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前世に飽きた魔王の孫、世界に首を突っ込む 〜退屈だから全部かき回す〜  作者: 暇凡人T
二章 冒険者始動編

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その83 雪だー!

 一ヶ月ほど経っただろうか。

 ちょっと前までは、肌寒いかな?って思うくらいだった。

 だけど、最近は空気も冷え込んで、暖炉を使うことが多くなった。

 ちゃんと暖炉がある宿にしといてよかった。

 毎日のように気温が下がって、ベッドから出るのが億劫に感じられるようになった。

 もちろん、今日もそうだ。

 だけど、そうしているうちに時間は進む。

 体内時計が、もう起きなきゃまずいと警告してくる。

 仕方ない、そろそろ起きるか。

 凍てつくような空気を全身に感じながら、俺は立ち上がり、カーテンを開ける。

 外を見たとき俺は、眩しさに目が眩んだ。

 もうそんな時間なの?

 そうも思うが、何かおかしい。

 光が向かってくる方向が、いつもと違っていた。

 まるで、下から照らされているような…

 やっと目が慣れ、外の景色を捉える。

 するとそこには…

 一面の銀世界があった。

 俺は、それを見た瞬間、子供のように叫んだ。


 「雪だ!」


 それからの俺の行動は早かった。

 さっさと身支度を済ませ、最近買った防寒具を着込み、外へと飛び出した。

 ふかふかとした、雪を踏み締める感触。

 それは、前世では味わったことのない感覚だった。

 気持ちいい…

 雪ってこんな感じなのか。

 俺は雪降る地域じゃなかったからなぁ…

 北海道とか憧れたよな。

 しばらく雪を楽しんでいると、なにか視線が刺さっているような気がした。

 周りを見渡すと、俺を奇妙なものを見るような目で見つめている人たちがいた。

 そりゃそうか。

 今の俺は大の大人の姿だからな。

 気色悪く見えるのも当然か。

 でも雪では遊びたいし…

 ・・・そうだ。

 街の外に行けば、人目を気にせず遊べるんじゃないか?

 そうと決まれば、翔とカイルを呼んでこよう!

 三人で雪遊びだ!



 俺たちは、街から出てすぐの平原に立っていた。

 翔の転移で、ここまでやってきたんだ。

 見たことがあるはずの場所も、雪が積もっていると雰囲気がガラッと変わる。

 面白いな。

 

 「で、優樹。ここで何するんだ?」


 なにか抑えているような声で、翔が言った。

 それは顔を見たらわかる。

 翔も雪が珍しいんだ。

 まあ同じ地域に住んでたわけだし、当然っちゃ当然。

 反対に、カイルは特に何も感じて無さそうだった。

 「おまえたちがなんでそんなになってるのかわからないわけじゃないが、このあたりじゃ雪はそんな珍しくないぞ。」


 あそうなんだ。

 そんな寒い場所だと思ってなかった。


 「毎年、厳しい冬があるんだ。すぐ目の前すら見えないほど吹雪く、冬が。期間は三ヶ月ぐらいで、そこまで長いわけじゃない。」

 「でも人が、街が、まともに動かなくなる。だから俺は、あまり雪が好きじゃないな。おまえたちも、そのうちわかるさ。」


 そう言われると、さっきまで楽しんでいた雪がどこか怖いものに見えてくる。

 ま、だからと言って遊ぶのをやめるわけじゃないんだが。

 さて、では「あれ」をしようか。

 ウィンタースポーツの定番。

 ふかふかの積もった雪の上を滑っていく、あれ。

 

 「翔!足に付ける細い板作って!」

 「え?なんでそんなもの…ああ。」


 翔も気づいたようだ。

 魔法陣が現れ、木と岩のようなものが現れる。

 それらは個々が板と、それをコーティングする役割となって形になる。

 すぐに、六本の先が反った板と、それに対応した数の棒が地面に積もった雪に突き刺さった。

 板を見ると、ちょうど足がハマって、その足を紐で固定できるような出っ張りが付いていた。

 もうわかってるだろう。

 これはそう、スキー板だ。

 俺がここでやろうとしたのは、スキーだった。



 俺は、街からそう離れていない小さな山の山頂にいた。

 麓のほうを見れば、翔とカイルがいるのがわかる。

 二人の姿を見ながら、俺は傾斜のついた斜面に足を進めた。

 ・・・おお、滑る滑る。

 ぐんぐんと、スピードが上がって…

 ・・・ちょっっっと早すぎるかなー?

 ええと、どうやったら遅くなるんだっけ?

 そうだ、ハの字だハの字。

 俺は力いっぱい足の先を窄めようとするが、それも容易ではない。

 そして、ハの字にできたところで足を立てなければ止まるはずがない。

 それを、この時の俺は知らなかった。

 ハの字にしたけど…これなにが変わってるんだよ!

 逆か?逆なのか?

 そんなふうに自分の体の制御に苦心していた俺は、目の前に迫り来る一本の木に気づかなかった。

 ・・・まずい!

 ぶつかるっ!

 そのとき咄嗟に、俺はスキルを発動してしまった。

 重力磁場。

 目の前にあった木を吹き飛ばすのに飽き足らず、俺は自分自身を上へと落下させてしまった。

 木、ごめん。

 ・・・ま、でもこの状況なら大丈夫。

 スキーならまだしも、使い慣れた自分の重力磁場で焦る訳ないでしょ。

 俺は、自身を無重力にし、ふわふわと山を下っていった。

 はぁ、なにがダメだったんだろう。

 と、一応思っては見るものの、その理由は明白だった。

 そりゃそうだよ。

 俺スキーやったことないもん。

 テレビでしか見たことない。

 そりゃ無理か…

 なんかいけると思ったんだけどな。

 俺も翔に教えてもらうしかないか…

 俺は山の麓に着地して、翔たちのところへと向かう。

 二人でなにか話してるようだった。

 俺も混ぜてもらお。

 

 「おーい、二人ともー。」


 そう、俺が声をかけた瞬間、二人が消えた。

 え?なんで?どうして?

