第130話〜この国には地獄を見せる〜
空中を舞うエータ、フィエル、クロウガ。
プリース王国の空を守る敵はエータが先だって無力化しているので、悠々自適な空の旅である。
「ブライの言うとおりにしたけど、本当にこれで良かったのかな」
エータは城を振り返りながら言う。
(愚者は優しさを見せるとつけ上がる。あくまで対等な立場として、相手が舐めてかかれば、こちらも舐めた態度で応対しなさい。エータ)
ブライの言葉が脳裏をよぎる。
「ブライ殿は正しいですぞ、我が主」
クロウガは口を開いた。
「上にたつ者が必要以上の優しさを見せても問題ないのは、周りが聡明である場合のみです。性根の腐った者には、真摯に対応したところで下に見られるだけですので」
「それはなんとなくわかるけど⋯⋯」
交渉と呼べるのかすら怪しいハロルドとの対談。
火に油をそそぐような結果になっただけでは無かろうかと、思うエータ。
そんな彼の心中を察し、フィエルも続く。
「こちらは出来るかぎりの譲歩はした。奇襲をかければ、とっくにこの国を制圧している。実力の差を見せたのに、戦争をのぞんだのはハロルドだ。エータが気にする必要はない」
二人の言葉にエータは決意を固めた。
「そう⋯⋯だな。作戦を開始しよう」
そう言うとエータは「アイテムボックス!!」と叫び、パイナス周囲に高くそびえる壁を一気に回収した。
「なに!?」
「じょ、城壁が!」
「なにかのアーツか!?」
多少のことには動じないパイナスの民衆もこれにはさすがに驚いている様子。
「フィエル、行くぞ」
「あぁ!」
フィエルは大量のマナをフィンへと渡した。
フィンはパイナス上空をおおう程の風のマナを作りだす。
それは超巨大なスピーカーとなって、この世界に顕現した。
そしてその風はエータの声とリンクしているようだ。
「聞こえているか、プリース王国よ。俺は人間と亜人種の共存をのぞむ月女神バスティ様によりこの世界バハスティフに送られた使徒。エータ・ミヤシタだ」
突如として聞こえてきた大気を震わせる爆音。
少年の声。
パイナスの民は日常の営みの手を止め、家屋にいた者は外へ。
散髪中のマダムや内装工事中のおじさんまでもエータたちの姿を一目見ようと集まっている。
ハロルドはことごとく破壊された謁見の間から、その様子を顔を真っ赤にして見ていた。
「バスティの使徒だと? いったい何を⋯⋯!」
エータはブバスティスの会議で作ったセリフをたんたんと述べていく。
「俺はこのコクシ大陸にて『ブバスティス帝国』なる国を興し、その数こそ少ないものの、人間と亜人種が手を取りあって暮らす理想郷を実現している」
エータは空を飛びながら続ける。
「本日、俺は人間同士での争いと、亜人種迫害を続ける愚かなる王、ハロルド・ラ・プリースに、ブバスティスを国として認めること、侵略行為の停止、亜人の奴隷解放の三つを打診した」
エータの言葉にざわつく民衆たち。
「戦争行為の停止?」
「バスティ様の使徒って、なにをバカな」
「でも城壁が消えてるって非常識なこと起きてるし、この変な声も相当な大魔術じゃねぇか?」
「衛兵は何をしてるんだ!」
「亜人の解放って、そんな事したら俺たちの生活はどうなる?」
「バスティ様が亜人は劣等種って言ったんでしょ?」
戦争と奴隷の恩恵を受ける人間は、エータの言葉に否定的な者が多いようだ。
しかし。
「バスティの⋯⋯使徒様?」
「私たち、助かるのかしら」
「いや、ムリだろう。変に期待するのは辞めるんだ。反動で死にたくなるよ」
「でも⋯⋯もし本当なら⋯⋯」
「亜人への扱いが酷いヤツも居るしな⋯⋯気持ちは分からんでもない」
