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ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚  作者: 所羅門ヒトリモン
第3部 宣戦編

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311/344

#311「巨人王の退室後」



 言うだけ言うと、ガンドバッハ王はすぐに山王の間から立ち去ってしまった。


「……じゃあ、ボクらはちょっと小国家連合と話をしてくるよ」

「いいのか? 感想戦はもう終わったみたいだけど」

「構うものか。どうせ向こうも裏でいろいろ手を回してるんだからね。行くよ、ザディア」

「はい、陛下。グラディウス殿も、よろしいですか?」

「……ああ」


 よいしょ、と。

 トーリー王は腹心を引き連れ、小国家連合の席へ歩き出す。

 ルナールの男たちは、ガンドバッハ王が退室したのを受けて自分たちも席を立とうとしていたが、彼らが出口に向かうよりもトーリー王の早歩きのほうが早そうだ。

 今夜の感想戦は交渉もなにもあったものではなく、予想していたよりはるかに味気なく終わってしまったが、それならばそれで余った時間を有効的に活用する。

 きっと、トライミッドは今日の勝利を根拠にして、小国家連合に同盟のメリットをアピールする気に違いない。

 彼らの様子からも、味方に引き込むならまずはこっちからだと踏んだんだろうな。


 星辰天秤塔は何を考えているのか分からない。

 昨日と今日とで態度も一貫している。そう、極めて一方的という態度で。

 だが、わざわざ長年の沈黙を破って姿を現したからには、何か明確な目的があって此処にいるはず。


「ララヤレルンの代表として、俺もなにか話しかけに行ったほうがいいと思うか?」

「ふむ。星辰天秤塔にですかな?」

「ああ」

「さて、どうでしょう? ワタクシの見たところ、彼奴等はメラン殿やララヤレルンに興味は持っていないかと」

「じゃあ、話しかけに行っても無駄なんですか?」

「そうですなぁ。このなかに星に詳しい者がいれば、向こうもそれなりの口を利くと思われますが」

「……アルステラを連れてくれば、ワンチャンあるかな」

「ああ、あの半龍ですか」

「ダメだと思います。アルステラさんを連れて来ても、私たちもまだ彼女と話せないので……」


 そうだな。そう言われてしまうと、打つ手が見つからない。

 星辰天秤塔を攻略するには、まだもう少し情報を収集する必要がある。

 そもそもどうして、星辰天秤塔がティタノモンゴットと繋がりがあったのか。

 ティタノモンゴットはどうやって星辰天秤塔に渡りをつけたのか。

 そこもまだ分かっていない。

 天使と巨人。

 今日の様子を見る限りだと、このふたつは親密な関係ってワケではなくて、あくまでビジネス的な交流関係に留まっているように見えたが。

 カプリの助言に従うと、曰く星にしか興味がないらしい種族組織が、いったい何を求めてティタノモンゴットにやって来たのか?


「ティタノモンゴットには、なにか宇宙に関する物があるのかな」

「はて、どうでしょうなぁ?」

「ここ、妙な話ですけど、地形的には山の下なんですよね?」

「そうですね。山のなかに小世界が内包されていて、それが外──上から見ると、裏返った形で収まっています」

「……じゃあ、ここって地下って認識でいいんですか?」

「一応は……そうなるかと思います」

「空はあるけどな」


 フェリシアとクリスの質疑応答に、余計頭のなかがこんがらがりそうになる情報を補足する。

 ティタノモンゴットには空もあれば風も吹き、雲も漂う。

 まるで地底世界アガルタ。

 地球空洞説を題材にした冒険小説を思い出す場所だ。

 腕を組み、クリスは「うぅん!」と唸った。


「じゃあ、地下だから宇宙とは関係ない、とは言えないんですね」

「だな」

「ここの空って、本物の宇宙空間に繋がっているんでしょうか?」

「さぁ……」


 フェリシアが天窓を見上げて、カプリがリュートハープを曖昧に鳴らす。

 すると、俺の後ろから近づいて来る者がいた。

 足音だけで誰なのか分かる。


「ラズワルド」

「なんだ、セラス?」


 振り向くと、しゃらん、と腰に手を添え、セラスが首を斜めにしながら立っていた。

 黒曜石の長剣が、以前よりも長さを増している。

 メラネルガリア人の登場に、フェリシアとクリスが特に居住まいを直す。

 その様子をチラッと確認しながら、セラスは白髪から香油の匂いを漂わせ、えらく気取ったポーズのまま用件を言った。


「今、ちょっといいかしら? 明日の試合についてなんだけど」

「大丈夫だ。っていうか、座るか?」

「ありがと。でも遠慮しておくわ。一応、明日は私が出るから」

「それ、理由になってるのか?」

「あら、なってるでしょ? 剣を交える前に情は交わさないの」


 オマエはどこの剣客だ。


「相変わらず、おっかねぇな……なんでそんなにキレたジャックナイフみたいなんだ」

「言ってる意味がよく分からないけど、〈学院〉時代の教訓ね」

「ん?」

「下手に情が湧いてると、いざって時に剣が鈍る。心当たりはあるでしょ?」


 それって、俺に決闘吹っ掛けて来た時のコトを言ってるのか?


