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開催を祝福する花火が、まるで大砲のような大音量を伴って次々と大空に花開く中、ウィッチレース最終戦の幕が、今ここに切って落とされようとしていた。
スタート時間が迫る。
ボクはヒミカと力強く握手を交わし、頷き合った。
言葉なんかなくても、気持ちは伝わるもの。
最後の戦いだよ、思う存分楽しんできてね。うん、もちろん。
そんな音を介さない会話が成立していた。
結果がどうなったとしても、悔いは残るまい。
ボクも悔いの残らないように、最終戦のレースを精いっぱい楽しもう。
そう心に誓いながら、ボクはヒミカを送り出した。
直後、フォンピューターが振動し、着信音が鳴り響く。
ヒミカのお母さんからの電話だ。
ボクは急いでファミリアーブースに入ると、電話に出た。
「セスナくん!」
すぐさま大きな声が、フォンピから聞こえてくる。
前回の電話では、情緒不安定気味ではあったものの、沈んだ声を発していたおばさん。
どうやら今は元気そうだ。
と思ったのも束の間、
「結局一年経っちゃったじゃない! 今日こそ是が非でもヒミカを諦めさせるのよ!」
おばさんはそんなことを言い出した。
やっぱり、ヒミカを連れ戻すのは諦めていないようだ。
若干呆れながらも、ボクはおばさんをなだめようと口を挟む。
「これまでのヒミカの勇姿は、おばさんも見てますよね? ヒミカは一生懸命頑張ってるんですから、そろそろ認めてあげても……」
そんな言葉を遮るように、おばさんは叫び声をぶつけてきた。
「もうどんな手段を使ったっていいわ! 今日のレースは絶対にやめさせるのよ! ピットインの指示をしないでガス欠にさせるとか、ホウキの飛行音がおかしいから危険だとでも言ってリタイアさせるとか!」
勢いに乗ったおばさんは、こんな提案までもしてくる。
「あっ、そうよ! 今からでもヒミカのもとに行って、ホウキの燃料の中に木の実かなにかを入れちゃいなさいよ! いつだったか、アリサさんのホウキがおかしくなったときみたいに! まだ間に合うでしょ!?」
……いったい、なにを言い出すのだ。
アリサさんがリタイアしたとき、超高速でコースを取り囲む透明チューブに激突していく姿を、おばさんだってテレビの中継で見ていただろうに。
透明チューブは安全に出来ているから、どんなに激しく衝突したとしても無傷で済む可能性が高い。
とはいえ、絶対ということはありえないのだ。
大切な娘を危険な目に遭わせてでも、やめさせろというのか。
さすがのボクも、これ以上黙ってはいられなかった。
「いや、そんなバレたらやばいこと、できませんよ!」
抵抗と呼ぶには弱かったかもしれないけど、反撃するボクの口調はかなり荒いものになっていた。
おばさんは怯むことなく、なおも言い返してくる。
「大丈夫! 関係者に知り合いがいるから、もみ消すことなんて簡単にできるわ! 実行に移すのよ、セスナくん!」
「そう言われても……」
結局、おばさんの勢いに圧され気味になってしまうボク。
「もう、はっきりしないわね! 男の子でしょ!? ヒミカのために、頑張って実行しなさい!」
続けられた言葉に、遅まきながら、ボクは初めての大きな反発を示すことになる。
「……それは、ヒミカのためじゃないです! おばさん自身のためでしょ!?」
「えっ?」
戸惑うおばさんの声。
でもボクは止まらない。
「おばさんは自分のことしか考えてない!
どれだけヒミカがレースを楽しんでるか、知らないからそんなことが言えるんです!
そりゃあ苦しいこともあるけど、必死に頑張ってるヒミカを、母親なら応援してあげるべきなんじゃないですか!?
それに、ボクだって頑張ってます! ヒミカとふたりで手に手を取って、レースでいい結果が出せるように!
もちろん、芳しくない結果に終わることだってあります!
だけど、結果がすべてじゃないんです!
レースに参加している、他のみんな――フェリーユさんやママさん、ミルクちゃんにオードリアさん、それによく言い争いをしているアリサさんとだって、ヒミカは仲よくやってます!
