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二戦ずつ同じ都市で開催されるため、ウィッチレースの第二戦は開幕戦と同じく、ブルースノーで行われた。
とはいえ、コース自体は開幕戦とは違う。
国内六ヶ所の都市にあるウィッチレース用のコースは、基本的にふたつずつ用意される。
都市によっては、コースの一部を共有していたり、同じコースを逆に回るだけというところもあったりするのだけど。
今滞在しているブルースノーの場合は、完全に違うコースとなっている。
美しさを求める魔女たちのレースが、こうした都市に作られたコースで大勢の観衆を前にして行われる。
そのため、写真や動画を撮影する人は多い。
それ自体は運営委員会も認めていることだし、レースに参戦するホウキ星たちも認めているというか、諦めている部分ではあるだろう。
もちろん、趣味で撮影している人だけでなく、雑誌のカメラマンなど、仕事として撮影している人もいる。
そういった写真や動画は、ウィッチレースの運営側にとっても出場する魔女たち個人にとっても注目や人気を集める効果だってあるわけだから、むしろ歓迎すべきと言えるのかもしれない。
だけど、ヒミカたちだってうら若き女の子、勝手に撮られたりしたらやっぱり恥ずかしいのだ。
いや、ホウキ星の中には一部、うら若きと呼べる範囲内に入っていない人もいるか。
……って、すごく失礼なことを考えてしまった気がする。
それでも最高齢のママさんだって、長年この仕事をしている身だとはいえ、やっぱり恥ずかしいという思いはあるはずだ。
とても落ち着いていて、いつでも笑顔をたたえているママさんの穏やかな雰囲気からすると、全然気にしていない可能性もありそうだけど……。
第二戦のレースが終わり、ほどなくして発売された雑誌に、とある写真が掲載された。
ミルクちゃんがホウキの上に立ち、勇ましくレースを戦っている写真だ。
背が低くて幼く見えるミルクちゃんではあるけど、真剣な表情で前だけを見据え、強烈な風圧に負けないように歯を食いしばりながら飛んでいる姿は、春のまばゆい日差しに汗がきらめき、全身から爽やかさがにじみ出ているように感じられた。
そう思えるのは、魔女たちのレースが一種のスポーツとも言えるからだろう。
ミルクちゃんの勇姿を捉えたその写真自体は、華麗なホウキ星のイメージを象徴するくらいに美しい一枚だったのだけど……。
雑誌には他にも十数枚の写真が掲載されていた。
毎回、誰かひとりにスポットを当てているらしく、それらはすべてミルクちゃんの写真だった。
最初の一枚である一番大きな写真は、確かに素晴らしいと思う。
ただ、他の写真の中には、風によって大きくめくれ上がったスカートを背後からのアングルで撮影し、見えるか見えないかギリギリといった写真が数枚ほどあった。
陰になっていてはっきりとは見えないけど、チラリと若草色のパンツらしきものが確認できるような写真も、何枚か掲載されていた。
さらには、前方から撮影された写真の中には胸の谷間があらわになっている写真まであった。
童顔で幼く見られるミルクちゃんだけど、大きいというほどではないにしても、歳相応にというか、胸の膨らみはそれなりにあるのだ。
そして、雑誌には写真の撮影者の名前が記載されていた。
――フレイアルトエンブレーム。
そう、あのヒゲ面のカメラマン、フレイムさんがこの写真を撮影し、雑誌社に売り込んだのだ。
あからさまに下着などが写っているものまではなかったとはいえ、若干のいやらしさすら感じさせるような写真の数々……。
ヒラヒラと舞う布地による演出のため、スカートは長めの人がほとんどなのだけど、暑さを考慮してか、上着に関しては露出度が高い人も少なくない。
だから、主な読者層が大人の男性という雑誌に掲載される場合、露出した素肌を捉えた写真や、見えるか見えないかといったきわどい写真なんかが求められることも多い。
ボクだって男だから、それはわからなくもないのだけど……。
ヒミカたちは女性の憧れ、穢れない美しさを重視するホウキ星なのだ。
あまりきわどい写真を使うのは、やっぱりやめてほしい。
曲がりなりにも関係者側にいるボクとしては、そう思っている。
もし雑誌に掲載されていたのがヒミカの写真だったら、ボクは怒りを抑えることができなかったかもしれない。
魔女ホテル内にあるカフェテリア。
そこに今、ヒミカたち若手の有力ホウキ星四人とそのファミリアーという、いつもの面々が集まっていた。
「ちょっと、これ! ひどいと思わない!?」
声を荒げているのは、いつもどおり、アリサさんだった。