 俺なんか悪いことしたかな?

 いや、それよりなにかの攻撃の可能性の方が高い。

 索敵するぞ!

 そんなことを思い、周りを見回していると…


 シャーッ、シャーッ。


 後ろから何かの音が聞こえた。

 振り返るとそこには、斜面を優雅に降りてくる翔と、少し不恰好だが安定したまま滑ってくるカイルがいた。

 なるほど、上に行ってたのか。

 てか、翔上手いな。

 蛇行しながら滑ってるんだけど、両足のボードが並行からズレない。

 やっぱりなんでもできるんだな。

 そして、なんで俺よりカイルの方が滑れてるんですかね?

 いくら俺がやったことないって言っても、スキーすら知らなかったカイルの方が上手いってなんだよ…

 やっぱり教えてもらおう…




 「優樹、どうしたんだ?」


 下まで降りて来た翔が、俺に問う。

 

 「いやー、上手いこと滑れなくてさ。教えてくれないかなぁって。」

 「それはいいんだけど…一から?」

 「そうだね…全然ダメだった。」

 「優樹でもダメなことってあるんだな。」


 なに言ってんだか。

 俺とかダメなとこだらけだと思うが。


 「じゃあまず、減速するときはボードをハの字にしたらゆっくり止まる。それから───」


 ちょいちょい、ストップ。


 「ちょっ、待って。ハの字にしても止まれなかったんだけど?」

 「そんなことないはずだけど…速度が早すぎたのかな?」


 えぇ…

 全く減速してなかったけどな。

 俺たちが頭を悩ませていると、カイルが口を開いた。

 

 「ユウキ。それはたぶん、足を地面と並行に置いていたからじゃないか?」

 「ん?それは…してた気がする。」

 「そうじゃなく、足を地面と垂直方向に曲げるんだ。ちょうど、内股になる感じだな。そして膝のあたりに体重をかける。それで止まれるはずだ。」

 「なるほどね…試してみる。」


 俺は、近くにある数メートルほどの丘に登り、言われた通りのことをしてみる。

 すると、見事に止まった。

 今まで悩んでいたことが、嘘のようだった。

 すげぇ。

 こんな簡単なことだったのか。

 カイルすごいな。

 教えるの上手い!


 「ありがとうカイル!助かった!」

 「いや、俺はちょっと補足しただけだよ。合ってるのかも知らないしな。」

 「ただ、カケル。おまえは少しできない奴の気持ちがわかってない。もう少し視線を合わせてやるんだ。」

 「・・・わかりました。カイルさん。」

 

 二人がなにかを話していたが、俺にはもう聞こえていなかった。

 俺はスキーが滑れるようになったんだ!



 あの後、俺たちはまた翔の転移で頂上に飛んで、三人で滑った。

 その都度改善点を翔が言って、カイルが補足する。

 俺は、今日の初めとは比べものにならないほどスキーが上手くなった。

 そして、翔にそろそろ一人でもいけると言われた。

 それを聞いて俺は、カイルに提案した。

 

 「どっちが先に下まで下りれるか、競争しない?」


 それで、今は全力で滑って行ってる。

 いやぁ、スキーって楽しいね。

 滑れないとゴミのように感じるけど、滑れたらすっごい楽しい。

 なんで俺は前世でやらなかったんだろう。

 そんなことを考えながら、俺は加速して、風を全身で感じる。

 冷たさは感じるけど、着込んだ防寒具があればへっちゃら。

 心地いいぐらいだ。

 だから、もっともっと加速できるはず!

 後ろからついて来てるカイルをチラッと見て、俺は闘志を燃やす。

 負けない!

 そんなふうに調子に乗っていた俺は、前にある、雪と同化しているなにかに気がつかなかった。

 

 バキャア!


 不快な音が、足元から響く。

 遅れて、体に衝撃が来た。

 いってぇ!

 なんだ、なんかぶつかったぞ!

 スキー板は壊れてないよな…?

 俺は祈りながら恐る恐る下を見る。

 するとそこには、見事にちぎれているスキー板があった。

 ・・・うん、知ってたよ。

 だって折れた音したもん。

 腹立つな…

 気持ちよく滑ってたのに…

 俺は前を向き直す。

 そこには、大きな雪を被った岩らしきものがあった。

 全てが雪に包まれていて、全容はわからない。

 こんな岩に妨害されるなんて…

 イライラしていた。

 楽しいことを邪魔されるのが、一番嫌なんだ。

 こんな岩!

 俺を邪魔した岩を、足で強く蹴った。


 ガツン!

 

 蹴った瞬間、妙な感触を感じたが、そんなことはどうでもいい。

 ふぅ、ちょっとスッキリ。

 さて、この壊れたスキー板外して…

 スキー板が雪に刺さり、地を踏もうとした俺の足が雪に埋まっていく。

 うお、

 帰るか。

 そう考えた俺が、後ろを向いた時だった。

 

 ゴゴゴ…


 後ろから、地鳴りがした。

 な、なに…?

 俺は、ゆっくりと振り向いた。

 さっき蹴りつけた岩が見えた。

 それは、岩ではなかった。

 それは、体だった。

 四肢はなかった。

 だが、すぐに変わった。

 雪がそこら中から集まり、四肢が出来ていった。

 立ち上がる。


 「ゴオオオオオオオオオ!!!」


 最後に頭が出来上がり、それは咆哮した。

 雪の巨人が、俺に敵意を向けていた。

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