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ヰ世界の歌 夜明け前のダークエルフ 王道硬派な大河ファンタジーの世界で一歩から始める人外愛譚  作者: 所羅門ヒトリモン
第3部 宣戦編

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306/344

#306「逆の申し出」



「なるほど」


 話は分かった。

 要点を整理しよう。


 ①メラネルガリアはクーデターによって大魔術式が破壊された。

 ②大魔術式(地熱魔術)は食料自給率インフラに直結していた。

 ③広範な国土を活かして遷都を続け、どうにか食料生産率を保とうとしたが何処も失敗。

 ④ジリ貧状況の折、鯨飲濁流復活の報せと群青卿関連の情報を入手。

 ⑤俺が戻ってくれば大魔に対抗可能で、だったら戻って来てもらうしかない。

 ⑥同盟会談に参加決定。


 メラネルガリア側の経緯をまとめると、ザッとこんなものか。

 ガンドバッハ王の話とも符合するし、説明に不審な点も無い。

 もともとあのクーデターは、粛清も兼ねた口減しでもあったと思うが、復活したメレク・アダマス・セプテントリアの庇護が無ければ国は凍える。

 如何に寒冷地耐性を持つダークエルフといえども、食べる者が無ければ餓え死には避けられない。

 テルーズたちはむしろ、かなり保たせたほうだろうな……


「遷都はあれか? 食料の備蓄が多い場所を選んだのか?」

「そうだ。だが結局、何処も食い尽くすだけで終わって次に続かなかった」

「じゃあ、俺が戻っても問題は解決しないんじゃないか?」


 俺が戻って解決される問題は、国の軍事力というか防衛力だけである。

 大魔の脅威に対抗可能な戦力が確保できるだけで、メラネルガリアを救う根本的な解決策にはなっていない。

 しかし、その辺りはさすがダークエルフだった。


「ラズワルド。アンタがララヤレルンでウハウハ暮らしてるのは知ってるわ」

「ウハウハ?」

「南部だからって理由を抜きにしても、ララヤレルンでは豊富な食料が自給されているそうね」

「……もしかして、スパイでも放ってるのか?」

「当然でしょ? アンタがいる場所なのよ?」


 メランズール・ラズワルド・アダマスはメラネルガリアにとって、依然、王族に他ならない。

 ならば調査をするのは当然だし、情報を精査するのも必然だ。

 ティアドロップがティーカップに口付けながら、「ええ、ええ」と頷いた。


「じゃあ、ララヤレルンの食い物が具体的に、どうやって賄われているかも知ってるのか?」

「基本的にはトライミッド連合王国からの輸入ね。財源はちょっとまだ掴めていないけれど、錬金術関連ってのは分かっているわ」

「ふーん? それだけか?」

「あとは、そうね。どうやってるのかは分からないんだけど、野菜と果物を大量生産できる術があるみたいね」

「そしてそれは、アンタがいないと無理そうだってところまでは分かっているわ!」


 壮麗大地(テラ・メエリタ)から産地直送、薔薇男爵印の美味しいお野菜と果物についてまで迫っているとは。

 相変わらず、凄まじい情報収集能力。

 スパイ、密偵、密使の類について、今度またカプリに相談しておこう。

 こっち方面については、俺はまだまだ対策不十分みたいだな。


 しかしだ。


 ソファの背もたれに「フゥ」と深く寄りかかり、一拍。


「俺さえ戻ってくれば、メラネルガリアは救われる。いいぜ? その理屈はたしかに大まかに言って正解だってのは認めてやるけどさ」

「あによ。……戻って来てくれないの?」

「まぁ待て」


 セラスがちょっと会わない内に、しおらしさを倍増させていて困る。

 そんな不安そうな顔をするな。

 ティアもぎゅっと、膝の上で拳を握り締めるな。

 テルーズは……まぁ、さすがに冷静か。

 他の大人組も、このあたりは年長者らしいな。

 まぁ、当然か。


「オマエたちの言い分には、いくつかツッコミ所がある」

「だろうな」

「ああ。まずひとつ目、ララヤレルンが食料的に問題なく暮らせているのは、まずトライミッドとの交流があるからだ」


 国同士の距離もそこまで遠くなく、基本的には対等でWInWinな関係を構築している点。

