第118話〜ピグリアム④〜
――ルリアの追跡を終え。
ボクは衛兵に見つからないよう、夜の街をコソコソと戻った。
(ルリア、たまに昼寝してたのは夜中まで起きてたからなんだな⋯⋯)
きっと、ボクたちのために働いてくれているのだろう。そう思いながら、孤児院へと向かう。
すると⋯⋯。
なんだか、孤児院のほうが明るい。
煌々(こうこう)と、空が赤く光っている。
「あれ?」
ボクは、それがなぜか、すごく。
すごく不吉なものであるような気がした。
――自然と早くなる鼓動。そして、足。
「ウソ! ウソ!! ウソだ!!」
ボクは、もう衛兵など気にもせず、ただひたすらに、その光の元へと急いだ。
「イヤだ! イヤだ!! イヤだ!!! マリー先生!! みんな!! ヒョウちゃん!!!」
――ボクが孤児院につくと、絶望があった。
孤児院は、激しい炎に包まれていたのだ。
「うわぁぁぁぁあ!!!!」
ボクは、動揺し、炎の中に入ろうとする。
「ヒョウちゃぁぁん!!!」
すると⋯⋯。
「おい、待てガキ」
背の高い、くるんとヒゲを巻いた騎士に腕を掴まれた。
「まさか外に居たとはな⋯⋯道理で見つからない訳だぜ」
スピルドだ。
彼は、めんどくさそうにボクに告げた。
ボクは、その瞬間すべてを悟った。
「お前か⋯⋯」
「あん?」
「お前が火をつけたんだな!?」
ボクは、目を涙でいっぱいにしてスピルドに問う。
すると、スピルドはにっこりとほほえみ。
「民を守る騎士がそんなことするハズないだろう? しょーこは?」
と、バカにするように言った。
「⋯⋯殺してやる」
ボクは、今まで経験したことの無い感情に支配されていた。
「殺してやる、殺してやる、殺してやる!!」
身体からマナがあふれだし、自分でもコントロールすることが出来ない。
そして、ボクは、スピルドの腕を掴んだ。
――ミシミシミシィ!
「ぐぁっ!!」
スピルドはボクを振り払い「てめぇ⋯⋯」とつぶやくと、足が光るほどのマナをこめた。
「お前もあの獣人のガキみてぇにしてやる」
――全速脚――
目の前から消えるスピルド。
彼はボクの背後に現れた。
「血祭りだ」
――虚無成――
ボクに、高速の蹴撃を与えようとするスピルド。
――未来予知眼――
ボクは、その場で大きくジャンプする。
「なっ!!」
あっけに取られた彼の顔面を、ボクは思いきり蹴飛ばした。
鼻からボタボタと血を落とすスピルド。
「お前⋯⋯なんで⋯⋯」
ボクの目は、なぜか赤く光っており、背中には、大量のマナが円を描くように回転していた。
「気味のわりぃガキだ⋯⋯」
スピルドがフンっと、鼻の中の血を抜いている。
そのとき、ボクの意識は、世界に溶けるようにおぼろげだった。
(なんだ⋯⋯? 色んなことがわかる⋯⋯)
空気中をただようマナ。
スピルドの状態。
ステータス。
筋肉の動き。
大地を這うマナの脈動。
こちらに向かってくる人々の息遣い。
その先でなにが起こるのか。
すべて。
しかし、それらはボクの頭をむしばむ。
「ああぁぁ!!」
割れるような頭痛とともに、ボクはその場にうずくまった。
目の光と、背中の円環も消える。
「な、なんだ? 勝手に苦しんでやがる⋯⋯」
スピルドは、ボクの身になにが起きたかわからず。
しかし、またしても自分の攻撃が看破されるのではないかと、その場から動けずにいる。
すると。
「スピルドの兄貴ぃ〜!」
孤児院の中から、小脇になにかを抱えたシルドルが走ってきた。
どうやら、アーツドライブで炎から身を守りつつ、中を探索していたようだ。
「見つけましたぜ〜! このガキですね!」
シルドルは、ボロボロになったヒョウドルを持っていた。
「でかしたぞ〜! シルドル〜!!」
「へへ〜! 兄貴に褒められた〜!」
気色悪いほどにイチャイチャとする、スピルドとシルドル。
「よーし、この二人を回収して、とっととズラかろう。ついでに、孤児院の消化活動にも参加すれば一石二鳥だ。これで、評価はうなぎのぼりよ!」
「兄貴やっぱり頭いい〜! あそこで二人を連れていかなかったのは、そういうワケだったんですね〜!」
「あぁ、これで俺様のほっぺたの傷も水に流してやる! 俺様はやさしいからな!!」
スピルドはゲラゲラと笑い、そして⋯⋯。
「おい、聞いてるかガキ」
と、ヒョウドルのほおをペチペチと叩くと、
「お前のせいでみ〜んな死んじまったなぁ⋯⋯どんな気分だ? おい」
と、およそ人間とは思えないセリフを吐き捨てた。
「こ⋯⋯して⋯⋯やる⋯⋯」
包帯の隙間から、流血するのでは無いかというほど、血走った目が見える。
それを心底嬉しそうな顔で見つめたスピルドは、
「やだ〜こわ〜〜い! シルドル〜! たすけて〜!」
と、身体をくねらせた。
シルドルは「にひひ」と笑い、
「らくしょーっすよ兄貴! 兄貴の【飛脚】のジョブと、身体強化、蹴撃特効。そして俺の【重騎士】のジョブと、身体強化、防護。これがあれば、どんなヤツにも負けませんぜ」
と、嬉しそうに語った。
「あぁ、そうだな。俺たちゃ最強の義兄弟よ!」
そう言って、スピルドはシルドルに防護してもらいながら、ボクを持ち上げた。
「もうさっきみたいに暴れんなよ? ガキ⋯⋯。まぁ、コイツがどうなっても良いなら、止めねぇけどよ」
スピルドは、ヒョウドルの頭を殴りつける。
「――――――っ!!」
ボクは、飛びそうな意識の中で、必死にヒョウドルの名前を呼んだ。
(ヒョウ⋯⋯ちゃん⋯⋯ヒョウちゃ⋯⋯)
そして、ボクは気を失った。
「大人しくなったか⋯⋯?」
スピルドは、ボクが動かなくなってホッとしている。
「ジョブ持ち二人だ、きっとヤベーほど恩賞が貰えるぞ!」
そう言って、スピルドとシルドルは、闇にまぎれてその場を離れようとする。
すると⋯⋯。
――闇夜爪――
シルドルの腕の中で、ヒョウドルが激しく暴れだした。
「わわっ!」
――防護――
あわてて防御するシルドル。
しかし、ヒョウドルは隙をついてシルドルから離れる。
そして、彼は燃えさかる孤児院の中へと走り去った。
「あいつ⋯⋯心中するつもりかよ⋯⋯」
あっけに取られるスピルド。
と、遠くからたくさんの足音が聞こえてくる。
「兄貴! マズイですぜ!! 人が集まって来ました!」
「よ、よし! 俺たちはコイツを炎の中から助け出したことにしよう! 目ぇ覚ましたら『獣人のガキを殺されたくなかったら黙っとけ』って脅すぞ!」
「りょーーかい!!」
――こうして、ボクは二人に捕まり、脅され⋯⋯。その能力を、王宮のために使うよう、半ば強制的に『宮廷料理人』にされてしまった。




