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ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚  作者: 所羅門ヒトリモン
第3部 宣戦編

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#307「想定外の対戦相手」



 メラネルガリアが抱えていた問題は差し当たって解決の目処を得た。

 よって、憂いを解消したメラネルガリアは、これでようやく人界同盟について積極的な味方になってくれる──とはもちろん問屋が卸さない。


 依然としてメラネルガリアの戦力不足は問題だし、シビアなようだが現状の軍事力を評価すると〝頼りない味方〟と言わざるを得ないからだ。


 人間の魔術は大抵、大魔に効果を持たない。


 魔術師の軍勢が五千人いても、メラネルガリアは蹂躙されて終わる。

 準英雄級と呼べる職業戦士についても、ひとりしか該当する人材がいない。


 セラスランカ・オブシディアン。


 超人である彼女は、どうやら己が超人戦技についてどういったものなのかを解明したらしく。

 今では対魔物・魔法・異界状況に関するアンチエネミー(天敵)的な立場で、メラネルガリアの全騎士から尊敬を集めているのだとか。

 セラスランカがいるところが、メラネルガリアでは一番の安全圏だと見なされていると、セドリックが教えてくれた。


「そもそもこうして、女王と王太后、貴石貴族の希少な生き残りが揃ってティタノモンゴットに足を運んでいるのは、若様に会うためというのが最も大きい理由ではありますが──」

「セラスちゃんの傍を離れてるあいだに、私たちに何かあったら大変! って理由もあって、皆で来るコトにしたのですよ?」


 ロイヤルガードの長はセドリックが務めているようだが、それはあくまで経験と知識の差からで、すでに実力はセラスのほうがセドリックより上らしい。

 思いのほかセラスが強くなっているようで驚いた。


「ティアちゃんも、錬金術でとってもすごい爆弾を開発したりしているから、あの子たちはいま、メラネルガリア国防の要と言っても問題ないのです」


 ルフリーネはふたりを気に入っているのか、澱みなく賞賛を口にした。

 女王を支える若き才媛の双翼。

 俺と同じで外見はまだ十代後半のガキにしか見えないのに、大勢のダークエルフに尊敬されているのはそういう理由があったようだ。


 とはいえ、セラスとティアのふたりだけで国防の要を背負うのはキツイものがあるはず。


 ララヤレルンにメラネルガリアを迎え入れたら、俺やその他も一緒に国防を担うとはいえ、やはり純メラネルガリアの国防力が少なすぎる。

 出来れば最低でもあとひとり。前線に出て攻めに回れるヤツか、後衛で国を守ったり後詰めに回れるヤツがいて欲しい。セラスとそのもうひとりで、どちらかを担当できるように。


 そんなワケで、メラネルガリアの会談参加スタンスは概ね〝好意的・賛同〟で固定されたはされたが、大闘技決闘会には出場すると宣言されてしまった。


「ラズワルドが私たちと過ごす時間を増やす」

「具体的には、一日最低でも半日は私たちの傍にいるようにしたいわね」

「そうしたら、安全だし安心だし公平でしょ?」

「……うちの内政官と応相談で」

「じゃあ、権益交渉ね」

「大闘技決闘会、まさに打って付けだわ」

「「ちょうど、話をしておきたい子もいたし」」


 フェリシアの件も、すでに押さえられていたようだ。

 うん。それはまぁいったん置いておくとして、同盟に関するアレコレに関しては、俺に出来るベストを尽くした。上々の結果も得られたと思う。


「ねぇ、アンタ。それより馬、乗れるようになった?」

「……あー、あんまり乗る機会無くてな」

「ひっど! あんなに大見得切ってたクセに、全然練習してないの!?」

「あらあら。じゃあ、これからはまたセラスと練習したら? 私でもいいけれど」

「そうよ! ティアはちゃんと練習したのよ!?」

「ごめんて」

「しょ、しょうがないわねっ! 私たちがまた、面倒見てあげるから! 少しはマトモに乗れるようになってよね!」


 何にせよ、懐かしの幼馴染との会話は楽しいものだ。

 久しぶりに会った友人と思い出話を咲かすのって、なんでこんなに楽しいんだろうな?

