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――バリバリバリバリバリバリッ!!
まず飛び出したのはアリサさんだった。
――キュイイイイイイイイイイン!!
――ホワワワワワワワワワワオン!!
それにオードリアさんとミルクちゃんが続き、
――ギュヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲン!!
ヒミカもどうにか食らいついていく。
――シュファーーーーーーーーッ!!
――ギュウィィィィィィィィィン!!
そのあとを、落ち着いた笑顔を浮かべたママさんとフェリーユさんが、愛しい子供たちを見守るかのように飛んでいく。
レースの様子は随時、モニターに映し出される。
自動追尾カメラの捉えた映像だけでなく、マイクが拾った音もスピーカーから流れ、レースの状況は手に取るようにわかる。
その上、ファミリアーブースにいるボクたちファミリアー陣には、もっと状況把握に役立つ装置も与えられている。
レーダーによって、ライバル勢を含めた全参加者の位置がわかる。
それに、パートナーである魔女のホウキ内に残るマナオイルの残量もわかる。
さらには、パートナーの体温や心拍数といった身体情報までもが表示される。
逐次更新されるそれらの状況を素早く判断し、的確な指示を出す。
それがファミリアーとしての重要な仕事となる。
また、パートナーである魔女と、無線マイクで会話することも可能となっている。
そのマイクがパートナー以外の魔女の叫ぶ声を拾うこともあり、それも状況を判断する有効な情報となりうるのだ。
気づけば、先頭は六人の集団となっていた。
もちろん、アリサさん、オードリアさん、ミルクちゃん、ヒミカ、そしてママさんとフェリーユさんの六人だ。
やはり彼女たちは、他の魔女とは一線を画しているのだろう。
ヒミカがしっかりとそこに紛れ込んでいるというのが、ボクとしては驚きではあったけど。
ともかく、レースは大きな動きもないまま進んでいった。
ウィッチレースでは、魔女が飛んでいる姿の美しさも重要視される。
そのため、ホウキの上に立ち乗りして飛ぶ魔女たちは、みんな長いスカートをはいている。
風になびくスカートや髪の毛なども、見た目の美しさを評価する要素となるからだ。
服装は基本的に自由だけど、スカートであるのは必須となっている。
ただし、パンツが見えてしまうのはNG。
太ももが見えるのはどちらかといえばプラスになるみたいだけど、パンツが見えてしまうと減点となるルールとなっている。
その判定は、コース脇の所々にある定点カメラからの映像で自動的に行われる。
スカートをはくことが必須となっているため、見えてしまっもいいようにと魔女たちには運営委員会からパンツが支給される。
鮮やかな若草色の非常に目立つパンツで、魔女たちは全員、それをはいてレースに臨んでいる。
塗料に特殊な色素が入っていて、定点カメラが映像として感知すると、自動的に減点されるというシステムになっているらしい。
――ギュヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲン!!
