第128話〜正面突破〜
プリース王国・首都パイナス。
中央に巨大な王城を構え、円を描くように貴族街、商店街、平民街、貧民街、スラム街と広がる、三十万の民が住む大都市である。
その広さは、半径6キロメートル強と、コクシ大陸の中でも随一であり、国民は現国王ハロルド・ラ・プリースのアーツ【富国強兵】により、ステータスが大幅にアップしている。
その牙城を崩すのは不可能とされており、高さ10メートルほどの白い壁が、ぐるりと都市を囲っている。
狸人の隠密部隊の情報により、壁の上には、魔法部隊、狙撃部隊、聖域作成部隊が控えており、三交代制で24時間、常に人がいることがわかった。
――しかし、その情報さえ手に入ってしまえば、エータにそんな物は一切の障害にならない。
――身体強化――
――迅速――
――高速飛行――
――変化――
――魔素奪取――
エータは一羽のカラスに変化し、探知にかかることなく、壁上にいる衛兵たちを次々と倒していく。
その姿は、まるでマナを吸い取る風のようだ。
プリース王国が異変に気づいた時には、すでに国の防衛機能は完全に麻痺。
報告へ戻ることすら出来ず、衛兵としての意味をまったく成さない。
すべての衛兵たちをマナ切れで気絶させたエータは、感知されることなく、王宮の入口への道を堂々と歩みはじめた。
――――――
プリース城・城門前。
二人の騎士が、見たことのない衣服に身を包んだ、黒髪の少年を視認する。
「おい、貴様。どこから迷い込んだ。高貴なる方々に見つかる前に早々に立ち去れ」
騎士が長槍をクロスさせて、エータの歩みを止める。
「俺は、コクシ大陸西に居を構える『ブバスティス帝国』皇帝・エータ・ミヤシタだ。プリース王国・国王・ハロルド・ラ・プリースに話がある。通してもらいたい」
二人の騎士は顔を見合わせ、
(なんだコイツ)
(頭でもやられたのか?)
と、嘲笑するような、面倒くさそうな表情をした。
そして、
「それ以上すすめば捕縛する」
「俺たちの優しさがわからないのか? 貴族に見つかったら罪に問われるぞ坊主。これは最後通告だ」
と、エータに長槍を向けた。
「頭が高ぇ⋯⋯」
エータは、身体から一気にマナを解放した。
太陽の光をも、ものともせず、エータから放たれる白光は、その輝きですべてを塗りつぶす。
「な、なんだ!?」
「マナの塊⋯⋯!」
エータの踏みしめる石畳はバキバキと音をたて、砂ぼこりと共に舞いあがる。
「通してもらう」
――ドゥッ!!
二人の騎士は、エータの『ただのマナの解放』に吹き飛ばされた。
「し、侵入者だ!」
「ハロルド様をお守りしろ!」
緊急の鐘を鳴らし、仲間を集める騎士。
城の中から「なにごとだ!?」と、甲冑を着た騎士たちが集まってくる。
彼らは、剣、槍、ガントレット、グリーブ、ウォーハンマー、弓、銃⋯⋯。
様々な武器を持ち、マナで身体を光らせている。
「たった一人で⋯⋯?」
「門番はなにをやっている」
「城内にいるんだ、もうやっちまって良いよな?」
侵入者というから何事かと思えば、身体を光らせた少年が一人。
騎士たちが戸惑っていると⋯⋯。
「アイテムボックス」
エータは右手をかざし、つぶやいた。
刹那。騎士たちの装備は、下着を残し、すべて消え去った。
「は?」
「えっ?」
「きゃっ!」
なにが起きたのか理解できない騎士たち。
と、格闘家の騎士が、エータに向かって飛びかかる。
エータは、騎士の拳を最小限の動きでかわし、首元に手刀を入れた。
その場にどさりと倒れる半裸の騎士。
エータは、そんな騎士に目もくれず、進み続ける。
「お、おい⋯⋯これヤバいんじゃないか?」
先頭にいる騎士が、およそ信じられない光景を目の当たりにし、戦慄。
固まる彼らを見て、エータは歩きながらもう一度告げた。
「俺は、コクシ大陸の西に居を構える『ブバスティス帝国』皇帝・エータ・ミヤシタだ! プリース王国・国王・ハロルド・ラ・プリースに話がある! 面会させろ! ハロルドはどこだ!?」
騎士たちは「おい、上に報告を!」と、あわてふためき、ゆっくりと城内を歩くエータを見ながらジリジリと後退。
――炎獄之檻――
突然、エータの周りを、激しい炎の輪が包む。
「マギラ様!」
「やった! これで勝てるぞ!」
「魔法大臣様!」
裸の騎士たちがその目に希望を宿す。
「これはいったい何の騒ぎかしら?」
魔法大臣と呼ばれた40代くらいの女性は、うろたえる騎士たちの間からコツコツとその姿をあらわした。
黒いローブに黒い大きな帽子。
ザッ魔女といった様相である。
エータは、右手をブンと振り、マギラの炎をかき消した。
「なっ! ウソでしょ!?」
マギラは、国内最強レベルの炎魔法を、アーツドライブさえ使わず消されたことに驚いている。
と、エータは一気に間合いを詰め、マギラの首に手をかけた。
「ぐっ⋯⋯!」
首を絞められると思ったマギラだったが、苦しくはない。
「これは、まさか!!」
と、彼女が悟った次の瞬間。
――魔素奪取――
マギラの身体から大量のマナが奪われていく。
「あっ⋯⋯! あああぁぁぁ⋯⋯!!」
マギラの身体は一気に干からび、どさりとその場に倒れた。
「バケモノだ⋯⋯」
それを見ていた騎士がつぶやく。
そして、堰を切ったように騎士たちは恐慌状態へ。
「逃げろ! 無理だ!!」
「う、うわぁぁぁ!!」
「ハロルド様を早く安全な場所へ!!」
「お、オリオン騎士団長に連絡を!」
バタバタと走りまわる騎士たち。
そんな騎士たちを無視して、エータは、城内をゆっくりと散策しはじめた。