 今は友人というより、違う関係性が正しい呼称かもしれないけれども。






 翌日、渾天儀暦6028年1月23日。

 大闘技決闘会、開催一日目。

 ターリアはビルのような階層構造が基本になっている。

 そのため、上下に移動するには大昇降機を使うのが前提で、試合上に赴くにはどっちに行けばいいのかと確認したら、「山王の間でやる」と予想外の回答が返ってきた。


「オマエたちが好き勝手にターリアをうろつくのを、陛下も我々も望んでいない」


 案内役の巨人。

 例のムッツリと無口な男は、眉を顰めて端的に言った。

 どうやら俺たち小人の面倒を見るよう、ガンドバッハ王にそのまま命じられてしまったようだ。

 本人は嫌そうな顔を隠しもしていなかったが、命じられた以上は最低限、真面目に仕事をする気質らしい。


 山王の間と小人用フロア。


 俺たちは基本、ターリア内でこの二階層だけを行動範囲に許可されたと教えてくれた。

 なので、大昇降機に乗って上階に昇り、再び山王の間へ足を運ぶ。

 たしかに、これだけ広い空間ならば多少の乱闘騒ぎがあったところで何も問題が無いだろう。


 巨人同士の乱闘ならいざ知らず、今回の場合は巨人VS小人の構図になるワケだから、むしろ俺たちのほうが気兼ねなく暴れられそうだった。


「なんだかヘンな感じ。こんなにたくさん人に見られながら戦うのって、私はじめてだわ」

「そういえば、トライミッドってもう秘密にするのやめたんだな」

「まーね! これから大魔と戦おうって時に、いつまでも聖槍の担い手を隠していても仕方がないでしょ?」

「むしろ、今までよくバレずにやってこれたな」

「そこはほら! アイナちゃんのスーパースピードでビューン! ピカーン! だから」


 説明になっているのかいないのか。

 擬音系エルフ美少女アイナノーアは「フフン!」とドヤ顔だった。

 調子は良さそうである。

 今日の対戦はコイツと、ティタノモンゴット側の代表戦士がぶつかり合う。

 こっち側の実力はたしかなものだが、さて、相手がたはどんなヤツを選んでいるのか。

 三人中、ふたりは例の兄弟だと思うが、初戦は恐らく違う誰かを送り込んでくるだろう。


「アイナノーア様、頑張ってください!」

「エリンの希望!」

「プリンセス・トライミッド!」


 連合王国の兵や騎士たちは、アイナノーアに声援を送っている。

 それを受けて、アイナノーアはピタリと固まり、ゾゾゾゾクッ! と肌を紅潮させた。


「す、すごいわ……私、ついに英雄みたい……!」

「緊張してるのか?」

「うん。少し、緊張して来たかも! でも大丈夫! それ以上にすっごい嬉しい!」


 今ならどんなヤツにも勝てる気がするわ!

