れおののいているような。そんな声であった。




