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九条家の夏の別荘へ

車は海岸沿いの道路を走り続けていた。


窓の外には青い海が広がり、夏の日差しを受けた波がきらきらと輝いている。


陽菜は先ほどから窓の外を眺め、興奮を隠せずにいた。


「蓮くん、見て! 海がどんどん近くなってきたよ!」


悠斗は陽菜の指差す方向へ視線を向けた。


「本当だ。綺麗だな」


「早く海に行きたいなぁ!」


向かい側の座席に座る麗華が、小さくため息をついた。


「陽菜、下田に到着したばかりですわ。まずは別荘に着いて、荷物を整理しなければなりません」


「分かってるよ。でも、楽しみなんだもん!」


「……まったく」


そう言いながらも、麗華の口元には微かな笑みが浮かんでいた。


窓際に座る栞は、カメラを構えて海岸の景色を撮影していた。


「……本当に綺麗」


「栞、いい写真が撮れた?」


悠斗が尋ねる。


「うん。別荘に着いたら、もっとたくさん撮りたいな」


「楽しみにしてるよ」


栞は小さく微笑んだ。


やがて車は大通りを離れ、緑に囲まれた私道へと入っていった。


その先に、九条家の夏の別荘が姿を現す。


悠斗は思わず目を見開いた。


白を基調とした美しい建物。


大きな窓が並ぶモダンな外観に、広々とした庭園。


そして、海に面したテラスには大きなプールが設けられていた。


「……すごい」


悠斗は思わず呟いた。


「想像していたよりも、ずっと大きいな」


麗華は少し誇らしげに微笑んだ。


「九条家の夏の別荘へようこそ。気に入っていただけたようで何よりですわ、蓮」


「本当に素晴らしいよ。招待してくれてありがとう、麗華」


「……どういたしまして」


麗華の頬が、ほんの少しだけ赤くなった。


その様子を陽菜が見逃すはずもなかった。


「麗華ちゃん、今ちょっと嬉しそうだったね?」


「なっ……! 当然でしょう。お客様に喜んでいただけるのは、招待した側として嬉しいことですわ!」


「ふーん?」


「陽菜!」


悠斗は苦笑した。


「二人とも、到着したばかりなんだから」


「蓮くんは麗華ちゃんの味方なの?」


「いや、そういうわけじゃ……」


「……ふふっ」


栞が小さく笑った。


その笑い声につられるように、悠斗も笑顔を浮かべる。


賑やかな雰囲気のまま、車は別荘の玄関前に停車した。


「皆様、お待ちしておりました」


玄関から一人の執事が歩み寄り、丁寧に頭を下げた。


「お荷物は係の者が運びます。どうぞ中へお入りください」


「ありがとうございます」


悠斗たちはそれぞれ荷物を預け、建物の中へと足を踏み入れた。


***


別荘の玄関ホールは、広々として明るかった。


大理石の床に柔らかな光が差し込み、壁には落ち着いた色合いの装飾が施されている。


陽菜は周囲を見回した。


「わあ……! まるでホテルみたい!」


「ここは別荘ですわ。ホテルではありません」


麗華がすかさず訂正する。


「分かってるよ! でも、すごいんだもん!」


栞も静かに周囲を見渡していた。


「……窓から海が見えるんだね」


「ええ。こちらのリビングからも海を眺められますわ」


麗華が案内する。


大きな窓の向こうには、青い海と広いテラスが広がっていた。


悠斗は思わず足を止める。


「これは……」


「気に入りましたか?」


「うん。こんな景色を毎日見られるなんて、贅沢だな」


麗華は微笑んだ。


「滞在中は、好きなだけ楽しんでくださいませ」


その後、執事が一行を二階へと案内した。


「皆様のお部屋は、こちらの廊下にございます。今回はお一人ずつ個室をご用意しております」


「個室なんだ」


悠斗が確認する。


「はい。皆様にゆっくりとお休みいただけるよう、準備しております」


「ありがとうございます」


悠斗たちは廊下を進み、それぞれの部屋へ向かった。


***


悠斗の部屋は、広々とした空間だった。


大きなベッドに、落ち着いた色合いの家具。


窓際にはソファとデスクが置かれ、さらに奥には海を一望できるバルコニーがある。


「……すごいな」


悠斗は窓の前に立った。


眼下には青い海が広がっている。


波の音が微かに聞こえ、心地よい風が頬を撫でた。


「こんな場所で過ごせるなんて……」


悠斗は小さく笑った。


これから数日間、ここで皆と過ごす。


そう考えると、自然と胸が弾んだ。


そのとき、扉が軽く叩かれた。


「蓮くん?」


扉を開けると、陽菜が顔を覗かせていた。


「どうしたの、陽菜?」


「ねえ、私のお部屋、蓮くんの向かい側なんだよ!」


「そうなんだ」


「これなら、いつでもお話しできるね!」


陽菜は嬉しそうに笑った。


「……夜中に来るのは控えてね」


「えーっ!?」


「冗談だよ」


悠斗が笑うと、陽菜も頬を膨らませながら笑った。


「もう、蓮くんったら!」


少し離れた場所から、麗華の声が聞こえた。


「陽菜、蓮の部屋の前で騒がないでくださいませ」


「麗華ちゃんだって、蓮くんの様子を見に来たんでしょ?」


「ち、違いますわ! 皆様に別荘の案内をするためです!」


麗華は少し早口になった。


悠斗は二人を見ながら苦笑する。


「それなら、後で案内してもらおうかな」


「……ええ。もちろんですわ」


麗華は小さく頷いた。


栞も自分の部屋から顔を出した。


「……蓮くん」


「栞?」


「私の部屋は麗華さんの隣だったよ。窓からも海が見えるの」


「そうなんだ。よかったね」


「うん……」


栞は少し嬉しそうに微笑んだ。


「後で、部屋から見える景色を撮影してみるね」


「楽しみにしてるよ」


栞は小さく頷いた。


四人はそれぞれの部屋を確認し、荷物を整理することにした。


***


荷物の整理を終えた後、四人は再びリビングへと集まった。


大きな窓の向こうには、海とプールが広がっている。


陽菜はテラスを見つめ、目を輝かせた。


「ねえ、やっぱりプールに行こうよ!」


「陽菜、まだ着替えていませんわ」


「着替えればいいんだよ!」


「……少し落ち着きなさい」


麗華は呆れたように言った。


栞はカメラを手に、テラスへと向かう。


「……ここからの景色、すごく綺麗」


悠斗も窓際へ歩み寄った。


「本当だ。海もプールも一緒に見えるんだね」


「蓮くん、明日は海に行こうね!」


陽菜が振り返る。


「もちろん」


「約束だよ!」


「うん、約束」


陽菜は満足そうに笑った。


麗華は腕を組みながら、穏やかな声で告げた。


「明日からは海やプールを楽しめますわ。今日はまず、ゆっくり休みましょう」


「そうだね。長い移動だったし」


悠斗は頷いた。


栞もカメラを下ろし、微笑んだ。


「……明日が楽しみ」


四人は顔を見合わせた。


海で遊ぶこと。


プールで泳ぐこと。


美味しい食事を楽しむこと。


そして、皆で過ごす時間。


これから始まる夏休みには、まだたくさんの楽しみが待っている。


窓の外では、夕日がゆっくりと海へ沈み始めていた。


九条家の夏の別荘で過ごす、最初の一日。


それは、忘れられない夏の思い出の始まりだった。

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