 アイナノーアはテンションをブチ上げ、やる気に震えていた。

 いや、奮えているのか。

 精神状態も特に心配する必要は無さそうだ。

 俺は「じゃ、頑張れよ」と観戦席のほうに戻る。


 山王の間は一晩のあいだに、即席のコロシアム会場を築き上げていた。


 と言っても、ただ単に切り落とした岩を積み上げて、外縁に壁を作っただけの代物だが。

 壁は段状になっているので、観戦席はそれぞれ壁の上の段々に腰掛け、試合を観戦しやすくしている形だな。

 俺が下がると、アイナノーアの周りには連合王国の人間が集まり、特に侍女などが涙ながらにアイナノーアと会話しているのが分かった。

 耳を澄ますと、姫様どうかご無事で、大袈裟だわ、などと話している声が聞こえる。


「アイツ、慕われてるな」

「お姫様ですから。あんな性格でも、いえ、あんな性格だからこそアイナノーア様を慕う人間は多いですよ」

「しれっと隣に座ったな……」

「何か文句でも? べつに無いですよね、フェリシアさん」

「! え、えっとぉ……」


 ルカがピトッと腰を下ろしながら、今まさに反対側に座ろうとしていたフェリシアに圧力をかける。

 後ろにいるカプリとクリスが、ヒソヒソこんなことを言った。


「見てください、クリス殿。これが正妻の座をかけた女同士の戦いというヤツです」

「すごいですね。メラネルガリアの観戦席からも、すごい視線が飛んできてますよ」

「オマエら給料を上げて欲しいのか? だったら素直にそう言えよ」


 金の力で黙らせようとしたら、わざとらしく顔を逸らされた。


「ったく。ルカ、べつにこっちに座ってもいいけど、リンデンのほうはいいのか?」

「問題ありません。ウィンター伯の側にはジャックさんもいますし、私の魔法はここからでも充分に全員をカバーできます」


 そいつはまた、見ない間に強くなったようで。


「なるほど。じゃあ、普通に言わせてもらうが」

「なんです?」

「今みたいにフェリシアに強い感じで物を言うの、やめてくれ」

「む」

「先輩。私は大丈夫です!」

「俺がイヤなんだよ。そりゃ無理に仲良くしろって言うつもりもないけど、俺の前で俺がいま一番好きな女をないがしろにされるのは、勘弁してくれって思う」


 ピュ〜ゥ♪

 後ろから口笛が吹かれる。

 ルカは拗ねた顔になった。


「じゃあ、私に我慢しろって言うんですか?」

「俺が好きなんだろ? ……いいか? 今からすっげー思い上がったセリフ言うけど、よく聞け?」


 俺の女になりたいなら、俺がつける優先順位には従ってもらう。


「フェリシアが許しても、それができないなら俺はオマエを受け入れるつもりはない」

「……分かりましたよ。フェリシアさん、ごめんなさい」

「い、いえ! 私はほんとう、気にしてないので……!」

「見てください、クリス殿。これが時の権力者というモノです」

「すごいですね。さすがメラン様」

「オマエら少し黙ってろ……」


 しかし、シュンとしてしまったルカを見ると、可哀想に思えて申し訳なくなる俺でもある。


「ハァ……ルカ」

「なんです?」

「どんな計画を立ててるのか知らんが、今度ちゃんと俺にも聞かせてくれ」

「! それって……」

「ていうか、俺に関わりがあるのに、なんで俺を抜きで勝手に進めようとしてるんだよ」


 言外に、ちゃんとオマエのことも受け入れると仄めかすと、ルカは薄く頬を染めた。

 しかしそれは、照れや羞恥心による紅潮ではなく、感極まって泣きそうになるような感情の発露だった。

 八年の月日は、すべてを語らずとも互いの想いを共有できる。


「ほら、そろそろアイナノーアが試合場に出るみたいだぞ?」

「あ、相手も出て来ましたね!」


 フェリシアが空気を切り替えるためか、さっそく巨人側の代表戦士に注意をうながした。

 会場の観客も、いっせいにざわめき出す。

 白雷聖姫、アイナノーア・エリンの対戦相手は……




「は? 星辰天秤塔……?」

「ふざけるな! なんで〈第二円環帯(ルキフェディッテ)〉が出てくる!?」

「中立じゃなかったのか!」

「どういうつもりだガンドバッハ王──!」




 連合王国の観客席から、怒号が飛び交う。

