第129話〜王との対談〜
「ムダに広いな」
エータは迷子になっていた。
騎士たちが遠目に警戒する中、涼しい顔をしてズンズンと進んでいるが、かんっっぜんに迷子になっていた。
(おいぃぃ!! 誰か案内しろよ!! 勝てないのわかっただろ!!)
余裕の笑みを浮かべ、ガチャガチャとトビラを開けてまわっているが、
(時間が無いってのにもぉぉぉお!)
と、内心焦りまくっていた。
そう、エータはかんっっっっぜんに迷子になっていた。
王室や玉座がそんじょそこらにあるわけが無いのだが、お城なんか行ったこともないエータにとってそんな事は知らない。
彼はトビラというトビラを開けてまわった。
そして⋯⋯。
「ん?」
エータはふと胸の中に熱いものを感じた。
「これって⋯⋯」
それがイーリンに火炎操作を渡したときの感覚に似ていることに気付いたエータ。
胸の高鳴りに導かれるように、とある部屋の前へと歩みを進める。
「ここか? ダストン⋯⋯」
胸に手を置き、問いかける。
見た目のわりに軽いしっかりとしたドアを開けると、そこは美しい甲冑が飾られた広い部屋だった。
来客を迎えるためのテーブルと四つのイス。そして、奥には書き物をするための一人用のテーブルと立派なイス。
壁には横にして飾られたウォーハンマーがあった。
(あれだ⋯⋯)
吸い込まれるようにウォーハンマーへと向かう。
――ドクンッ
胸の奥で彼が言っている。
――持っていけ、と。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
エータはそっとそのウォーハンマーをアイテムボックスの中に収納した。
すると、
「私の部屋に許可なく立ち入らないでいただけますか?」
一人の騎士が声をかけてきた。
その騎士は、白金に輝く立派な鎧を身にまとった、端正な顔立ちの男性だった。
彼はさらりと青い髪を片手でたくしあげ、エータの元へと近寄る。
そして目の前で立ち止まり、片膝をついて頭を垂れた。
「異国の王よ、部下の無礼をお許しいただきたい。私の名はオリオン・バークライト。プリース王国・騎士団長を務めております。王がお待ちです。どうぞこちらへ」
エータは「あぁ、ご苦労」と言って騎士団長の顔を見た。
(強いな⋯⋯)
マナを抑えている彼から只者ではないオーラを感じ取る。
――迷子を脱却し、オリオンの後に続くエータ。
赤いカーペットが続く豪華な廊下を歩き、巨大な木造のトビラの前に来た。
「どうぞ」
門を守る二人の騎士が息を合わせてトビラを開く。
広々とした空間にステンドグラスから陽光がさす。
その奥に大きな玉座があり、偉そうに頬杖をついたヒゲモジャの男が座っていた。
頭には巨大な宝石がついた冠。
肩から赤い立派なマント。
(こいつがハロルド・ラ・プリースか)
ブライの話を聞いた限りでは70代のはずなのだが、40代くらいにしか見えない。
艶やかな金髪をキレイに整えた性格の悪そうなおじさんだ。
「貴様か? 我に拝謁したいと城内に侵入した輩は」
どこまでも上から目線のハロルドに、エータは堂々とこたえる。
「拝謁ってのは『身分の高い者に会うとき』の言葉だ。俺は『会って話をさせろ』としか言っていないぞ」
エータの不遜な態度に、オリオン含む近衛騎士たちは殺気立っている。
それをハロルドは右手を平にし、余裕な表情でおさめた。
「失礼。貴殿は異国の王であったな。我はプリース王国・国王・ハロルド・ラ・プリースである。今日は何用で参った」
児戯に付き合ってやると言わんばかりのハロルドの態度。
「俺はコクシ大陸西・鬼の住処に居を構える『ブバスティス帝国』の皇帝・エータ・ミヤシタだ。今日ここに来たのはプリース王国と交渉をするためだ」
「鬼の住処だと⋯⋯?」
ハロルドの眉がピクリと動く。
「報告では制圧したと聞いたが⋯⋯」
エータに聞こえないほどのちいさな声で、ハロルドは漏らした。
エータは続ける。
「俺がプリース王国に求めること、それは一つ『ブバスティス帝国を国として認めること』。二つ『他国への侵略行為を停止し、和平条約を結ぶこと』。三つ『亜人種への奴隷制度の撤廃』。以上だ。これら三つの内一つでも飲めない場合は、即刻、この国を敵対国と見なし開戦する」
――ざわつく謁見の間。
ハロルドは思わずクックと笑い、「して、返事はいつ頃までに出せば良いのかな?」と、こたえた。
エータは「いますぐに」と、こちらも余裕の笑みで返す。
それを聞いたハロルドは右手で顔をおおい、ついに大声で笑い始めてしまった。
「それはそれは⋯⋯! 我が城へ招待状も無しに乗り込み、騎士をことごとく辱め、あげく、我が国の国益を損なうような内政干渉をつらつらと⋯⋯」
その言葉を聞いたエータは呆れたような表情を浮かべた。
「もう甘い汁は吸い飽きただろ?」
そう吐き捨てる。
ハロルドは笑うのを止め「確かに貴殿は王のようだ」と、エータの顔をまじまじと見た。
そして、大声で叫んだ。
「その不遜な態度だけはな!」
刹那。
見計らったようにエータに襲い来る近衛騎士たち。
「アイテムボックス!」
エータは騎士たちの装備という装備を奪う。
しかし、ハロルドとオリオンの装備は奪うことが出来なかった。
――ピコンッ!