 だから輸入や輸出が成り立っている。


「メラネルガリアはまだそこまで、トライミッドと信頼関係が無いだろ」

「そうだな」

「それに、俺がメラネルガリアに戻ったと知られれば、ララヤレルンを無責任に捨てたように思われちまう。そんな俺に大国が、いつまでも親切にしてくれると思うか?」

「思わん」

「だろう?」


 テルーズが先ほどから、ずっとイタいところを突かれたとばかりに天井を仰いでいる。


「野菜と果物に関しては、まぁ……たしかに俺だけでどうにかなるかもしれないんだが、それにしたって限界があるよな?」


 人間は野菜と果物だけで生きていけない。

 高度に発展して肥沃な世界ならベジタリアンでも問題ないかもしれないが、北方大陸(グランシャリオ)で菜食主義は普通に死ぬ。

 薔薇男爵も、俺がフェリシアやゼノギア、カプリに背を向けたと知れば、いつまで気のいい精霊でいてくれるか分からない。


「次にふたつ目、俺がいれば大魔と戦えるってのは……いくらなんでも俺頼り過ぎる。敵は一体じゃないし、メラネルガリアの外で鯨飲濁流が出たって話になったら、俺はそっちに駆けつけるぞ?」

「そうなれば、オマエを止められる者は何処にもいないな」

「そうだ」


 異界の門扉を筆頭に、俺には様々な手段が取り得る。


「さらに三つ目……オイ、頼むから泣きそうになるな」

「なってないっ!」


 セラスがとうとう涙目になりながら俺を睨み、ティアドロップも俯く。

 さっきの女騎士さんの様子を見れば、こいつらがこれまで本当に頑張って来たのは分かる。

 だから俺もこんな意地悪みたいな理攻めはしたくなかったんだが……帰って来てと言われてハイ分かりましたと二つ返事をするには、あいにく背負っている物が大きくなりすぎた。

 だから、最後のコレはどうしても言わなくちゃいけない。

 セラスとティアだけじゃなく、全員に向けて。


「なあ、皆。だったらさ、ララヤレルンに来いよ」

「「──え?」」

「俺がそっちに戻るより、皆がこっちに来てくれたほうが良くないか?」

「……いやいや、ちょっと待て愚弟」

「なんだよ姉上」

「オマエ、それは……メラネルガリアを捨てろと言っているのか……?」

「違う。そんな大袈裟なことは言ってない。いや、やっぱ言ってるのか?」

「オイ!」


 テルーズがコメカミを抑えながら叫んだ。

 他の全員も、突然の申し出に目を(しばた)かせている。


「えっとだな? 今のメラネルガリアは厳しい状況にある。だったら、しばらくの間ララヤレルンを間借りしてくれればいい」

「若様……それは……」

「セドリック。オマエも調べたなら、あそこがまだかなり人口的に余裕を持ってるのは知ってるだろ?」

「はい。それはたしかに……」

「今のメラネルガリアの総人口がどれくらいか分からないけど、足りない分は開拓してキャパシティを増やす」


 どうだ? と頭のいいメンツに視線を送ると、ティア、バルザダーク、テルーズの順にそろばんを叩き終えた様子だった。

 ララヤレルンに存在するゴーストシティは残り七つ。

 ウェスタルシア王国に預けてある子どもたちもいるので、すべてをメラネルガリアに貸し出すコトはできないが、臨時的に周辺の土地を開拓して国土を広げればどうにかなるだろう。

 セラスは「え? え?」とさっきから困惑している。


「いや、でも、それにしたって全員の受け入れは無理だわっ」

「ムー!」

「そうだぞ愚弟。七万人を即時そっちで受け入れてもらったとしても、メラネルガリアの総人口はいま二十万弱だ」

「じゃあ全然ダメじゃない!」

「二十万弱か。なら、二ヶ月後くらいにはどうにかなるだろ」

「ウソっ! どうにかなっちゃうの!?」


 ララヤレルンの死霊を一気に増員し、昼も夜もなく働いてもらえば問題ない。

 死霊たちには迷惑をかけるが、必要な仕事はやってもらう。

 開拓には細心の注意が必要だが、いつまでもゴーストシティがあるより健全だろうしな。


「もちろん、俺も故郷が無くなるのは困る。メラネルガリアが自立できるように支援はさせてもらうし、どうせ長い人生だ。にっちもさっちも行かない今の状況であそこに留まるより、ほんの少し南部で暮らしてみてもいいんじゃないか?」