心配なのはわかります!
でも、いつまでも子供じゃないんです!
ヒミカだって、ボクだって!
だからおばさん、やめろなんて言わないで、信じて応援してください!」
我を忘れて一気にまくし立て、息が上がってしまうほどだった。
ファミリアーブースはパーテーションで区切られているけど、すぐにピットエリアまで出られるようになっている。
ピットは一列に並ぶように配置されていて、その脇にファミリアーブースが併設されている構造だ。
観客席側には壁があるとはいっても、ボクの声はおそらく外にまで漏れていたに違いない。
それでも、我慢ならなかったのだ。
ボクの主張を、口を挟むことなく黙って聞きいていたおばさんだったけど。
言葉が途切れたのを見計らって、こんなことを口走った。
「……わかったわ。もうセスナくんには頼まない。せいぜい最後のレースを楽しむことね」
「え……?」
「関係者に知り合いがいるって言ったでしょ? 来年は出場できないように、圧力をかけてもらうわ」
「そ……そんな……!」
「楽しみにしてらっしゃい。ふふふふふ……」
不敵な笑い声を残して、電話は切れた。
もうスタートまで時間がない。
リダイヤルしている余裕なんて、残されてはいなかった。
おばさんの電話の件は気になったけど、今は深く考えていても仕方がない。
不安を心の奥底に仕舞い込むと同時に、スタートの鐘の音が響き渡る。
気持ちを切り替えたボクは、一瞬にしてスターウィッチの白熱した雰囲気に呑まれていった。
☆☆☆☆☆
モニターでヒミカたちの勇姿を見つめながら、大きな声援を送る。
無線で伝わるボクの声は、ヒミカのモチベーションを高めてくれているはずだ。
長かった今年一年の戦いも、これで最後。
まだ終わっていないというのに、感動が湧き上がってくる。
ヒミカにはもう、年間チャンピオンの可能性はほとんど残されていない。
だとしても、田舎村から出てきていきなり参戦した初年度としては、これ以上ないほどの大健闘だ。
現時点で三位。
後半戦の美しさポイントと減点がどれくらいかわからないから、確実なことは言えないけど。
普通に考えれば二十人いる出場者の中で上位三分の一以内には入って終えることになるはずだ。
もっとも、結果なんてこの際、どうだっていいのかもしれない。
フェリーユさんやママさんにはとうてい敵わないものの、仲のよいライバルであるアリサさんやオードリアさん、ミルクちゃんと互角の戦いを繰り広げてきたのだから。
それだけで充分、スターウィッチのレースを楽しむことができたと言えるだろう。
フェリーユさんと運営委員会の計らいでスターウィッチに参戦させてもらうことができたのは素直に感謝している。
とはいえ、正直にボクは当初、ヒミカにとっては悲しい結末になることを覚悟していた。
そんなに簡単な世界じゃないのは、疑いようもないからだ。
ヒミカはボロ負けを喫し、身のほどの違いを思いっきり味わう結果に終わるかもしれない。
ボクはそう考えていた。
おばさんにはあんな啖呵を切ってはいたけど、ボク自身も、ここまでヒミカが頑張るなんて思ってもいなかったのだ。
でもヒミカは今、こうしてレースを上位で楽しんでいる。
運が味方してくれたというのはあっただろう。
ただ、それだけじゃない。
ヒミカ自身、精いっぱい頑張った。
ささやかながら、ボクもヒミカの足を引っ張らないように頑張った。
よきライバルでもある素晴らしい仲間たちにも恵まれた。
そういったすべての要素が複雑に絡み合い、今のボクたちがあるのだ。
おばさんの言葉は、不安ではある。
本当にレースの関係者に話を通して、ヒミカは来年、レースに出場できなくなってしまうのか……。
ともあれ、悩んでいても仕方がない。
まずは今日のレースに集中すること。
それが今のボクに課せられた使命だ。
ヒミカのために。
ボク自身のために。
そして、レースを楽しみにしてくれている多くの観客たちのためにも。
決意を新たに、ボクはモニターに視線を向けた。