 俺たちやメラネルガリア側も、顔を顰めるのは避けられなかった。

 なにせ向こうの代表戦士は、どう見ても巨人族ではない。


 黒い翼を折り畳み、長い手足で悠然と歩く漆黒の天使。


 身長はやはり三メートルほど。

 エルノス人やダークエルフと比べれば、たしかに大きい相手だが、巨人ではない。

 昨日、代表として中立・傍観を宣言した金髪の女とは別の女が、占星術師の装束のまま試合場に進み出てくる。


 全員の視線を集めて、ガンドバッハ王が玉座から言った。


「ゆえあって、星辰天秤塔にはティタノモンゴットの代表戦士をひとり、代理で出てもらう。何を騒ぐ? これも古代では当然の慣習よ!」


 悪びれも、しないらしい。

 どうやらガンドバッハ王は、よほど俺たちの意表を突くコトを喜びにしているようだ。

 星辰天秤塔の観客席から、例の金髪天使が立ち上がった。


「あくまで、代理を務めるだけのコト。作為的なものは何もございませんので、ご容赦ください。ご理解ください。ありがとうございます」


 舐めてるだろ、とほとんどの人間が呟いた。

 しかしそんな中で、アイナノーアだけが「べつに構わないわ!」と大声で胸を張る。


「謎に包まれた星辰天秤塔が、自分たちから衆目の前に出てくるって言うんなら、このアイナちゃんが思う存分暴き立ててあげる!」


 なるほど、たしかに。

 これは想定外だが、言い換えれば絶好の機会でもあるのか。

 星占いの一団。星詠みの天使たち。

 そこから選出された代表戦士。

 いったいどの程度の戦う力を持っているのか。

 同盟の観点としても、そこは気になっていたところだ。


「アイツ、時たますごく頭の回転が早い時あるよな……」

「陛下も、同じ結論に至ったようですね」


 トーリー王は肩を怒らせながらも、ドカッと席に座り直す。

 この場で一番、異議申し立てをする権利を持つ国のトップが口を閉ざしたので、他もザワザワしつつも静観の構えに入っていった。


 大闘技決闘会、一試合目が始まる。






────────────

tips:盗賊の夜散歩・Ⅱ


 カプリが星辰天秤塔の天使たちを探り始めると、巨人の兄弟が金髪の天使と語らっているのを目撃した。

 「では、明日はそちらから代理をひとり」

 「承知いたしました。しかし、わたくしどもはティタノモンゴットに味方するワケではありません」

 「無論、こちらも承知している」

 「明日の試合は結果がどうなろうと構わない。ただ枠を埋めたいだけだ」

 「では、棄権してもよろしいですか?」

 「それは困る。我々もあなたがたが、どの程度の力を持っているのか確認したい」

 「わたくしどもは星詠みに過ぎませんが」

 「ただの天文学者が、北の五大に数えられるワケがないコトくらい幼子でも分かる」

 「では、代わりに例のモノを──」

 「分かった。約束の期日より、前倒してお渡しする」

 ……なるほど?

 カプリは顎を撫でながら頷いた。

 ティタノモンゴットと星辰天秤塔は、何らかの取引をもとに協力関係にあるらしい。

 例のモノとは何だろう?

 会話が終わってしまったので、詳細までは分からなかったが、なにかとても貴重なモノの予感がする。

 星辰天秤塔が欲しがるものを、ティタノモンゴットが持っているとは興味深い。

 中立を宣言し、あくまで占星術師の立場に徹しようとする天使たちを、荒事に引っ張り出すほどの物。

 さて、それはいったい何なのか?

 好奇心をくすぐられたが、カプリはなんとなく察しがついてしまい食指が動かなかった。

 ティタノモンゴットは第五世界の理が強い。

 表と裏、地底と虚空。

 ならば此処はエルノスの星ではなく、宙に近いと考えるべきだ。

 第一、〈第二円環帯(ルキフェディッテ)〉種族が興味を持つのは、それだけだと知れている。

 なんて退屈な連中だろう。少しはメランズールを見習って欲しい。

 カプリは欠伸を噛み殺した。いま入手した情報を共有しなければとか、特にそういう思考は一切無かった。



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