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第二戦のレースが終わった。
レースが終わったあとには、表彰台に上がった三人のインタビューが行われる。
熱い戦いに最高潮まで盛り上がった観客は、ホウキ星たちの言葉がスピーカーから鳴り響くたびに、大きな歓声を轟かせていた。
また、そこかしこでカメラのフラッシュもたかれている。
表彰台に上っているあいだとインタビューの時間には、自由に撮影することが許可されているからだ。
ウィッチレースに出場する魔女たちはいつでも気を抜かずに、美しく気高い存在でいることが求められている。
中でも最高峰であるスターウィッチに参戦するホウキ星たちは、いわばアイドル的な存在と言える。
観客に愛嬌を振りまくことも必要なのだ。
ただ、カメラに狙われるのは、なにも魔女たち本人だけというわけではない。
それぞれの魔女にひとりずつついているファミリアーも、被写体となりうる。
ましてやボクは男なのに女装して出場している身。
写真などから正体がバレてしまっては、ヒミカや大会の運営陣に迷惑がかかってしまうだろう。
というわけで、ボク自身も決して油断はできないのだ。
インタビューなども終わり、出場者一同は控え室へ戻ろうとしていた。
控え室へと続く通路まで歩いていくあいだ、観客に手を振ったりして声援に応えるのも魔女たちの大切な役目となる。
表彰台やインタビュースペースは、控え室から一番遠いステージ上に設けられている。
つまり、上位に入賞した魔女ほど控え室に戻るまでの時間が長いということだ。
とくに表彰台に上った魔女は、その分だけ長く観客たちの熱い視線を浴び、声援に応える必要がある。
頑張ったとはいえ六位という成績に終わったヒミカには今、さほど注目は集まっていない。
気楽でいいとは思うけど、やっぱり残念な気持ちに包まれてしまう。
ボクはふと、横に並んで歩くヒミカに目を向けてみた。その表情は、随分と寂しそうに見えた。
「ヒミカ、疲れたよね? 帰ったら冷たいアイスでも食べようか」
レースが終わってからもう十分以上は経っているというのに、まだ荒い息を吐き出しているヒミカ。
それだけ、レースでの魔力と体力の消耗は激しいのだろう。
そんなヒミカにボクがそっと話しかけると、彼女はいつもと変わらぬ素っ気ない口調で答えた。
「ん。レモンシャーベット」
「……了解」
若干足もとがふらつくのか、ボクの腕につかまりながらではあったけど、ヒミカは観客たちの声援が轟く中をスタスタと歩いていく。
なお、ボクたちのすぐ後ろには、アリサさん、オードリアさん、ミルクちゃんと彼女たちのファミリアーも、ぞろぞろと続いてきている。
表彰台に上ったアリサさんはインタビューを受けていたはずだけど、終わるやいなや急ぎ足で駆けつけ、こうしていつも一緒にいるメンバーと合流していた。
「ふ~、ほんっと、レースのあとは暑いわよね~!」
アリサさんは汗でベタベタになった服の裾を両手で引っ張り、思いっきり大きく前後にパタパタとはためかせて、服の中に風を送り込んでいる。
「ア……アリサ、はしたないよ。まだお客さんたちから見える場所なんだし、もう少し我慢したほうが……」
ファミリアーであるメロディさんがキョロキョロと周囲をうかがいながら、慌てた声で注意を促した。
そのとき。
前方から乾いたシャッター音が響いた。
まばゆいフラッシュの光が、ボクたちの目に焼きつく。
「へっへっへ、なかなかいいサービスショットだったゼ、アリスミシェルラテレサ!」
カメラから顔を半分だけのぞかせながら、ヒゲ面の男性がそう言い放つ。
先日、オープンカフェでオフのひとときの写真を撮られた、あのときのカメラマンだった。
この人も魔女やファミリアーを長い本名で呼ぶのだけど、アイカさんたちとは違い、それすらもいやらしさを感じさせる。
「ちょ……ちょっと、フレイムさん、ひどいんじゃない!? いくらなんでも、今のはセクハラになるわよ!?」
声を荒げて抗議するアリサさん。
でも、カメラを構えた男性は動じる気配もない。
