その84 雪の中で
なんだよコイツ!?
岩じゃなかったのか!?
「優樹!大丈夫か!?」
後ろから滑って来ていた翔が、俺の横に滑り込んできて綺麗に静止する。
やっぱ上手いなコイツ。
カイルもそれに続き、俺たちのすぐ近くに止まる。
・・・なんで翔は俺と競争してたカイルより早く着いてんだ?
「一応大丈夫。」
「ならよかった。」
そんな会話をしていると、カイルがボソッと呟いた。
「アイスゴーレムか…」
アイスゴーレム?
「カイル、なにそれ?」
「その名の通り、氷を司るゴーレム種の一種だよ。そこまで強くないはずだ。」
ならいい。
俺がやる!
「弱点と注意点は───」
「わかった、ありがと!俺に任せとけ!」
何か言おうとしたカイルを遮り、俺は跳び上がった。
雪を蹴り、空を蹴る。
そして、俺は片手で刀を振り上げる。
ゴーレムの目前にまで迫った瞬間、俺は刀を振り下ろした。
ズバァン!
ゴーレムの腕に、俺の刀が切り込む。
意外にも、ゴーレムの腕は柔らかく、簡単に切り落とすことができた。
まるでそれがただの雪であるかのように。
手応えないな。
まあこのまま首も落としちゃって───
ガッ!
え?は?
掴まれた!?
俺が次の攻撃地点に気をとられ、切り落とした腕から意識を外したその時。
俺はゴーレムに掴まれた。
切り落とされた、左腕で。
なんで!?
いや、そんなことは一旦いい!
剣戟球!
俺の周囲に斬撃が溢れ、ゴーレムの拳がバラバラになる。
そして俺は、自分の足で地面に立つことができた。
ふぅ、危なかった。
で、なんで掴まれた?
たしかに切り落としたぞ?
・・・いや、違う。
切れてないんだ。
腕の切断箇所を見ると、雪が纏わりつき、異様に盛り上がっていた。
今も、俺に切られた拳に雪が集まって来ている。
周りから雪を集めて結合、再生させたってところか…
コイツをこの巨人の体だけの敵だと思わない方がいいな。
ここら一帯の雪が、全てコイツの体であり、素材なんだ。
「馬鹿!ユウキ!大丈夫か!?」
カイルが俺のところまで走ってくる。
「大丈夫。ごめん、話聞かなくて。」
「いや、無事ならいいんだが…次からは注意してくれよ。」
「うん、わかった。で、さっき言いかけてたこと教えてくれない?」
「・・・ああ。わかったッ…!」
ゴーレムが振りかぶり、カイルに拳で一撃を喰らわせようとする。
だが、カイルは軽々とそれを避けた。
俺たちはゴーレムの攻撃をかわしながら、会話を続ける。
「アイスゴーレムの弱点は、核。これを破壊出来れば、勝ちだ。」
「ふッ…で、注意点は?」
「核を壊さない限り、無限に再生する。」
「了解ッ!」
俺はカイルの言葉を聞き、もう一度ゴーレムへと突貫する。
今度は無策じゃない!
魔孔眼起動!
視界が色とりどりの魔力で溢れる。
その反応を絞り、大きな魔力以外を見えないようにする。
すると…見えた。
ゴーレムの体に、青白い、強い魔力の反応。
核だ。
でも、移動してる。
それに加えて、ゴーレム自体も動く。
狙いを定めるのは不可能って考えていいな。
それなら!
「翔!拘束任せた!」
俺は翔に向けて叫び、翔の魔法を待つ。
だが、俺が望んでないものが訪れた。
ゴーレムが俺の呼びかけに反応し、翔へと向かっていったんだ。
まずい、翔が危ない!
翔は今、戦闘に出遅れてスキー板を外そうとしている。
あの状態じゃなにもできない!
俺は走る。
だが雪のせいか、足が重い。
ゴーレムより、遅い。
頼む、間に合え!
