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前世に飽きた魔王の孫、世界に首を突っ込む 〜退屈だから全部かき回す〜  作者: 暇凡人T
二章 冒険者始動編

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その85 積もり積もった

 もう飽きたー!

 雪、楽しくない!

 寒いし!

 みんな外でないし!

 依頼少ないし!

 遊べない!

 早く冬終わってくれー!

 そんなふうに、俺はずっと嘆いていた。

 あれから一ヶ月が経って、極寒の冬が訪れたんだ。

 そんな折に、吹雪が訪れた。

 それまで唯一の楽しみだった依頼が、ほぼなくなった。

 冒険者ギルドに行っても、依頼は街の中のことばっか。

 護衛ならまだしも、討伐依頼なんてありゃしない。

 人も動物もみーんな巣篭もりだ。

 金は問題ない。

 大量に稼いでいたから。

 ただ、暇なんだ。

 最近は冒険者ギルドに一人で行って、酒場に一人で行って、っていうことが増えた。

 たまにカイルはついてくる。

 カイルも暇なんだろう。

 翔は…一回もついてきてない。

 そもそもほぼ部屋から出てこなくなった。

 部屋に踏み込むのもアレだし、外から呼んでも、「ちょっと調子が悪いんだ、ごめん。」とだけ。

 心配だけど、なにもできないしなぁ。

 それに、翔なら大丈夫だろうし。

 さて、今日も暇つぶしに冒険者ギルド行ってきますかー。

 宿の扉を開け、冷気を全身に受ける。

 俺は顔面を雪に殴られながら、冒険者ギルドへと向かった。



 冒険者ギルドについた俺は、全身の雪を払い、ガラガラな椅子に座る。

 普段はかなりの人数が座っているここにも、今は数人しかいない。

 その数人も、暇そうにしているだけだった。

 しばらくただ椅子に座っていたが、なにも起きない、誰も来ない。

 ずっと座っているわけにもいかないので、立ち上がる。

 依頼掲示板を見に行くためだ。

 俺は掲示板を見るとき、一瞬だけ期待した。

 その期待は、すぐに消え失せる。

 探しものを探してほしいとか、雪かきを手伝ってほしいだとか。

 どれもこれも退屈なものばかり。

 だがその中に、異彩を放つ依頼が一つだけあった。

 

 緊急依頼

 吹雪の中、行方不明になった仲間の捜索。

 ランクは問わない。

 報酬、金貨一枚。

 説明を昼、ギルドにて行う。


 ランクを書かず、緊急依頼。

 今まで見たことがない形式の依頼で、俺は心が惹かれた。

 少し引っかかるところはある。

 危険度に反して報酬が安すぎないか、ということ。

 この猛吹雪の中、街から出るなんてほぼ自殺行為。

 それなのに金貨一枚だけは、ちょっと安すぎる気はする。

 まあ、俺はそんなこと気にしない。

 面白そう。

 その一点で全てが決まる。

 この依頼、受けた!

 俺は依頼が書かれた紙を掲示板から剥がしとり、椅子に座って待つ。

 それを待つ表情は、さっき座っていたときとは全く違っていた。

 この条件を、楽しもうとしていた。

 約束の昼まで、あと少し。



 しばらく待っていると、いつの間にかギルドから誰もいなくなっていた。

 受付嬢が一人、事務作業をしているだけ。

 いつになったら依頼人は来るんだろう?

 もう待ちくたびれた。

 俺は、暇に耐えかねて、イライラし始めていた。

 すると。


 ギィ…


 入り口から、扉の開く音がした。

 自然と視線はそこへ吸い込まれる。

 そこには、決して知らない仲じゃない顔があった。

 ゾルディン。

 俺が風王龍と戦い、助けた男だった。

 その仲間が、一人、二人?

 もう一人いたと思うんだけど。

 三人は、どこか憔悴しているように見えた。

 そのとき、気づいた。

 行方不明なのは、ゾルディンの仲間だと。

 それに気づいた瞬間、俺の顔から笑みが消えた。

 ゾルディンは俺の顔を見つけると、足早に俺の対面に座った。

 

 「よう、ユウキ…もしかして、依頼を受けてくれたのか…?」

 