「わち、今何位?」
「五番手だよ! 前はアリサさん、すぐ後ろにオードリアさんがいる。でも、七番手以降も徐々に追いついてきてるから、気をつけて!」
「わかった。とりあえず、アリサさんを追う」
「深追いは禁物だよ! 落ち着いて集中すること!」
「セスナ、うるさい。わかってる、そんなの」
飛行音が鳴り響く中、無線のやり取りが続く。
レースは、大きな順位の変動こそないものの、抜きつ抜かれつの手に汗握る白熱したバトルが続いていた。
やがて、マナオイルの残量表示が赤く光り始める。燃料が少なくなってきたのだ。
「ヒミカ! 次、ピットインね!」
「わかった」
ボクは急いで、ファミリアーブースからピットへと移動する。
――ギュヲヲヲヲヲヲ、ヲヲン、ヲヲン、ヲン……
すぐにヒミカの乗るホウキがやってきて、ボクの手前に止まった。
ピットでは、ホウキが空中に浮いている状態のまま、マナオイルを注ぎ込む作業をしなければならない。
ヒミカが立ち乗りをしている足もとにある、ホウキの柄の中ほどに取りつけられた給油口を開け、ボクはマナオイルを注ぎ始める。
目の前に、汗びっしょりになったヒミカの素足が見えた。
魔女たちの乗るホウキには、ストッパーという装置が取りつけてある。
ホウキに立ち乗りする場合、利き足を軸として重心を取り、反対の足を後ろ側に添える格好となる。
ホウキの柄は細くて両足を揃えて乗ることはできないため、前後にずらす必要がある。その足を置く位置に合わせて設置されているのがストッパーだ。
中には、靴やブーツを取りつけておいて足がホウキから簡単に外れないようにしている人もいるのだけど、汗びっしょりになるため、かなり蒸れるという欠点があった。
だから多くの人は、かかとに専用の止め具がある特殊なサンダルをストッパーに取りつけている。
ヒミカが使っているのも、そのタイプだ。
サンダルのつま先部分には、汗に濡れたヒミカの足の指が見える。
汗のせいでかゆいのだろうか、ヒミカはもぞもぞと指先をしきりに動かしていた。
そしてさらに上のほうからは、激しい息づかいも聞こえてくる。
美しさも競うということで優雅なイメージのあるウィッチレースだけど、実際には極限まで体力も魔力も消耗する、とても過酷なレースなのだ。
ボタボタとヒミカの汗が流れ落ちてきて、ボクの体を濡らす。
大丈夫?
そう声をかけようと、視線を上へと向けかけた刹那、
「見上げるな、バカ。早く、次」
ボクの顔面にヒミカの足の裏が押しつけられた。
運営委員会から用意されたものとはいえ、ヒミカでもパンツを見られるのは恥ずかしいらしい。
サンダルを使用していると、こうやって素早く足をホウキから外すこともできる。
もしレース中に外れてしまったら、と考えると怖いのだけど、そのあたりのバランスも上手く制御できるのが、一流の魔女というものなのかもしれない。
と、そんなことより。
マナオイルの補給が終わっても、ボクにはまだ仕事が残っている。
ボクはタオルを手に取り、汗びっしょりになっているヒミカの足を拭き始めた。
それだけに留まらず、汗まみれで気持ち悪いだろうから、顔や腕といった素肌が露出している部分もすべてをタオルで拭っていく。
最後に、冷たい水に濡らしたタオルを首筋にかけてあげれば、ピット作業は終了となる。
「ちょっと時間がかかったけど、これで終了だよ」
「ありがと。行ってくる」
「ファイバッ!」
「……それ、微妙」
――ギュヲヲヲヲヲヲヲヲォォォォ……
軽く言葉を交わすと、ヒミカは飛行音を残してレースへと戻っていった。
それにしても、渾身の応援「ファイバ」を、微妙だなんて……。
静かになったピットで、ボクはガックリと肩を落としていた。
結局、このレースを制したのはママさんだった。
二位はフェリーユさん、三位がアリサさん。以下、ミルクちゃん、オードリアさんと続き、ヒミカは六位に終わった。
まだまだ新人のホウキ星としては、上々の出来と言っていいだろう。
前回は最後尾だったわけだから、かなりのジャンプアップだ。
「ヒミカ、お疲れ様。頑張ったね!」
レースから戻ってきて、疲れ果てた顔を向けるヒミカに、ボクは労いの言葉をかける。
「セスナのピット作業が悪かったから、勝てなかった」
ヒミカはそう答えながら、ボクの頭をバシッと叩いた。
なんて不条理な、と思わなくもなかったけど……。
ふとのぞき込んでみたヒミカの顔は、レースを戦い終えた満足感が溢れ出してきているようで、キラキラと輝く最上級の笑みをたたえていた。
それを見たボクには、ヒミカの気持ちに水を差すような反論を返すことなんて、できるはずがなかった。
「レース、楽しかった?」
「……うん」
改めて問いかけたボクの声に、ヒミカは素直に答えてくれた。
結果としては六位という成績ではあったものの、ヒミカはとても満足しているみたいだ。
そんな彼女の笑顔は、ボクの心までをも癒やしてくれる。
ボクは改めて、ヒミカのファミリアーとして一緒に頑張っていこうと心に誓うのだった。