――――――――――――
使用者のマナが通った武具は収納できません。
――――――――――――
「なるほど、そうなのか」
エータに向かって大剣を振りかざすオリオン。
その剣はおよそ人間が扱えるとは思えないほど巨大だが、オリオンはそれをバットでも振るように軽々と使いこなしている。
「はぁぁぁぁあ!!」
大剣にマナを込めるオリオン。
一等星のごとき輝きを放ち、それは放たれた。
――蒼輝巨星――
オリオンは頭の上から足の爪先まで、大地を一刀両断するかのごとく大剣を縦に振り下ろした。
エータはそれを横に大きく跳躍し、回避。
――バキバキバキッ!
と、オリオンが振り下ろした場所は一瞬にして、巨大な氷のフィールドへとその姿を変えた。
「氷魔石か!?」
身体をひるがえしながらエータはオリオンを見る。
オリオンは次に横になぎ払うような構えを取った。
(来る!!)
また氷系のアーツドライブだろうと予測をし、エータは次の回避行動へと移った。
――赫輝巨星――
なんと、赤く燃えさかる灼熱の波動がエータを襲う!
「なに!?」
予想外の攻撃に一瞬判断が遅れるエータ。
「ぐっ!」
――氷河期――
咄嗟に冷気の波動を作りだし、なんとか防御。
二つのアーツドライブはぶつかり合い、謁見の間は濃い霧につつまれた。
それをハロルドは拳圧で吹きとばす。
「なかなかやるでは無いか」
玉座にすわったまま、ニヤニヤと不快な笑みを浮かべるハロルド。
軍事国家は伊達ではない。
オリオンもハロルドも、なかなかやるようだ。
「お前もな」
と、エータはにやりと返した。
三人の人外な戦いぶりを見て、装備をうばわれた騎士たちは動けないでいる。
エータは視線のみを動かし状況を確認。
そして、
「交渉は決裂ってことで良いな?」
と、最後の確認をした。
オリオンはハロルドを守るように立ちふさがり、大剣をこちらに向けている。
騎士団長に守られたハロルドは、またしても頬杖をついてこたえた。
「そうだな。ダストンでもギムリィでも連れて攻めてくるがよい。もはや、彼奴等はこの国には不必要な存在だからな。戦死したとて構わん」
「なに?」
エータは眉間にシワを寄せる。
そんな彼を気にも止めず、ハロルドは続ける。
「いまこの国に必要なのは農家だ。軍事力は十分にある。兵糧さえあれば、豊かなギコム畑を有するスメリバの大地も手に入ろう。まぁ、そちらの戦力を気にする必要もない。ダストンもギムリィも『死んだ』そうだからなぁ」
馬鹿にするように笑うハロルドにエータは「あー、そうかい」と、こぼし。
「じゃあ、この能力がノドから手が出るほど欲しいだろうな!」
と、叫びながら天に向かって右手をかかげた。
「アイテムボックス!!」
謁見の間の天井に大きな穴が空いたと思いきや、空から二つの影が飛びこんだ!
