K-その6 なぜ?
頭が…痛い…
頭が割れるような頭痛と、何かが入り込んでくるような不快感。
俺はそれを耐えながら、宿のベッドで今日のことを思い出していた。
優樹と、風王龍を倒した後。
俺たちはすぐ、メリカハルトへと帰った。
一応、風王龍の亡骸はカイルさんが回収してくれたらしい。
優樹は、カイルさんとなにか話していたようだったけど、俺にはなにも聞かせてはくれなかった。
優樹とカイルさんは、帰るときからずっとギクシャクしていた。
なにがあったんだろうか、と今は思える。
俺はというと、その時が頭痛のピークで、それを隠すのに必死だった。
前に風王龍を倒したときにもあった頭痛。
それが強くなって、今回も発症した。
これは偶然だろうか。
それとも…
どちらにしろ、優樹にはバレたくなかった。
心配をかけさせたくなかったんだ。
だから、全力で隠した。
それから街に帰って夕飯を食べたけど、痛みを隠すことに集中しすぎたのか、味がしなかった。
二人の話も、半分も聞けていなかった。
それほどの痛みだった。
それが終わって宿に戻ると、俺は早々に自室へと向かった。
これ以上優樹に姿を見せると、見抜かれそうで怖かったのもある。
だけどそれ以上に、もうベッドに横になりたかった。
頭痛と眠気、それに、宿に戻ってきてから妙な感覚がし始めたからだ。
なにかが、思考に入ってくるような感覚。
もう限界だった。
俺は自室に戻り、なんの用意もせずベッドに倒れ込んだ。
・・・そして、今だ。
もう眠気もピークに達している。
頭痛も不快感も、眠気にかき消されているような錯覚に陥る。
そして俺は、そのまま眠りについた。
深い、とても深い意識の底。
妙な感覚のまま、目を覚ました。
なにかが、自分と混ざっているような感覚。
視界が暗い。
なにもない。
目が開いているのかすら、わからない。
それでもなぜか、目が覚めていることに疑問は抱かなかった。
・・・ああ、そうだ。
暗くて、なにもないんじゃない。
なにも見えないんだ。
そう気づいて、しばらく暗闇の中で過ごす。
なにもせず、ただそこにいた。
自分の今の状況に、なにも疑いは持たなかった。
そもそも、自分とはなんなのかもわかっていなかった。
時間が経つ。
するといつのまにか、なにかに触れていた。
硬く、冷たく、小さい。
それに、なにか感情を抱くはずもない。
愛着なんてものも、まったくない。
それでも、なぜかこれは手放してはいけないものだと直感した。
包み込み、守る。
それを、一歩も動かず続ける。
『絶対に離さない』
頭の中を、そんな言葉が反響する。
これは、俺の言葉ではない。
それは理解できる。
だが、それが異常なのか、正常なのか。
それを考えることはなかった。
離さない、その一心で、なにとも知らないものを守り続けた。
だが、なぜか自分で守るべきものから離れる。
俺の意思ではない。
だが、自分の意思ではあったのだろう。
そこで、一度全ての感覚が消えた。
そして、次に感覚が戻ってきたとき、最初に感じたのは…
喪失、そして…絶望だった。
守るべきものは、もうなかった。
見えない、感じられない。
それでも本能が理解する。
もう、二度と感じられないのだと。
『なぜ?』
再度、頭の中に声が響く。
俺の声ではないが…
俺も、そう思っていた。
慟哭と、絶望の声。
『なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ───?』
声が響き続ける。
意識が、深く深く落ちていく。
もう二度と、戻って来れないほどに…
「・・・はッ!」
目が覚め、飛び起きる。
今度は、確実に起きた。
周りを見渡すと、宿の自室だった。
明るいし、色々な物がある。
・・・夢、か。
そう気づいて、俺はもう一度ベッドに倒れ込んだ。
ほっとしたのか、なんなのか…
自分でも説明できない感情に、俺は埋もれていた。
「はぁ、はぁ…」
大量の汗をかいて、息を切らしていることに気づく。
俺は立ち上がり、近くに置いてあった水を一口飲んだ。
少し落ち着き、椅子に座る。
「変な夢だったな…」
思わず、普段は言わない独り言が漏れる。
・・・まあ、それも仕方ないか。
さすがに、理解できない夢だった。
最近夢を見ていなかったのもあるけれど、夢ってああいう物じゃなかったと思うが。
考えてるうち、頭痛と不快感が消えていることに気がついた。
痛みが引いてる…っていうことは、やっぱり痛みによって普通に眠れなかっただけかもしれない。
インフルエンザのときに見る夢はどこかおかしいって、よく聞くから。
そんなことを考えながら、俺は準備をする。
今日も、俺たちは冒険者だ。
一日だって、休めはしない。
優樹も、カイルさんも戦いでがんばっていた。
特に、カイルさんは…
だから、たとえ頭痛が治っていなくても、夢の影響がなにか残っていたとしても、今日を生きなきゃいけないんだ。
優樹の右腕として、パーティのメンバーとして。
日常という、人生で一番難しいことを、過ごさなければいけない。
今日も、行こう。