「うるさいな。ここはまだ撮影可能な場所だゼ? 文句を言われる筋合いはないと思うがね。……おっ、そういう表情もいいぞ、ヒミリエリュフィーカ!」
その男性は、アリサさんから怒声を浴びせられながらも、隣にいたヒミカへとカメラを向け直して写真を撮る。
ヒミカは、イヤなものを見た、という感じの苦い表情をしていた。その瞬間を撮られたのだ。
このフレイムと呼ばれたカメラマンの男性は、フレイアルトエンブレームさん。
ボクには、無断で写真を撮りまくるひどい人、という印象しかないのだけど。
実際にはウィッチレースの運営委員会から正式な写真撮影の依頼を受けているカメラマンのうちのひとりだったりする。
それでも、あまりの傍若無人さと、運営委員会に提出した写真以外を雑誌週刊誌などへ売り込んだりもするということに、魔女たちはみんな明らかな嫌悪感を抱いている。
「あんたね! ……ほら、ヒミカさんも言ってやりなさいよ! ヒミカさんだって、勝手に写真撮られたりするの、イヤでしょ?」
「……うん、イヤ」
ヒミカをあおり立てるアリサさんの声に、ヒミカのほうも控えめに同意を示した。
ボクたち総勢八名から睨みつけられているというのに、フレイムさんはまったく動じない。
その度胸は、ベテランのカメラマンならでは、といったところだろうか。
「ふん、お前らはアイドルみたいなもんなんだ。ぐだぐだ言わず、黙って撮られてればいいんだよ!」
そう言い捨てると、フレイムさんは背後に隠れていた女性に声をかける。
「キララ、行くぞ!」
「は……はいっ!」
キララと呼ばれた女性は、キランベリアマシュラさん。フレイムさんのアシスタントをしている人だ。
丸いレンズのメガネをかけたおとなしそうな女性で、ふわふわくるくるの髪の毛が印象的。
もう少し年上っぽい雰囲気があるけど、まだ十九歳らしい。
怒鳴りつけるような声をぶつけられたキララさんは、撮影機材などを大量に背負ったまま、言われたとおりにフレイムさんのあとを追って歩き去っていった。
見た目には細身なのに、重い撮影機材を大量に運べるなんて、どれだけ筋力がついているのだろう?
といった女性に対しては失礼かもしれない疑問と同時に、別の疑問も浮かんでくる。
キララさんは、どうしてあんな嫌な男の手伝いなんかしているのだろう?
もしかしたら、脅されているのではないだろうか。
だけど、キララさんの様子は、そういった強制されている雰囲気でもない。
フレイムさんの命令に、いつも、はいっ、はいっ、と素直に応える彼女の瞳は、キラキラと輝いているようにすら思えた。
「……セスナ」
不意にヒミカが、ボクの袖をちょんちょんと引っ張る。
「ん? どうしたの?」
「……わち、変な顔してた?」
微かに頬を赤く染めながら、ヒミカはそう訊いてきた。
さっき写真を撮られたときの顔、変じゃなかったか、というのを確認したいのだ。
フレイムさんが勝手に撮った写真は雑誌に載ったりすることもあるから、気になっていたのだろう。
「大丈夫だと思うよ。フレイムさんは綺麗に見える写真しか、発表しないみたいだし」
ボクは正直にそう答えた。
フレイムさんはあんな喋り方で自分勝手な印象だけど、発表してもいい写真かどうかについては確固たる信念を持っているように思えたからだ。
実際、雑誌に載っているどの写真を見ても、魔女たちの美しさや華麗さが感じられる、素晴らしいものばかりだった。
もっとも、たまにきわどい写真なんかも雑誌に載せられたりするのが油断ならないところではあるし、本人に無断で写真を撮るのは、やっぱりひどいと思うのだけど。
と、ボクの答えを聞いたヒミカが、バシッと頭を叩いてきた。
「……つまりセスナは、さっきのわちが、おかしな顔をしてたと思ってるってこと」
むすっとした様子でつぶやく。
「あう……、べつにそういうつもりじゃ……。ヒミカは、その……可愛いよ」
ボクは慌てて取り繕い、自分でも顔から火が出るほど恥ずかしい言葉を返す。
するとヒミカは、
「……それは、当然」
なんて言いながらも、微かに頬を染め、表情を緩めるのだった。