「なんだ!?」
オリオンは身構える。
「お前たちは!」
ハロルドは頬杖を解き、前かがみとなって身を乗り出す。
そこには漆黒の肌と美しい翼をもった有翼族。鴉天狗一族・族長、クロウガと。
金色の長いポニーテールに美しく伸びた手足。その足に風のチカラを宿した耳長の森人、フィエルが立っていた。
二人はクロノハバキリと風宝細剣を、ハロルドとオリオンに向けて言う。
「我が主を迎えに来た」
「皇帝陛下のお慈悲を無碍にしたことを後悔するがいい」
そう言ってフィエルはエータの足に風のブーツを作りだす。
「逃げられると思っているのか?」
ハロルドはついに立ちあがり、拳を白く光らせている。
オリオンも大剣にマナを込めて構えた。
その姿をあざわらうようにエータは言い放つ。
「捕えられると思っているのか?」
エータが言い終わると同時に、オリオンが高速でこちらへと斬撃を放った。
――赫輝巨星――
横一文字に火炎の斬撃が走る。
――須佐之男――
クロウガはそれを漆黒の斬撃にて切りはらった。
「うわぁぁぁ!!」
「逃げろ!!」
オリオンのアーツドライブの余波が後ろにいた騎士たちの元へ飛ぶ。
ハロルドたちの位置からエータを狙うと騎士に被害がおよぶ。そんなことはお構いなしに、ハロルドは大きく身をよじり攻撃の構えに転じていた。
――王之遺産――
放たれた拳圧は、巨大な波動となってエータ一行を襲う。
と、エータたちはアイテムボックスにより大きく空けられた天井の穴に向かって跳躍。城の外へと飛びだした。
ハロルドの攻撃により大きな音を立てて破壊される城の壁。
「これから暑くなる。風通しがよくなって良かったな!」
エータは空を飛びながら城に向かってさけぶ。
その様をハロルドは目をピクピクさせながら見送った。
「えぇい! 魔法部隊と狙撃部隊はなにをしておる!」
エータ達への怒りをハロルドのアーツドライブでそこらに転がった騎士たちにぶつける。
騎士たちは慌てふためきながら、謁見の間を後にした。
「追いますか?」
オリオンはハロルドに問う。
ハロルドはフンッと言い、
「構わん、興がそがれたわ。急ぎ、大工を呼び修理させろ。この謁見の間を見るだけで腹が立つ」
と、イラつきながら答える。
「はっ!」
オリオンは胸に手を当てて返事をした。
「はぁ⋯⋯こんな時にロウルはどこへ⋯⋯。肝心なときにいつもおらぬ」
ハロルドのその言葉にオリオンは眉をしかめた。
「ロウル様は新しい奴隷が手に入ったとの事で⋯⋯」
それを聞いてハロルドは納得したような顔を見せる。
「地下闘技場か⋯⋯まったく、アイツの悪癖はどうにかならんもんか」
「心中、お察しいたします。陛下⋯⋯」
そういうとオリオンは「それでは、私はこれで」と、足早に謁見の間を後にした。
謁見の間を出たオリオンの胸中は穏やかでは無い。
(本当にヤツらを放置していいのだろうか。ヤツらは強い、それに⋯⋯)
オリオンは賊がアイテムボックスを使っていた事。それがなにを意味するのかを考えていた。
――――――
同時刻。首都パイナス北。
地下闘技場。
金網の張られた円形のリング。
中世のコロシアムを思わせるその闘技場の真ん中に人間と亜人の男が二人。
傷だらけの彼らは背中を預けあい多種多様なモンスターに囲まれていた。
それを嬉々としてながめる仮面を被った紳士淑女たち。
「なんてムゴいことを⋯⋯」
青いドレスを身にまとい、鳥を模した仮面をつけたレディが、観客席に座りながらぽつりとこぼす。
その隣でベタベタとそのレディを触りながら、ゴテゴテと下品に装飾をつけたタキシードの男がささやく。
「お気に召さなかったかな? ルリィ⋯⋯。パイナスで選ばれた者しか入れない娯楽施設。気に入って貰えると思ったのだが⋯⋯」
「い、いえ⋯⋯バイス様とご一緒できるのであれば、私はどこでも心が踊りますわ。ただ、もっと静かなところで二人きりの方が好みなのでございます」
