悲しくて恥ずかしくてなりません
黒龍のギルドにいたときに感じた違和感はやはりアスを狙っている魔物や怨霊の気配だった
馬にのりながら戦うことは難しく私はアスを守りながら、時には教えながら魔獣や怨霊に向かっていっていた
「教えるの下手なのに!!」
「十分教わってるよ?」
「アスは力を使えなかったわけじゃないから方向付けしてやればAランクの魔獣なら俺たちと一緒に戦えるな」
「私たちからはなれないようにねさすがに近くにいないと守れないから」
「なんで?」
「さすがに見ただけでランクを言い当てるまで経験積んでないからね絶対に一人にならないこと!」
「はーい…」
「大丈夫、SSランクが来ても必ず守ってあげるからシルクスと楓お姉さんに任せなさい」
「…安請け合いはしないでよ?」
「もちろん逃げるが勝ちが最初だけどね逃げ切れなかったら私たちが守ってあげる」
きっとそのときの私は弟が出来たみたいで嬉しくて舞い上がっていたんだと思う
同じく神の子として生まれてしまったアス
気を付けなければならなかったのはアスじゃなかった
ふとしたときにアスがシルクスと居なくなるときがあったけど
シルクスと一緒に居たから大丈夫だろう
そんな気の緩みがなかったとは言えない
後10日位でギルドに着く
そんな気の緩みが
いつもなら結界が緩むと気づいたのに私は気づけなかった
夜営して見張りを交代制にしていたときに私の番だった
なのにアスが出ていったことに気づけなかった
始めに気づいたのはシルクスだった
ふと辺りを見まわすとアスが居ない
胸騒ぎがした
急いで辺りを探すと魔獣に襲われていたアスを見つけ出した
魔獣に消滅(物理)を使って、アスを助けようとシルクスと魔力と流れ出た血液を復活させていくのだがなんせ時間がたちすぎてる
「バカアス!!一人で行動するなと言っただろう!!」
「…ご…め」
「話すな!傷に響く復活は追い付かないのか!?」
「精一杯やってるよ!上手くコントロール出来ないんだ。これ以上早く復活させると体に負担をかけてしまう」
「再生の力を使えば直ぐに治せるのに…」
「なんで使えないんだ!シルクスと癒し神はなにをやってるんだ!」
「俺だって直ぐに再生させたい!でも、再生と浄化は同時に行えない!!」
つまり、私が倒した魔獣の浄化を行っているために再生が使えない…
私の消滅(物理)は形あるものに対して力を発揮する
そう、SSランクでも形さえとっていれば物理とみなされるある意味私にとって有利な魔法だ
だが、そのまま放置するとまた形をとってしまう
完全な消滅か浄化でなければ輪廻の輪に入れたりもう一度戦うことをしなくてすむ
今は魔獣の浄化をしているから再生まで力がまわらないと言うことだろう
「復活だって繊細な加減が必要なんだ!」
言い合いしてる場合じゃない血の臭いを嗅ぎ付けてるのか瀕死な魂に引かれるのか怨霊まで魔獣に混じってよってくる
いっそのこと空間魔法で見つけ出したブラックホールを使って一掃したいくらいだ
「か…か…さま…」
「神を呼ぶな!生きるんだよ私が姉さんでシルクスが兄さんで…」
「楓…」
「ごめ…ね…ぼく…」
「話すなって言ってるだろう手に負えないワルガキに見せたいものがたくさんあるんだ!!」
『…戦神と癒し神の愛し子よ…』
なんで来るんだよまだ死んでない治して見せる
『もうよいのだ…わらわが愚かだった…』
なにが愚かだって言うんだ人に託したことかそれとも私たちに頼んだことか
『人を愛して人の子を産んだときに手離さなければ我が子にこんな想いをさせることなく済んだのに』
「まだ生きてる!」
「楓…親が引き取りに来たんだ渡さなければ」
「復活を止めればアスは…!!」
アスは事切れてしまうそんなこと許されない
人は死んだらそれまでだ
リセットなんて出来ないんだ
自分の顔がぐちゃぐちゃになってることくらいわかってるでも今やめたら…
『戦神と癒し神の愛し子よ…生みの神の願いを聞いてはくれまいか』
「…生みの神の願いとは?」
なんで生かしちゃいけないんだ
『わらわと人の産み出した結晶であり人の魂を持つその子を戦神と癒し神の愛し子がいつか愛するモノと伴になったときにその子の魂を持つ子を産んでほしい
わらわはその子をわらわの加護を宿した子にしたい』
「楓、聞いたか?」
「でもそれはアスじゃない!」
『分かっておる。わらわとて手離したくない
だが、人の魂を持ってしまったその子は神には成れない
そなたのように神と神の子供ならわらわたちの居るべき場所に来ることはできるが…』
「…楓、もうアスを楽にしてやろう…?」
「シルクス…でも、でも!」
「いつか同じ魂の別人だけどアスに会えるんだ楓が今度は親になって」
そっと復活をさせている手にシルクスの手が重なる
そうして生みの神の手によってアスの体は無くなり綺麗な球体がその手に乗った
それはアスだ
生みの神の手によってアスの魂はそっと抱き締められていた
『なにもできない母さまで済まないね…抱き締めてやることもできなかった』
そっと生みの神がこちらへ振り向く
シルクスに寄りかかって立ってる状態でぼんやりとその光景を眺めていた
『我が子を頼む…』
そういった生みの神に抱かれていたアスの魂は私の胎にすうっと吸い込まれていった
不思議に思いペタペタと自分のお腹を触る
アス
もう居ない。いたずら好きで、でも力の使い方を必死で覚えようとして居た姿がよみがえる
「シルクス…」
私はシルクスに抱きつき思いっきり泣いて泣いてシルクスはそれをただ抱き締めてくれた
『戦神と癒し神の愛し子よ、我が子を最後まで見放さないでくれてありがとう…』
そう言いながら空に消えていった生みの神
私はシルクスに抱き着いたままなのを思い出して恥ずかしくなって離れた
泣きに泣いた自分が恥ずかしいしシルクスの体温が恥ずかしかったのもある
何故だ
今までずっと傍にいて恥ずかしいとか思ったこともなかったのに
ただシルクスも男なんだと思ったら恥ずかしくなった…
たくましい腕に細く見えるが着痩せする胸板
一つ一つが恥ずかしくなった
「ごめん!なんか重たかったよね!」
「楓。落ち着いたか?ならやるぞ」
辺りにはSSランクからDランク迄魔物から怨霊までうじゃうじゃしていた
それはわかるけど意識してるのが自分だけだと思うと少し腹立つ
八つ当たりさせてもらおう。
私は思いっきり消滅(物理)を扱っていた
それを次々と浄化しているシルクスの顔なんて見ていなかった
恥ずかしくて見れなかったのだ