そんな願いも虚しく、ゴーレムの腕が翔に向けて振り下ろされる。
届かない。
遠い。
止められない。
「翔ーッ!」
俺は、ゴーレムの腕が雪煙を上げるのを、見ていることしかできなかった。
雪煙が晴れない。
姿が見えない。
胸の奥が嫌な音を立てた。
だが、予想は裏切られる。
翔が、雪煙の中から飛び出した。
足にはスキー板。
すごい速度で滑っていた。
本来のスキーの速度より、明らかに速い。
スキー板を外すのは諦めて、装着したまま活かしてる。
機転が効いてる。
さすが翔だ。
そう思うと同時に、ほっとした。
翔が、生きていてよかった。
翔に攻撃を空振りさせられたゴーレムを見ると、魔法に捕まっていた。
今しかない。
核を狙う!
ゴーレムが暴れる。
だが、翔の拘束だ。
その程度で拘束を抜けれるはずもない。
もうすぐゴーレムのところにつく、そんなときに、俺を追い抜いていく人影があった。
カイルだ。
雪の上を走ってるとは思えないほどのスピードで、カイルは進んでいく。
カイルは、俺が作り上げたハンマーを持っていた。
核潰すの手伝いに来てくれたのかな。
そんなことを思いながら、俺も後を追う。
カイルがハンマーを構え、ゴーレムに向けて振り下ろす。
一発で、ゴーレムの右腕が消し飛んだ。
そこに核はないはずなのに…
・・・なにやってんの!?
そこに核はない!
そんなことしたら…
俺の心配したことが、すぐに現実となる。
腕が再生し始めて、そこだけ拘束が解けてしまう。
「カイル、なにを───!」
俺がカイルに文句を言おうとした瞬間、ゴーレムの残った四肢が、落ちた。
そして拘束をとき、また結合しようとする。
誰も切ってない、攻撃を加えてない。
なんで?
俺の記憶の片隅に、その回答があった。
自切。
ある種の生物が、自身の身を守るために身を切る方法だ。
異世界の、生物かも怪しい雪の塊が、それをした。
まさかカイルは、これをわかっていて…
「ユウキ!早く核を!」
俺はハッとする。
ここなら剣が届く。
今なら動けない。
絶好のチャンスだ。
核を逃がさない。
俺は、ゴーレムの懐に飛び込んだ。
剣戟球!
ズゴゴゴゴゴゴッ!
雪を削る音。
それしか聞こえなかったが…
パキン。
小さな音が、聞こえた。
小さいが、よく響く音。
その瞬間、ゴーレムの体が崩れ落ちる。
もうそれは、ただの雪になっていた。
「・・・すまん。ユウキ。」
戦いの後、俺たちは山を下りた。
そこで俺は、カイルに謝られていた。
「なんの話?」
「さっきの戦い。余計なことをした。」
「・・・ああ。あれね。でも結果よかったんじゃないか?自切された訳だし、カイルのやったことは正しかったんじゃ。」
「結果的にはだ。途中で、俺は二人の連携を妨害した。もちろん自切されることを考えて腕を潰した。だが、拘束を破らせてしまったことは事実だ。」
うーん…
カイルは真面目すぎるんだなぁ。
いや、真面目というか、責任感が強すぎるよ。
「次からは、俺が持ってる全ての情報を伝えよう。その上で立ち回る。」
「・・・カイルがいいならそれでいいよ?でも、おまえが間違ってたとは俺は思わないけどな。」
はい、この話終わり!
次は何して遊ぼうか?
・・・そういえば。
「あ、そうだカイル。」
「・・・なんだ?」
なにか責められるんじゃないかと考えていそうな顔をするカイル。
だけど、そんなことじゃない。
「競争は、俺の勝ちな!」
「・・・ははっ。」
険しい顔をしていたカイルが、笑った。
「あれは無効じゃなかったんだな?いやぁ、負けた。でも、次は勝つぞ。」
カイルが楽しそうでよかった。
まだまだ遊ぼう!
「じゃあ、次は雪合戦ね!」
「ユキガッセン?それはなんだ?」
「雪を投げ合って───。」
日が暮れるまで、俺たちは遊び続けた。