「あらぁ~、いくらミルクちゃんが幼い印象だとはいいましても、これはさすがに、男性の目を釘づけにしすぎてしまう感じですねぇ~」
オードリアさんは普段どおり、のんびり口調のままではあったけど、それでも写真を撮ったフレイムさんに対してなのか掲載した雑誌に対してなのか、嫌悪感をあらわにしているようだった。
「…………」
ヒミカも、声にこそ出さなかったものの、怒りの表情を浮かべていた。
ボクを含めたファミリアー陣も憤りを隠しきれないといった様相で、それぞれに愚痴や文句を並べる。
そんな中にあって、当の本人であるミルクちゃんだけは違っていた。
……いや、よく見れば、ミルクちゃんの斜め後ろで控えめに立っているファミリアーのサリーさんも、とくに怒ったりはしていないようだ。
サリーさんの場合は普段からおとなしいし、全然違和感がなかったのだけど。
「にゃははっ! みんな熱くなってるね~。でもさ、ミルちゃんはべつに構わないと思うんだよね。だってほら、ミルちゃんたちは見られるのが仕事って部分もあるんだからっ!」
笑いながらそう言いきるミルクちゃん。
幼い外見で、いつもどおり口の周りにケーキの生クリームをつけながらではあったけど、彼女はたまにこうして落ち着いた大人っぽい意見を述べたりすることがある。
ボクが思わず感心した視線を向けると、
「見つめちゃイヤン、なのだっ!」
ミルクちゃんはそう言っておどけてみせた。
☆☆☆☆☆
「ミルクちゃん、どうして怒らないんだろうね? 恥ずかしくないわけじゃないと思うんだけど……。仕事だから我慢してるだけなのかな?」
部屋に戻るやいなや、ボクはヒミカに意見を求めていた。
ボクとしては納得がいかなかったし、ヒミカもさっきは納得がいかないような表情を浮かべていたから、きっと同意してくれるだろうと思ったのだ。
そんな予想に反して、ヒミカはボクに異論を返してきた。
「カメラのこと、なんとなく認めてるというか、受け入れてる感じだった」
ヒミカにしては珍しく少しだけ言葉多めに述べられた意見を、ボクは戸惑いながらも、じっくりと頭の中に据えて考えてみる。
カメラというのは、カメラマンのあの男、つまりフレイムさんのことだ。
そのフレイムさんがいやらしいと思えるような写真を撮ることを、ミルクちゃんは受け入れている、というのだろうか?
ボクのほうからも意見を返し、ヒミカと徹底的に話し合ってみようと思い始めていたところだったのだけど。
「寝る」
いつものぶっきら棒な口調に戻ったヒミカは、さっさとベッドに潜り込むと、布団をばさりとかけて横になってしまった。
「……うん、そうだね。ヒミカもレースで疲れてるもんね。ごめん」
「謝ることじゃない。セスナも、早く寝ろ」
思わず謝るボクに、ヒミカはそう声をかけつつ、布団を持ち上げて中へといざなう。
ウィッチレースの出場者には魔女ホテルの部屋が与えられるけど、魔女とファミリアーのふたりでひとつの部屋となっている。
また、セミダブルくらいのサイズではあるものの、ベッドもひとつだけしかない。
布団も大きめなものが一セットあるだけだ。
魔女とファミリアーは一心同体と言えるほどの仲のよさが求められており、女性同士であるということから、一緒のベッドで寝るような習慣となっているのだろう。
だけどボクは男だから、これには困ってしまった。
「ボクはソファーで寝るよ。布団はないけど、上着をかけておけば大丈夫だから」
初めて魔女ホテルに宿泊させてもらったとき、ボクはソファーに寝そべりながらヒミカにそう言ったのだけど、
「ダメ。風邪ひかれたら、わちが困る」
ヒミカは怒りをも含んだ声を上げると、ボクを引っ張ってベッドに寝かせ、自分もその隣に体を横たえて布団をかけた。
ドキドキしてなかなか寝つけなかったボクとは対照的に、ヒミカはすぐに安心しきった寝顔を見せていた。
急に誰かが入ってきてもいいように、ボクは夜寝るときも女装したままではあった。
でも、いくら女装したままとはいえ、まったく男として見られていないなんて……。
そう思うと、なんだか悲しい気持ちになった。
そしてそれは、数ヶ月経った今でも、まったく変わっていない。
静かに布団の中へと入り、遠慮がちに体を横たえると、ヒミカの小柄な顔が視界に大きく映り込む。
恥ずかしくて後ろ向きで寝たりすると、向き合って寝るように言われるから、ボクは顔をそむけることもできない。
ヒミカがそう言う理由は、人に後ろ頭を向けるなんて失礼だ、というものだったりするから、わけがわからないのだけど。
一瞬にして熟睡モードへと移行してしまったヒミカの規則正しい寝息を間近に感じながら、ボクもゆっくりと眠りの世界へと落ちていった。




