Y-その10 前世との対話
あの事件から、三ヶ月が経った。
結局のところ、庭園に魔物がいた理由はわからなかった。
不気味なほどに、なにも情報が流れて来なかった。
まるでどこかで不都合が握りつぶされているように。
その間に生徒会の業務にも慣れて、ある程度こなせるようにはなった。
今は、行事の時期だ。
前世でもあったように、ここでも行事がある。
一年生の行事は、魔物の討伐大会。
用意した山と森の会場に、学園側が魔物を流す。
六人一組のチームを組み、それをどれだけ討伐したかを競う大会。
もちろん魔物の強さにはバラつきがあり、強さによって得点が決まる。
得点が一番高ければ優勝だ。
ここでの実績は、成績に関わってくる。
それに、どうやら特待クラスは全員絶対に出場しなければいけないらしい。
今日、さっきのホームルームで言われた。
本来は任意のはずなのに。
でも、やらなきゃいけないなら仕方ない。
チームメイトを探そう。
このクラスの人数はちょうど十二人。
二つのチームができるはずだ。
「ユーリオン!」
後ろから俺を呼ぶ声が聞こえて、振り返る。
宗介と颯太だった。
「魔物討伐大会、組もうぜ!」
「もちろんいいぞ。・・・ただ、他に当てはあるのか?」
「・・・いや、俺はないな。クルドは?」
「俺も、誘えそうな奴はいねぇなー。」
そうか、いないのか。
じゃあ松山さんかな、誘うとしたら。
生徒会で過ごすうち、だいぶ仲良くなれた。
前世では、ほぼ関わりがなかったのに。
やっぱり接点があるっていうのは大事なんだな。
早速誘いに行くか。
「俺にはもう一人組みたい人がいるんだ。誘ってもいいか?」
「いいけど…誰だよ?」
「松山さん。知ってるか?」
「ああ、あの人か。おまえ関わりあったんだな。」
「こっちに来てから、生徒会でだけどな。」
「生徒会!松山さんも入ってたのか。羨ましいな…聖戦教でも特別視されるんだぜ?」
「そんないいもんなのか?ユーリオン。」
「いや、正直面倒。仕事多いしな。じゃ、行ってくるよ。」
「はいよ。」
そんな、楽しい会話を打ち切り、俺は松山さんのところへと向かう。
松山さんは、どうやら生徒会室へと向かう準備をしているようだった。
「アリアさん。」
そんなところに、俺は後ろから話しかける。
「ユーリオンくん?どうしたの?」
「さっき言ってたあの大会、俺たちと一緒にチームを組まない?」
「あ、あの話ね!嬉しいんだけれど…同じチームの人は大丈夫なの?」
「うん、もう了承済み。」
「ならそのお誘いを受けようかなー。」
「一緒に優勝狙おう、アリアさん。」
「もちろん、私も頑張るよ。」
よし、これで四人。
あと二人、どうやって集めようか。
・・・はぁ、こんなとき、貴史と亮二がいたら…
ここに二人がいるはずもないのに、そんなことを思ってしまう。
この特待クラスは、前世のクラス全員が集まっているわけではない。
むしろ、いない人間の方が多い。
その中でも思い出すのは、前世で仲がよかった二人。
どんなときでも、俺たちを引っ張っていってくれた貴史。
こいつがいないと、おかしいくらい会話がぎこちなくなってしまっていた亮二。
大切な、親友。
いつか、またどこかで会えると信じておこう。
そうだ、松山さんは組みたい人いないのかな。
「でも、まだメンバーが足りないんだよね…アリアさんは、組みたい人とかは?」
「うーん…こっちに来てからは、ユーリオンくん以外とはそんなに関わってないなぁ…美琴ちゃんとかはどう?」
美琴…関谷さんか。
優等生で、ピアノが上手いぐらいしか知らないな。
誘いたいってことは、松山さんは仲良かったんだろう。
「あのー…」
そんなことを考えていると、後ろから声がかかる。
振り向く。
「お話し中だった?愛香さん。」
「ううん、ちょうど美琴ちゃんの話だよ。」
「ならちょうどよかった。私たち二人も、二人のチームに入れて欲しいの。」
そこには、関谷さんと…
圧倒的な豪傑の雰囲気を持ちながら、気品をも持ち合わせている男がいた。
彼の名前は清水悠人。
前世で、俺が唯一と言っていいほど、苦手な男だった。
清水悠人。
こいつに対しての俺の前世のイメージは、不良。
ただそれに尽きる。
二限目に登校してきたと思ったら、三限にはもういない。
もちろんクラスでも浮いていた。
コンビニで殴り合いを起こして、停学になりかけたのも知ってる。
気に入らない奴を殴って、後者裏でタバコを吸う。
そんな、ヤンキーのテンプレみたいな噂も聞いた。
正直、悪いイメージしかない。
そんな奴が、今は世界でも数少ない超大国、チュレイド帝国の皇太子。
ヴァルク・レオン・チュレイドなのだから不思議だ。
で、なんでこんな奴と関谷さんが一緒にいるんだ?