「いやいや、あの時は普通に実力差で俺が勝っただろ……」

「精神状態がマトモとは言えなかったわ」

「それは認める。あの時のオマエは、どう考えてもおかしかった」

「……」

「な、なんだよ……」


 ジロリと睨まれ、ついたじろぐ。

 しかし、セラスは「フン」と鼻を鳴らして思い出話を切り上げた。


「まぁいいわ。とにかく、明日は私が出るから」

「そうか……」

「ララヤレルンの初戦代表戦士は、その子でしょ?」

「は、はい! フェリシア・オウルロッドです!」

「そう。私はセラスランカ・オブシディアンよ」

死骨弔花(セラスランカ)?」


 不吉な花の名前に、クリスが思わずと言った様子で呟いた。

 セラスが顔を向けると、慌てて口を押さえて「す、すみません」と謝る。


「メラネルガリアじゃもう、オマエの名前を聞いてこんな反応をするヤツもいないだろ?」

「ええ、そうね。ま、最近はそうでもないけど」

「クリスは素直なんだ。思った言葉がそのまま口から出ちまう」

「良い臣下だと思うわ。失言は多そうだけど、それより」


 セラスはフェリシアを見下ろす。

 フェリシアは緊張した様子で席を立ち上がった。

 俺も平静を装っているが、心臓はドキドキしている。

 ふたりはしばし互いを見つめ、


「──とりあえず、明日は本気で勝ちに行くわ」

「わ、私も! 本気でやらせていただきます!」

「いい返答ね。じゃ、ラズワルド。そういうコトだから」

「何がどう、そういうコトなんだ……」

「分からないアンタじゃないでしょう?」


 タンっ! と踵を鳴らし、セラスはメラネルガリアのほうへ戻っていく。

 後ろを向いた瞬間、綺麗に切り揃えられた髪の毛がふわりと弧を描いた。


「今のは、正妻競争の宣戦布告ですかな?」

「いいや、違うぞカプリ」

「む?」

「今のはきっと、ガンドバッハ王のさっきの言葉を受けて、ララヤレルンとメラネルガリアどっちとも、明日はお互いの力を充分に示しましょうねって意味だ」

「絶対に違う」


 クリスがまたも、失言をした。

 そのおかげで、フェリシアがようやく緊張を解いて笑う。

 フェリシアが笑わなかったら、クリスを睨んでいたかもしれない。


「アハハ……でも、先輩のおっしゃる通り、そういう意味もあったと思います」

「おや。フェリシア殿はメラン殿にお優しい。正妻の余裕ですかな?」

「違いますけど、どちらにしたって本気で行くのは変わりませんから」

「──おお」


 ダダーン!

 弦を爪弾き、効果音をつけながらカプリが感嘆した。

 俺?

 俺は戦慄した。

 と同時に、フェリシアならそうだろうなと納得もした。

 そう。もうとっくに、覚悟を決められているんだ。


「フェリシア」

「はい、先輩?」

「明日は頑張れよ」

「……はい!」








「ところで、先輩ってセラスランカさんたちから……ラズワルドって呼ばれているんですね」

「え? あ、ああ。幼名みたいなもんだからな」

「なるほど。幼馴染ですもんね。でも、ヴァシリーサちゃんにはどうしてラズィって呼ばれているんですか?」

「……あー、家族だから?」

「ふむふむ」

「どうしたんだ? 急に」

「いえ、なんでもありません」

「絶対なんでもなくない」


 クリスがフェリシアに睨まれた。





────────────

tips:双子姉妹の敵情視察


 「で、どうだった?」

 セラスランカが席に戻ってきて、ティアドロップはすぐに質問した。

 「ヤバいわね。ラズワルドもありえないくらいバケモノになってるけど、隣にいるあの子も相当なバケモノよ」

 「本当に? 私にはそう見えないけれど……」

 「ラズワルドのせいで霞んでるから。ちゃんと近くで確認すれば、ティアにも分かるわ」

 英雄の覇気。あるいは大魔の威圧。

 それに霞んでほとんどの者が気がつけないが、フェリシア・オウルロッドからも畏るべきプレッシャーが出ている。

 双子姉妹の姉は、それを肌で感じ取って腰元に手を添えていた。

 身体が勝手に、剣をいつでも抜けるような態勢を選んでいたのだ。

 誤解されないよう、途中でなんとかポーズを取り繕ったが。

 「明日の試合、ウチの威信もかけて一勝は取るつもりでいたけど、難しいかもしれないわね」

 「セラスがそんな弱気になるなんて」

 姉の発言に、ティアドロップも瞬時に認識を改める。

 しかしすぐに、眉間に谷を刻んだ。

 「お願いだから、明日は勝って」

 「言われなくても、そのつもりよ」

 「本当に頼むわよ? 正攻法でダメならあの手この手っていうのが私の役割だけど、ラズワルド君に嫌われたくないもの」

 「……アンタもだいぶ、女よね」

 「なによ」

 「私とふたりっきりの時か、アイツとふたりっきりの時だけを選んで〝ラズワルド君〟て呼ぶようにしてるでしょ」

 「……それが?」

 「気づいてないかもしれないけど、時々、周りに人がいてもラズワルド君って言ってるわよ」

 「…………まさか」

 「周りにはバレてるでしょうね。あの子、人前じゃ頑張ってメランズール殿下って呼ぶようにしてるんだ、って」

 「姉妹喧嘩の時間ね」

 双子姉妹はテーブル下で、お互いの足を蹴り合った。

 「もっと早くに言いなさいよ……!」



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