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 観客席から見える広場に設置された大型モニターには、随時、レースで戦う魔女たちの姿が大きく映し出されている。

 同じ映像がファミリアーブースのモニター上でも流され、ボクたちはそれを見ながらパートナーである魔女がレースを戦いやすいようにサポートする。


 カメラが誰を捉えるかはとくに決まっていないものの、主に緊迫したデッドヒートが繰り広げられている場面を映し出すことが多い。

 このとき、飛びながら叫んでいる魔女たちの声も捉え、スピーカーから流される。

 それが余計に臨場感を与えてくれるのも、ウィッチレースの特徴となっている。


 超高速で飛んでいる魔女たちの声――。

 自分に気合いを入れるための言葉だったり、ライバルに対する感嘆や威嚇の言葉だったり、様々だ。


 そういった声をぶつけ合いながら、魔女たちは戦っている。

 風の音でかき消されてしまいそうにも思えるけど、防護チューブ内の気流の関係か、魔女たちのあいだで飛び交う声は、彼女たち自身にもはっきりと聞き取ることができるらしい。


 そんな中でも、一番激しく終始叫び続けている人がいた。

 アリサさんだ。

 彼女は本当に、ちょっと失礼かもしれないけど、いつも騒がしいほどの叫び声を発している。


 その声が向けられるのは、たいていデッドヒートの相手。

 つまりは、ヒミカに対して向けられていることが多い。

 今日のアリサさんは、ヒミカ、オードリアさん、ミルクちゃんと、またしても四つ巴のバトルを演じていた。




 ――バリバリバリバリバリバリッ!!

「こらヒミカさん、あんた待ちなさい! なに黙々と飛んでるのよ! もっとレースを楽しみなさいよね!」


 ――ホワワワワワワワワワワオン!!

「にゃははっ! アリサちゃんは楽しみすぎってくらい楽しんでるよね~!」


 ――キュイイイイイイイイイイン!!

「そうですねぇ~。ちょぉ~っと暑苦しいくらいですけどぉ~」


 ――バリバリバリバリバリバリッ!!

「うっさい! だってさ、ヒミカさんみたいに仏頂面で飛んでても、見てるお客さんだって楽しくないでしょ!?」


 ――ホワワワワワワワワワワオン!!

「にゃははっ! まぁ、それはあるかもだね~!」


 ――キュイイイイイイイイイイン!!

「うふふ、ですが、ヒミカさんはこれでも、すごく楽しんでいると思いますよぉ~。……ねぇ? ヒミカさん」


 ――ギュヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲン!!

「うん、すごく楽しい」


 ――バリバリッババババリバリッ!!

「楽しいならもっと笑え、こら!」


 ――ギュヲヲヲヲヲヲンヲンヲン!!

「怒鳴ると、お肌に悪い」


 ――バリバリバリバリバリ……ッ!!

「あ……あんたね~~~~~!」


 そんな、いつもどおりといった雰囲気の会話を楽しみつつ、激しい飛行音を伴った熱い戦いを続けている。

 実際には超高速で飛ぶだけでも魔力と体力を消耗し、みんな汗だくになっているような状況なのだけど、そんなことをおくびにも感じさせない様子の彼女たち。


 見ている観客やファミリアー陣としても、なんだか楽しい気分に包まれてしまう。

 こういった部分も、ウィッチレースが国民的に愛されている理由のひとつなのかもしれない。




 不意にピットが慌ただしくなった。

 ファミリアーブースでモニターを確認し、指示を与えていたボクたちファミリアーが、それぞれピットの配置につく。

 パートナーであるホウキ星たちのピットインしてくるタイミングが近づいたのだ。


 ボクもマナオイルを準備し、ヒミカの到着を待つ。

 近づいてくる影は四つ。

 どうやら、デッドヒートを演じていたヒミカたちは四人とも、同じタイミングでピットへと入ってきたようだ。


 ――ギュヲンヲンヲンヲヲン……


 ボクのすぐ目の前に、ヒミカのホウキが止まる。

 ヒミカの吐き出す荒い息を頭上に感じながら、ボクはホウキの給油口にマナオイルを流し込んでいった。


「ヒミカ、調子はどう?」

「最高」


 マナオイルを注ぎ込むあいだ、ボクはヒミカに話しかける。

 少しでも休ませたほうがよさそうな気もするけど、こういうときは気持ちを切り替えてやることも大切なのだ。


「そっか、楽しんでるんだね。アリサさんたちと随分激しくやり合ってるよね」

「うん。でも、わち、負けない」

「その意気、その意気!」

「終わったら、ジャンボフルーツケーキ」

「……はいはい。ヒミカはやっぱり、そうじゃないとね!」


 給油口のフタを閉めながらボクは笑う。

 ヒミカも微かに笑い声を上げてくれた。

 続いてタオルをつかむと、ヒミカの全身に滝のように流れる汗を拭き始める。


「水、飲む?」

「うん」


 水の入ったコップを素早く手渡すと、ヒミカはガブガブと一気に飲み干す。

 まだ汗が止め処なく溢れ出し、呼吸も乱れまくっているような状態だった。

 もっと休んでいってほしいところだけど、レース中のヒミカにはゆっくりしていられる時間なんてあるはずもない。


「さ、ヒミカ。終わったよ!」


 最後にボクは冷たい濡れタオルを差し出し、代わりにコップを受け取る。


「ん。ありがと」

「それじゃ、頑張って。行ってらっしゃい!」

「行ってくる」


 ――ギュギュギュヲヲヲヲヲヲン!!


 作業終了と同時に急加速。

 風をまとい爆音を残しながら、ヒミカはピットを飛び出していった。

 その背中を、名残惜しさを抱きながら見送るボク。

 超高速で飛ぶ魔女だから、見えなくなるまでの時間なんて、ほんの一瞬でしかないのだけど。


 ピット作業を終えてファミリアーブースに戻ると、コースに復帰したホウキ星たちの姿がモニターに映し出されていた。

 ヒミカがコースに戻るのと同時に、アリサさんとオードリアさん、ミルクちゃんも同じタイミングでピットから出てくる。

 四人のデッドヒートは、どうやらまだまだ続きそうだ。


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