関谷美琴。
俺のイメージは、優等生で、音楽に精通している文化人。
表彰されているのも見たことがあった。
今世も上品な家柄だと聞いた。
チュレイド帝国上級貴族アルネリア家。
その令嬢、フィリア・アルネリア。
これは納得だ。
「なぁ、フィル。やっぱ雪野が不満そうじゃねぇか?やっぱり二人で…」
「そんなこと…ないですよね?雪野さん。」
「・・・ああ、ごめん。メンバー足りなかったし、もちろんいいんだけど…」
なんでそんなに仲がいいの?
そんな言葉を飲み込む。
まだこれを聞けるような仲じゃない。
気になるけど、我慢だ。
いくら同じ国に生まれたからって、こうも前世の仲から変わるものなのか?
「ほら、大丈夫でしょう?ヴァルはいつもそうなんだから…」
「うるせぇよ。・・・まぁ、なんだ。よろしく頼む。」
こんなふうに、愛称で呼び合うんだぞ?
まるで、恋人のようにも…
いや、詮索はよそう。
これで、やっと俺たちのチームに六人揃ったんだから。
大会当日。
俺たちは、目についた魔物を片っ端から狙っていった。
最初に接敵したのは、蛇のような魔物。
最初だと言うこともあって、戦闘はもちろん注意してやった。
松山さんに魔法で強化してもらいつつ、牽制で水球を放つ。
そして、剣で斬りかかる…
そのつもりだった。
放った水球はまっすぐ飛んで、魔物の体に突き刺さり…
魔物が弾け飛んだ。
まったくそんなつもりはなかったからびっくりしたなぁ。
やっぱり松山さんの魔法はすごい。
出力が何倍にもなっている気がする。
まあ、それからはいろんな魔物を狩り始めて…
「雪野!そっちは任せた!」
今に至る。
俺は向かってくる魔物へと、できるだけ強化した光球を発射する。
光球が魔物を狩っている間に、俺はまた別方向の魔物へと近づく。
それを切り裂くと、魔物の叫び声が俺の心を裂く。
まだ慣れない、剣で肉を切り、骨を断つ感触。
それによる心労からか、はたまた単純な体の疲労か、額に汗が滲む。
俺は、その汗を拭いながら周囲を見る。
するとそこには、表情一つ変えず、魔物を切り払い続ける清水の姿があった。
その後ろからは、関谷さんの美声と、流麗な音色が聴こえてくる。
それを聴くだけで、力が湧き立つように感じる。
・・・いや、実際そうなんだろう。
このコンビは、完成されていた。
俺たちが介入するまでもないほどに。
鋭い太刀筋で、反撃すらも厭わないように見えるほどの剣の戦い方の清水。
歌声と音色で強化をして、さらに音魔法で援護まで飛ばす関谷さん。
俺たちが戦闘を続けたこともあって、得点は、既に安泰なほど稼いでいた。
魔物討伐大会。
その行程は、丸一日。
つまり、ここで夜を明かす必要がある。
十分な得点を稼いだ俺たちは、早めに野営の用意を始めていた。
テントを設営して、焚き火をつけて。
見張り番も決めた。
いくら周りの魔物を討伐し切っただろうといえど、危険なことに変わりはない。
見張りは必要だ。
俺は、清水と当番となり、星空の元でパチパチと燃える焚き火を見つめていた。
無言。
清水がこちらに話しかけてくることはないし、俺が清水に話すこともない。
仕方ないことではあるけど、なにかは話したい。
前世が忘れられないことでも言ってみるか?
せっかく同じ王子って立場なんだ。
わかり合えるところがあるかもしれない。
「なぁ、清水。」
「・・・あぁ?」
「俺、前世のことが忘れられないんだ。今でも夢に見る。まだ未練塗れだったからだと思う。同じ王子に転生した清水は、どうだった?」
「・・・。」
清水は黙り込み、口を開かない。
まずい。
話題間違えたか?
「俺も、後悔がないわけじゃねぇ。」
「よかった、同じだな───」
「だがな、『ユーリオン』。」
今まで雪野と呼んでいたはずの口から、この学園に来てから呼ばれ続けた名前が飛び出す。
「もう、俺たちはこの世界に生きてんだからよ。この世界に来た以上、もうここで筋通して、生きていくしかねぇだろ。」
「俺はクソ鍛えたぜ?国が潰れたら俺の責任だ。気に入る気に入らねぇの話じゃねぇ。国民どもに面子が立たねぇ。ここでの喧嘩は、鍛えれば鍛えるだけ強くなれて都合がいいしな。」
・・・さっきまで俺は、清水のことを誤解してたみたいだ。
ここまで、覚悟があったとは。
「で、おまえはどうなんだ?勇者の息子さんよぉ?」
俺はその問いに、答えることができなかった。
羨ましい。
俺も、そうなれたなら、考えられたなら、どれだけ良かったんだろう。
でも俺はまだ、『雪野洋平』を捨てることはできない。
だけど、勇者にならないと…
ここで生きていくことも…
夜は明け、集合場所へと向かう。
結果を言おう。
俺たちは、優勝することが出来た。
だが、俺の心は晴れなかった。
清水と話してから、一睡も出来なかった。
俺は一体、なんなんだろう。