「コイツめ……」


 テルーズが「ぐぬぬ」と唸る。

 しかし、大人組の顔色をうかがうと「それは正解だ」という表情なので、俺の提案はかなり良策だと思う。

 ララヤレルンで暮らしている間、メラネルガリアはトライミッドと密に交流を重ねられるだろうし、長いスパンで物を見れるから、元の国土に戻った時にどうやって貿易関係を維持するかなども策定できるだろう。

 他種族との関わり方を学ぶ──思い出すためにも、ちょうどいい機会になるだろうしな。

 同盟の観点から言っても、連携を強化できるし団結もし安くなる。協力して防衛にも当たりやすい。


 何より、


「メラン。母は賛成です。しばらく一緒に、住めるってコトですものね?」

「まぁ……お望みならそうなります」

「お望みですっ」


 ニコッ!

 ルフリーネがとんでもなく嬉しそうなのと、セドリックが「ではまた、若様にお仕えできますな」とウキウキし始めている様子からも分かるように。

 双子姉妹の頭の中でも、これがどういう意味を持つ提案なのか完全に理解できたみたいだった。


「どうしましょう、セラス」

「どうしましょうって、ティア……」

「私たち、もう少しで泣いて縋り付くところだったのに、これってプロポーズしようとしてたら逆にプロポーズされちゃったみたいな状況じゃない?」

「その例えはちょっと恋愛脳すぎてバカだと思うけど、さっきから胸がうるさいわ!」

「最高にドキドキしてる……」


 ふたり揃って胸の前で手を置いて、ゴクン、と息を飲み込んで。

 テルーズがグルンと目を回して、ズルズル椅子をずり落ちていった。


「もうオマエが王でいいだろ」

「いや、それはちょっと……」

「ムー! ウー?」


 バルザダークが指文字で、「さすがメランズール殿下! 初夜は今日で?」と伝えて来た。

 アイツ、最低なオジサンに成り果ててないか?

 努めて無視し、ルフリーネの腕を苦労してほどいて、


「あん、メラン!」

「ちょっと我慢してくださいね母上」


 立ち上がり、床に転がりかけているテルーズのもとへ歩く。

 膝を着いて、幼女を立ち上がらせてっと。


「オイ。人形みたいに気安く襟元を引っ掴むな」

「そりゃ失礼しましたが、姉上」

「アン?」


 手を差し出して、握手を求めた。


「一応、形だけでも合意の証は必要でしょう?」

「……フン、いっちょまえに。生意気だぞこのこのこのこのこの!」

「イテッ!」


 バシンっと握手はされたが、同時にスネを蹴られる。

 懐かしいな。前もこうして、この小さな姉にスネを蹴られたっけ。

 でも何で、こんなに痛いんだ?


「爪先に板金仕込んでますか?」

「ああ」

「……道理で」


 こっちも板金仕込んであるのに、おかしいと思ったんだよ。

 メラネルガリアらしいっちゃ、らしいけどな。






────────────

tips:盗賊の夜散歩


 部屋に戻って休んだと見せかけて、カプリはターリアを散策していた。

 大闘技決闘会が始まる前に、ある程度、王宮の構造を掴んでおくためだった。

 また、なにか面白そうなコトがないかと、風に乗って聞こえてくる言葉を吟味していたというのもある。

 しかし、やはり一番面白そうなのは、王宮に入る前に入手した情報だった。

 聖地パランディウム。聖女アイヴィ。拝光聖騎士団長スカイハイ。灑掃機構三番、通称はレディ・エンジェル。

 いずれもカルメンタリス教の顔とも呼べるモノたちは、実は星辰天秤塔、小国家連合の飛び入りを前もって押さえていたフシがある。

 カプリの耳には聞こえたのだ。小用と嘯いて軽く様子を探って来た際に、

 「ガンドバッハ王は、サプライズを用意しているでしょう」

 ──面白い。山王の間であの事態を見届けるまで、どういう意味かは分からなかったが。

 「ククク。彼奴等、どうやって知り得た?」

 あるいはこれも、聖女とやらの霊験の一種なのか。

 隠形し、気配を消して、カプリはとりあえず星辰天秤塔から探ってみるコトにした。

 目下最大の謎のヴェールは、第二世界の星読み天使たちだからだ。

 この同盟会談には、何かが起こるだろう。

 盗賊の勘が、切れた弦のようにザワついていた。



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