 弱々しい声で、ゾルディンは言った。


 「ああ、俺が受けた。まさか、依頼人がゾルディンだとはね。」

 「それなら話が早い…!頼む!エレナを助けてやってくれ!」

 「ちょっと待ってよ…せめてちゃんと説明してくれ?」

 「・・・わかった、どこから話せばいいか…」


 ゾルディンは青い顔をしながら、俺に話し始めた。



 最近ゾルディンたちは、長期の依頼をやっていた。

 だから最近全然見なかったんだな。

 三週間の間、この街ともう一つの街を繋ぐ交易路の護衛をする依頼。

 食の保証もされてて、いい依頼だったっぽい。

 依頼は順調に進んで、報酬の金貨一枚ももらった。

 さあ街に帰ろうってときに、吹雪にぶち当たったらしい。

 すでに街からは離れていて、引き返すこともできない。

 こんな吹雪に野宿なんてのも無茶だし、食料も尽きかけていた。

 仕方なく、吹雪の中を突っ切ってこの街を目指した。

 だが、そんな上手くいくはずもない。

 猛吹雪の中、魔物に襲われた。

 必死に戦い、なんとか追い払ったものの、一人がいないことに気がついた。

 魔法使い、エレナがいないことに。

 このパーティで唯一、得意ではないものの炎魔法が使えて、この吹雪を生き抜くための要だった彼女が。

 ゾルディンは迷っただろうな。

 全滅する覚悟でエレナを探すのか。

 それとも…半ば見捨てて街へ戻るのか。

 それで、後者を選んだんだろう。

 

 「頼む…!あんたしか、いないんだ!エレナを助けてやれるのは!」


 ゾルディンが立ち上がり、ガッ、と肩を掴まれる。

 だがその手の力は弱々しく、掴んでいるというより、俺を支えにしているようだった。

 俺は顔を上げ、ゾルディンと目が合う。

 酷い顔だ。

 目には隈があり、顔色も青い。

 冷や汗が額を伝う様子すらわかる。

 必死で、無様で、いつもの好青年が見る影もない。

 でも、それでいいんだろう。

 それで、仲間を救えるのなら。



 実はゾルディンたちとは、もう知らない仲じゃないんだ。

 何度も何度もギルドで話してる。

 一度、一緒に依頼も行った。

 同行したのは俺だけだったけど、Cランクパーティなのに、Bランクの魔物相手でも余裕そうだった。

 優秀なんだろう。

 特にゾルディン。

 リーダーらしく、しっかり周りが見えてて指示が的確。

 知識はカイルには及ばないけど…勘がいいんだろうな、予想外のことに難なく対応する。

 他の人は…

 ゾルディンの相棒、戦士レオス。

 常にちょっとおどおどしてる。

 気が弱いんだろうか。

 でもゾルディンとの連携はすごいね、まさにツーカーって感じ。

 治療士ミリア。

 思ったことすぐ口に出す。

 デリカシーがない…というかパーソナルスペースが近いんだな、たぶん。

 風王龍と戦ったときにゾルディンに抱きついたのがこいつ。

 仕事は結構しっかりしてる。

 できることは全部尽くしてたね。

 そして最後に、魔法使いエレナ。

 ミリアとは対照的に、かなり気遣いができる。

 かと言って暗いわけでもなく、笑顔が多いな。

 魔法もしっかり勉強してる。

 俺より全然詳しかった。

 それでも翔には遠く及ばないけど、Bランクの魔物にも十分通用する火力はある。

 まだ荒削りだけど、ちゃんと伸びるタイプの秀才だ。

 みんな、もう他人じゃない。

 いなくなって、「あ、そうですか」とはもう言えない。

 ゾルディンの判断も、間違いだとは思わない。

 むしろ、リーダーとして立派だと思う。

 やれることはやってるさ。

 それでも、俺が同じ状況になったら、絶対に探し出す。

 例え止められても、絶対に。

 できるか、できないかじゃない。

 それが、仲間ってもんだと思うから。

 それが、俺の仲間への想いだ。

 だから俺が、こいつの尻拭いをする。


 「わかってるよ。じゃ、行ってくる。」

 

 俺は立ち上がり、ゾルディンの肩を叩く。

 そして小さく囁く。

 

 「任せろ。あとは、ゆっくり休め。」


 俺は歩き出す。

 

 ドサッ…


 「ゾル!?」


 何か倒れたような音がするが、振り返らない。

 安堵と疲労が、同時に押し寄せてきたんだろう。

 

 「ユウキ!エレナを…頼んだぞ!」

 

 ゾルディンが絞り出したような声で叫ぶ。

 俺は返事の代わりに、すぐにギルドから出た。

 絶対助ける。

 その、固い意志をもって。

 

 

 俺は雪の積もった、誰もいない街道を、吹雪にあおられながら歩く。

 俺一人だ。

 翔は部屋から出てこないし、カイルなんか連れて行ったらまた自己犠牲して…

 悪い想像はよそう。

 俺は門へと辿り着き、凍えている門番たちに礼を言って、街の外へ出る。

 そこは、白銀の世界。

 一ヶ月前に見た、楽しげな雪とは全く違う。

 人も、動物も、分け隔てなく凍死させる、積もり積もった殺意の雪だった。

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