亜人種はもちろん、人間の中にも肯定的なものが居るようだった。
エータは続ける。
「しかし、ハロルドはその提案を跳ねのけ、俺たちに対し攻撃をしかけた。そこで、俺はバスティ様から授かったアーツ【収納箱】により、この国を滅ぼすと決めた」
さらに混乱する民衆たち。
「いまから24時間。猶予をやる。プリース王国の民よ。この国と心中するか、捨てるかを選べ。そのために壁は消してやった。逃げる者は見逃してやる。モンスターの驚異からも保護しよう。決めるのはお前たち自身だ」
エータはプリース王国のせいで傷ついた人たちのことを思い出していた。
そして、
「この国には、地獄を見せる。以上だ」
と、吐き捨て、風のマナとのリンクを解いた。
「よし、次の作戦に移ろう」
「あぁ!」
「承知!」
――ブライたちの待つパイナス西の山へと飛ぶエータ、フィエル、クロウガ。
そんな彼らを黙って見逃すわけもなく、パイナスから騎士たちが西の方へと集まってきていた。
その数、約三万。
装備を失ったものがほとんどである。
なので、そこらの武具屋で買った粗末なものを持つものばかりだ。
「不覚だわ⋯⋯」
魔素供給によりマナが回復した魔法大臣マギラは、王城での無様な姿を恥じていた。
(ここで信用を取り返さないとマズイわね、ハロルド様からどんな処罰を受けるか⋯⋯)
恐怖という鎖で繋がれた彼女は、城壁の無くなったパイナスの元西城門前で兵士たちの指揮を取っている。
「賊は西の山へ向かったらしいわ! 急ぎ進軍し、ヤツらを捕らえるわよ!」
――その様子を西の山から見るエータたち。
「さて、やってきたね」
ブライは余裕な表情を浮かべてこぼす。
「ビートの牙狼穿の予定だったけど、どうする?」
エータが聞く。
と、そこへ闇夜の影に護衛されながらイーリンやピグリアムも戻ってきた。
「エータ、お疲れ様」
「いや〜! エータが城を攻める前に移動してて良かったね〜!」
人間と亜人が入り交じる混成部隊『闇夜の影』に戸惑うブバスティスの面々。
どうやら、エータが城壁の衛兵をすべて片付けたことでこちらに逃げることが出来たようだ。
「おかえり、イーリン、ピグリアム。そして、ありがとう! 闇夜の影のみなさん!」
エータは闇夜の影の代表ヒョウドルと握手をする。
そのままブライたちに闇夜の影に助けられたことを伝えた。
「パイナスの偵察に御助力いただいたのか。そしてピグリアムと同じく、ロックハート孤児院出身⋯⋯」
見た目こそイカついが善人であるらしい。
話を聞いて警戒を解くブバスティスの一同。
「イーリンが帰ってきたなら話は早い、彼女に任せよう」
ブライは告げる。
「イーリンに?」
と、首をかしげるエータ。
話が見えないイーリンは「んー?」と、可愛らしくエータとブライを交互に見ている。
「フフッ⋯⋯威嚇にはうってつけさ。魔法のことを知る者なら、きっと見た瞬間に国を捨てるほど恐怖するだろうね」
不敵な笑みを浮かべるブライ。
なにがなにやらわからないが、確かにイーリンは強い。
エータは彼女に任せることにした。
「イーリン、大きな魔術いけるか?」
その言葉に目をキラキラと輝かせるイーリン。
「えっ!? いーの!?」
「お、おう」
嫌な予感がしたエータは「ただし、人には当てるなよ? おどかすだけだからな?」と、釘をさした。
「りょ!!」
イーリンは可愛く敬礼をし、ぴょんぴょんと跳ねながら三万の軍勢へと向かっていく。
「何人か護衛に行こう」
そんなわけで、エータ、ライオ、クロウガの三人は、ウキウキで戦地に向かうイーリンのあとを追うのだった。




