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第5話 変態紳士は宇宙戦争の夢を見るか

操縦桿そうじゅうかんなんて飾りです。あなたはまだそれが分からないのですか」


 ドクターに渋い声でため息をつかれる。


「し、仕方ないじゃないか。久しぶりなんだから」


 僕は左右の操縦桿を必死にガチャガチャとしながら宇宙船を操作した。

 これはいつもの夢だ。小さな頃から繰り返し見てきた、ただの夢だ。


「操縦桿は脳波操作をしやすくするための補助器具に過ぎません。重要なのは頭の中で精密にイメージを組み上げることなのですぞ」


 分かってはいるけどそれが難しい。

 常に精神を感応炉に同調させて高次元からの位相エネルギーを取り出しつつ、同時に宇宙船の操縦、防御シールドの展開、そしてビーム砲の発射シークエンスを実行しなければならない。

 脳内でそれらのことをマルチタスクで並列処理するのは並大抵ではない。どうしてもシングルタスクになってどれか他の事がおろそかになりがちだし、つい操縦桿という分かりやすい操縦体系に頼ってしまう。

 だけどそれだと当然手薄になった処理はおざなりになってしまうし、操縦桿では限定的で大雑把な操作しかできない。それだとなかなかミッションをクリアできないのだ。


「小さなころから訓練しているというのに、あなたは本当にマルチタスクが苦手ですなあ」


 ほっといて欲しい。どうせ僕は不器用なのだ。それにこれでもだいぶマシになった方だった。

 持って生まれたセンスもさることながら、幼少期から長年訓練しないとできないというのもうなずける。こんな複雑な思考は頭の柔らかい子供の時から訓練しないととても無理だろう。


「このままではまた撃沈されてしまいますぞ」


 仕方ない。こうなったらヤケだ。

 僕は防御シールドの制御を半ば放棄し、船の足を止めて主砲の射撃に集中した。

 敵が先に発砲する。

 有効射程距離ギリギリなのでその一撃はかろうじてシールドがはじいたものの、それでシールドは消滅してしまった。足を止めているから次弾はもう避けられない。

 だけど、それで十分だった。

 長大な仮想バレルを組み上げた僕は、全エネルギーをそこに流し込む。

 絞り込まれた強力なビームが、敵艦のシールドを貫いて重要区画を破壊した。


『ミッションコンプリート』


 そう表示が現れて戦闘シミュレーションが解除される。


「なんとかできたあ」


 僕はホッとして頭部を覆っていた大きなヘッドギアを上に跳ね上げる。


「なんとも力技ですな。もう少しエレガントに操縦はできないのですか。一か八かなどまったくもって優雅ではありません」


 ドクターはそうぼやくけどミッションはちゃんとクリアしたのだ。これ以上を僕なんかに望まれても困る。


「べ、別にいいじゃないか。捨て身の長距離狙撃も立派な戦術だよ」


「まあ、今日のところはこれくらいでよしとしておきますか。それにこれ以上時間を取って遅刻されても困りますからなあ」


 ドクターからお許しが出た。というか時間切れだろうか。


「では正面モニターの5円玉を見つめてください」


 どうして宇宙船の人工知能が5円玉なんかで暗示をかけてこようとするのかが分からない。じじむさい声に趣味も引きずられているのかもしれない。

 でも指示に従わないと解放してくれないのは分かっているので、僕は仕方なく揺れる5円玉を見つめた。


「あなたは段々眠くなーる。眠くなーる。そして目覚めたらここでの全てを忘れてしまいます。再び夢で出会うまで、私のこともシミュレーションのことも忘れてしまいます」


 夢の中で眠くなるとは何かのジョークなのだろうか。

 そう疑問に思いつつも僕のまぶたは次第に重くなっていく。そしてそのまま眠りに落ちた。





「何か夢を見ていた気がするんだけどなあ」


 いつもより少し遅い時間に起床した僕はそう首をかしげる。


「しかも前に何度も見たことがある夢だったはずなんだけど……」


 ダメだ。すごく引っかかるのにどうしても思い出せない。

 まあ夢なんて所詮しょせんそんなものだろうか。

 よく分からない夢のことを諦めて、僕は枕元に置いておいたペンダントを首にかける。


「ん、今日はなんだかペンダントが温かいな」


 たまにそんなことがある。何とも不思議なペンダントだ。

 これはアリサちゃんのママから昔もらったもので、大粒のパワーストーンが埋まった高価そうな奴だった。なるべくずっと身に着けておいて欲しいと言われている。何かのおまじないだろうか。

 実はアリサちゃんとお揃いで、彼女と同じものを身に着けているというのが僕の密かな喜びだったりする。

 もっとも、彼女の方がそのことをどう思っているのかは分からない。それでも今となってはママの遺言でもあるので僕に文句は言えないはずだ。

 これさえあれば、僕はどんなことがあってもアリサちゃんと繋がっていられる。それが僕に残された、最後の希望だ。

 僕は、このペンダントをもらったあの日のことを決して忘れない。







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