第123話〜ちいさなお城を胸に閉まって〜
エータとイーリンが出発して三十分後。
「よし! 次は俺たちだな!」
「行きますわよ、ビート」
ビートとドロシーが偵察へ出ることに。
二人は、パイナスの北の方へまわってみる事にした。
「海の近くはリヴァイアサンの殺気がやべー事になってんな⋯⋯。これが他のモンスターを寄せつけない、天然のモンスター避けになってんだな⋯⋯」
「なんでこんな危険なところに首都があるのかと思っていましたけど⋯⋯そういう事だったのですわね」
ビートの探知を使いながら、貧民街から平民街にかけて慎重に進む二人。
「ん?」
急に立ち止まるビート。
「どうしたんですの?」
「なんだ⋯⋯これ⋯⋯」
ビートは顔を真っ青にしている。
ドロシーは辺りを見渡し、異変がないことを確認すると、ビートを建物の陰へと連れだした。
「大丈夫ですの? ビート」
気分が悪そうな彼を気づかうドロシー。
「あ、あぁ⋯⋯」
「いったい何がありましたの?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
ビートは言葉に詰まっている。
そして、意を決したように口を開いた。
「北の方の地下に⋯⋯たぶん、モンスターを使ったなにかがある⋯⋯」
「モンスターを使ったなにか?」
ビートはこくりとうなずき、
「地面の下にたくさんの反応があんだ⋯⋯しかも、大きさがバラバラだから、モンスターの襲撃ってワケじゃねぇ。いろんなヤツが居る」
ビートは吐きそうになりながらこたえる。
「すげぇ殺気立って、戦闘してる⋯⋯? 反応がチラホラ消えてるから、たぶんこれは⋯⋯モンスターを使って遊んで⋯⋯」
「うっ⋯⋯」と、口を手でおさえるビートを、
「ビート、一度戻りましょう。気分が優れませんでしょう?」
と、ドロシーは連れ出した。
ビートは無言でうなずき、二人は北の方から西のほうへと逃げるように退散した。
「一度報告に帰りますわよ」
「いや、王城のほうに向かおう。まだ情報が少ねぇ」
「⋯⋯無理だけはしないでくださいましね」
ビートとドロシーは北西から中央に向かって歩きはじめた。
――――――
平民街から商店街へ行く途中、ドロシーはどこか懐かしい感覚をおぼえ、辺りを見渡した。
「ここ⋯⋯」
「ん?」
「ビート、すみません。少々よろしいかしら」
そういうと、ドロシーは大きな交差点を左に曲がった。
曲がってすこし行ったところに、可愛らしいお城を模した小さな雑貨屋を発見。
ドロシーはその店の前で立ち止まった。
「この店がどうかしたのか?」
ビートがたずねる。
「⋯⋯たぶん、わたくし、ここに住んでましたわ」
「ここが⋯⋯」
ドロシーたちが居なくなってからそのまま誰かが買い取ったのだろう。
家屋は取り壊されることなく、そのままの形で『雑貨屋』として経営していた。
「⋯⋯⋯⋯」
思い出の中にある、両親との生活をかさねるドロシー。
しかし、それはもう二度と戻って来ないのだと、彼女は改めて感じていた。
「ドロシー⋯⋯」
そんな彼女のさみしげな瞳に彼は悲しみの欠片に触れた気がしていた。
ビートは一人その雑貨屋のなかへ入っていく。
「ビート!?」
ドロシーはあわてて彼の後を追った。
雑貨屋の中はかわいい店内をそのまま活かすためか、商品はどれもちいさく、主張しすぎず、あまり多く置きすぎないようにしてあるようだった。
「かわいい⋯⋯」
ドロシーはそれがなんだかとても嬉しく感じていた。
きらびやかなあの日のお城は無いけれど、自分の育った家がまた誰かの日常を彩る助けになっているのだと。
それが、たまらなく嬉しい。
ドロシーはひとつのアクセサリーを手に取る。
手の中で陽の光に照らされ光るそれは、蒼い鳥の羽根を模した品のあるブローチだった。
「お前に似合いそうだな」
後ろからビートが顔を出す。
「そう⋯⋯かしら」
幸せの青い鳥。
バハスティフにもそう言った伝説がある。
幸せ⋯⋯。
ドロシーは父に抱かれ母と寄り添ったあの日を思い出していた。
と、ビートがブローチをひょいと奪い、
「おばちゃん、これくれ」
と、さっさと会計に行ってしまった。
「ビート⋯⋯! それは軍資金でしてよ!」
ドロシーはこそこそと耳打ちをする。
「シロウのおっさんが言ってただろ? 自然体の方がいーんだよ。こういうの買ってたら怪しまれねーって。ただ⋯⋯」
ビートはほおをポリポリとかいた。
「これは俺が買いてーから、稼げるようになったら闇夜の影にお金返しとくわ」
と、照れくさそうに告げた。
――そして、二人は店を出る。
キレイな青空に腕を伸ばしたビートは口を開いた。
「ドロシー、結婚したらよ〜」
そして、頭の後ろに腕を組んでいう。
「ホンモノのお城建てようぜ、でっけぇヤツ。俺、騎士になるつもりだからなんとか建てれんだろ」
あまりにも唐突で子ども同士の約束のような言葉に、ドロシーは「ぷっ!」と吹き出し、
「デザインはわたくし一人で決めますわ、ビートはセンスが無さそうですから」
と言って、王宮に向かって歩きだした。
「へーへー」
ビートはやれやれと言った様子でドロシーの後をついていく。
彼女の心は、あの日、木陰で頭を撫でられたときのような、春の日差しのような気持ちでいっぱいになっていた。
(そーゆーとこですわよ、ビート)
ちいさなお城を胸のたからばこにそっと閉まって、少女は新しい道をあゆむ。
キラキラと控えめに輝くブローチを胸につけて。
このちいさな騎士と、手を繋いで。