ルリィと呼ばれた女性の言葉にバイスは心底喜び「かわいいルリィ⋯⋯あとでたっぷり可愛がってあげるからね」と、耳元でささやいた。
ルリィは毛羽立つ肌をこすりながら、バイスの腕によりそった。
――――――
「シロウのおっさん⋯⋯生きてるか?」
大量のモンスターをにらみながら傷だらけのビートが背中のシロウに問う。
「無論。それより、弓をうばわれたビート殿こそ無事でござるか?」
ところどころ皮膚が焼け、頭から血を流すシロウ。
二人は肩で息をしながら、必死にモンスターたちの攻撃をさばいている。
その様子を闘技場の特別観覧席にてながめる二つの影。
「あら〜ん! イケメンが血だらけになる姿って、なんでこうもゾクゾクしちゃうのかしら〜!」
エルフの女性を四つん這いにさせ、その上に腰かけたモヒカンの男が身体をくねらせながら言う。
「やはり闘技場は良いですわねぇビュフィム」
炎魔石を使った扇子『紅孔雀』をひらき、口元を隠しながらほくそ笑むロウル。
「しかしあの二人、モンスターを殺しませんわねぇ⋯⋯。これではしらけてしまいますわ」
つまらなそうに言うロウル。
「そうねぇ、どうしたのかしら。ちょっと発破かけてみましょ」
そういうとビュフィムは立ち上がり、闘技場に向けて大声で叫ぶ。
「オラ! なにチンタラやってんだ! モンスターに情けでもかけてんのかぁ!!」
ロウルも続く。
「そのバトルフィールドに居るモンスターを全員倒せたら、そこから出してさしあげてもよろしくってよ!」
ロウルのその言葉にビュフィムは「ほんとぉ〜?」と、にやついている。
ロウルは「倒せたら、の話ですわ」と、にちゃりと醜く笑った。
ビートとシロウはその声を聞いて心底イラついていた。
「ヤなこった!!」
ビートが叫ぶ。
「モンスターとは言え、この者たちに罪は無い!」
シロウも続く。
ビートは戦闘の構えを解き、ロウルとビュフィムに向けて指をさした。
「良いか! 俺は狩人だ! モンスターを殺して生きてる!」
それを見たモンスターたちがビートに向かうが、それをことごとくさばくシロウ。
ビュフィムは「ぷっ! じゃあ殺しても問題無いじゃない」と呟いた。
しかし、高貴な魂を持ったビートは告げる。
「でもな! それは『生きるため』だ!! 命を弄ぶためじゃねぇ!!」
観覧席のバイスは「綺麗事だな⋯⋯」と、つぶやく。
その隣でルリィは、仮面の下で涙を流していた。
「いくらでも連れてこいよ! 俺たちは一体のモンスターも殺さねぇ!! 俺たちの仲間がかならず助けに来るからな!!」
ビートの身体が真紅のマナに包まれる。
そして、目から煌々(こうこう)と、光を漏らし告げた。
「その時がお前たちの最期だ、吠え面かきやがれ!」
ビートの圧にモンスターたちはたじろいでいる。
「んんー! ステキ!!」
ビュフィムは股間をふくらませながら、恍惚の表情を見せる。
「興奮している場合ではないでしょう、ビュフィム」
ロウルは紅孔雀をパシンッと閉じ「あなたのアーツで現実を見せてあげて」と、ビュフェムに指をさす。
「えぇ〜、良い男なのにもったいな〜い! でもぉ」
ビュフィムは鞭を床に叩きつけ、身体に黒いマナをまとった。
「ロウル殿下の命令なら、従うしか無いわよねぇ〜」
――下僕支配――
ビュフィムのマナに呼応するように、モンスターたちの身体に黒いモヤがかかる。
そして⋯⋯。
――グォォォォ!!
オーク、ミノタウロス、ポイズンスパイダー、一角兎、ゴブリン、オーガ⋯⋯。
様々なモンスターが悲鳴のような鳴き声をあげ、ビートとシロウに襲いかかった!
(大丈夫! かならず来る!)
(拙者たちは、ただ耐えるのみ!!)
――心に希望の火をともし続ける二人。
そんな二人をあざ笑うかのように、パイナスの地下にはモンスターたちの雄叫びと、人間の醜い歓声が響いた。




