第125話〜鬼灯〜
最後に、シロウが偵察へ向かう。
「ここからもっとも遠い、パイナスの西口まで向かうか」
――脱兎如――
彼は、誰にも認識されず、家屋の屋根を伝って走る。
王都には四つの時計塔があり、それぞれ、商店街の東西南北に設置されている。
その時計塔、東口の高所から見下ろした首都は、中心は庭園などもあり美しいが、外に向かうほど土色へと染まっていき、城壁付近は、ゴミの掃き溜めのようになっていた。
「愛憎うずまく、格差の都市か⋯⋯」
シロウは、数十万人は住むであろう巨大な都市を空虚に感じていた。
下におり、王都・商店街から東城門へ向けて歩く。
(南東のスラム街も見ておくか⋯⋯)
彼がそう思った、その時だった。
豪華絢爛な馬車が、シロウのすこし手前で止まり、中から紅いドレスを身にまとった、金髪縦ロールの美しい女性が降りてきた。
女性は扇子をバッと開き、使用人たちに頭を下げられながら、シロウに近づいていく。
(この女は⋯⋯!)
シロウは、冷や汗をかいていた。
しかし、それを絶対に悟られてはいけない。
なぜなら、この女は⋯⋯。
(ロウル・ラ・プリース⋯⋯!)
美しい見た目とは裏腹に、中身はサイテーな悪女として名高い、プリース王国・第一王女、ロウル・ラ・プリース。『悪鬼姫』その人であったからだ。
「あなた⋯⋯」
ロウルは、扇子で口を隠し、高いヒールをコツコツと鳴らしながらシロウの目の前で止まった。
シロウは片膝をつき、
「これは第一王女殿下⋯⋯。平服が遅れましたことをお許しください」
と、頭を垂れた。
その姿に、ロウルはクスリと笑い、
「よい、あなた。なかなか整った顔をしてますわね」
(顔を隠しているのでござるが⋯⋯)
シロウはそう思ったが、
「もったいなき御言葉」
と、目を伏せたまま告げた。
「気に入りましたわ、あなた。わたくしちゃんの奴隷にしてさしあげます」
「⋯⋯⋯⋯なんと?」
シロウの焦りは最高潮に達していた。
こいつはいったい何を言ってるんだ?
得体の知れない恐怖が、身体中を支配する。
――こいつは普通じゃない。
シロウの野生の勘が、激しく警鐘を鳴らしていた。
そんな彼へとロウルは身をかがませ、シロウの耳元へと口を寄せた。
「だってあなた、亜人じゃない」
――脱兎如――
シロウは、できる限りのマナを足に込め、全身全霊でその場から離れる。
(不覚!!)
急いでエータたちに亜人の自分が見つかったことを伝えなくてはならない。
きっと、警備が強化されるはずだ。
城門を閉じられ、何万という敵に囲まれる可能性がある!
早く! 早く!!
「レディのお誘いを断るとは、無粋ですわね」
「――――っ!!」
シロウは、産まれてはじめて背後を取られた。
――鳳仙花――
家屋の立ちならぶ屋根の上で、扇子から放たれる火炎をまじえた爆風。
天高く飛ばされるシロウ。
「ぬぅぅぅ!!」
引きちぎれそうな身体にマナを込め、体勢を立て直す。
視線を下へ向けると、恐ろしい笑みを浮かべながら、ロウルがこちらへ飛び上がって来ていた。
「くそっ!!」
シロウはトンファーを取り出し、白く輝くマナを込める。
――望月――
ロウルは拳に真紅のオーラを込めている。
「キャハハハハ!!」
彼女は、悪魔のように大声で笑った。
――鬼灯――
トンファーと拳がぶつかり、パイナス上空にて激しい衝撃波が広がる。
(強い⋯⋯!!)
シロウはさらにトンファーにマナをそそぎ込み、なんとか押し返そうとする。
すると、ロウルはニチャァと口を開いた。
「どかーん⋯⋯」
その言葉に呼応するように、彼女の拳は大爆発をおこした。




