第126話〜逃げろ〜
パイナス東口方面。
大気を震わせるほどの大爆発が発生。
商店街、西。エータ、イーリン。
商店街、北。ビート、ドロシー。
貧民街、南。ディアンヌ、ケイミィ。
それぞれが爆発を確認。
混乱が起きる。
「なんだこの音!?」
「すごいマナ!」
「誰かやられた! たぶんシロウのおっさんだ!」
「う、うそ!? あのシロウさんが!?」
「ディアンヌちゃ〜ん、これは闇夜の影に戻った方が良さそうだよ〜」
「で、ですが誰かが戦ってたら⋯⋯」
「だからこそだよ〜、バラけてる今の状況はマズいでしょ〜」
ケイミィに手を引かれ、ディアンヌはパイナス北西へと走る。
エータ、イーリン、ビート、ドロシーは、爆心地へと向かっていた。
「城が邪魔でかなり大周りする必要があるな⋯⋯」
エータたちは、爆発の音は聞こえたものの、王城の陰に隠れて、爆炎のほんのすこししか視認できずにいた。
爆心地に向かうには、貴族街と王宮を大きくまわらなくてはならない。
すると⋯⋯。
(ロウル、拘束、外、逃げろ)
六人と狸人隠密部隊の耳に、かすかにシロウの声が聞こえた。
――――――
「今のはフィンの風か!?」
「エータ!」
混乱するイーリン。
エータは立ち止まり、イーリンを落ち着かせるために、頭を撫でながら、しばし考えた。
そして、
「闇夜の影に戻ろう」
と、イーリンの手を引いて北西に走り出した。
(情報が少なすぎる。いま動くのは危険だ!)
――――――
「バカヤローが⋯⋯!」
爆心地に向かって、なおも進むビート。
「ちょっとビート! 指示を無視するんですの!?」
その後を、ドロシーが走る。
「ロウルってのが誰か知らねーけど、顔がわからねぇと助けらんねぇだろうが!!」
その言葉に、ドロシーはしばし考え、
「爆心地を確認したら、すぐに城門の東口から離脱しますわよ!」
と、答えた。
――――――
ディアンヌとケイミィは、シロウの連絡が来たときには、すでに南の大通りまで出ていた。
「ディアンヌ〜、行先変更〜! 南口の方からパイナスを出るよ〜!」
「えっ!? あっ、はい!!」
ディアンヌの手を引き、必死に門まで走るケイミィ。
(シロウがやられるレベルが居るってことだよね〜、無策はヤバそ〜)
ケイミィは、潜入組だけでは危険と判断し、本隊との合流を優先していた。
――――――
ビート、ドロシーの二人。
爆心地に到達。
そこは、不気味なほど穏やかであり、街の人々は変わらず日々の営みを続けていた。
「あんな爆発があって⋯⋯どうして⋯⋯」
ドロシーは嫌な汗をかいている。
「なぁ、俺この街はじめてなんだけどよ。なんで誰もさっきの爆発を気にしてねぇんだ?」
すこし目を離した隙に、くだもの屋のおばちゃんにズケズケと聞いているビート。
(す、すごい行動力ですわ⋯⋯なにも考えてないんでしょうけど⋯⋯)
ドロシーは、怪しまれるリスクを考えないビートの行動にヒヤヒヤしていた。
しかし、おばちゃんはあっけらかんとこたえる。
「あー、びっくりするわよね。大丈夫よ、よくある事だから」
「よくあること?」
「そうよ〜」
エプロンのような物を着た、人の良さそうなおばちゃんは、まるで井戸端会議をするかのようにこたえた。
「きっとまた、ロウル姫が奴隷を爆発させたんだわ〜」
「なっ!」
「えっ!?」
二人は心の底から驚いた。
ロウル、というのがこの国の姫だと言うこともそうだが、なによりも⋯⋯。
そのイカレた行為をなんとも思っていない、彼女の様子に。
「わ、わり、教えてくれてありがとな。これ一個買うわ」
「は〜い、まいどあり〜」
そう言って、ビートはリンゴのような物を一つ手に取り、コインを何枚か置いて、ドロシーの元へと戻る。
「お兄ちゃん! 払いすぎだよ〜!」
「とっといてくれ!」
背中から、おだやかな店主の声がしたが、ビートは、彼女の顔を見るのが恐ろしくて、振りかえることが出来なかった。
――――――
「ビート、ここで得られる情報はもうありそうに無いですわ。東口から外へ出ましょう」
「そうだな⋯⋯」
ビートとドロシーは踵を返す。
と、その時だった。
二人の横を通りすぎようとした、派手な装飾のされた馬車が、突如、速度を落としてビートたちと並走する。
そして、
「あなたたち⋯⋯」
中から、金髪縦ロールの女性が声をかけてきた。
「ん?」
「あら、ごきげんよう」
二人は彼女を見る。
誰だろう、この人は。
見たところ、高貴な方のようだが。
と、女性は扇子をバッと開き、口元を隠した。
「⋯⋯探しているのは、こちらかしら?」
そういうと、彼女は、ゆっくりと進む馬車のトビラをすこしだけ空けた。
その隙間から、鎖で繋がれ、身体のコゲた、シロウの姿が⋯⋯!
――――――ッ!!
「狼が⋯⋯っ!」
ビートがアーツドライブを打とうとした瞬間。
――鳳仙花――
扇子から放たれる、火炎をまとった暴風。
と、ドロシーが足にありったけのマナを込め、ビートを担いで空へと逃げた。
「ドロシー! シロウのおっさんが!!」
「顔は確認したでしょう! ここは逃げますわよ!」
「そうそう、逃げないと危ないですわ」
「えっ?」
「うそ」
声のする方を見ると、二人の後ろにピッタリとくっつくように、先ほどの縦ロールの女性がいた。
彼女は悪魔のように二チャリと顔をゆがめ、大声で笑いはじめた。
「きょぉぉぉうはオモチャがたくさぁぁぁん!!」
彼女の拳が、真紅の輝きをはなつ。
「ドロシー!!」
ビートは、身体をひるがえし、ドロシーを東へと投げ飛ばした。
「ビート!!!!」
「くそっ!!」
ビートはありったけのマナを込め、両腕でロウルの拳をガードする。
――鬼灯――
またしても、東の空に大きな花火があがる。
「ビートぉぉー!!」
その爆風がさらにドロシーを吹き飛ばした。
ビートの「逃げろ」という想いを乗せて、彼女はパイナスの外まで、遠く遠く、身体をぐるぐると回転させながら、絶望と共に落ちていった。




