その80 守るべきもの
先週は休んで申し訳ない!
その分、今回の文量が二話分なので…
どうか許してください。
俺たち二人が、協力して風王龍に攻撃を繰り出す。
翔の魔法が、風王龍の首筋へと向かう。
俺は走り、腹部の傷へ向かう。
だが。
ガガガン!
俺は、急に発生した魔法に動きを止められる。
殺傷力はそれほど感じないが、複数方向から固定され、脱出にはどうやっても時間がかかる。
翔の放った魔法は、爪で打ち落とされてしまっているのが視界端に見えた。
それでも。
俺の口角が上がる。
俺の目は、隠されていた雷の槍を見る。
翔が放った、もう一つの魔法。
高速で飛ぶ槍。
まっすぐに龍の首へと向かっていく。
アイツが対処に追われている今、これは通る!
そう、俺は確信していた。
その信用は、裏切られることになる。
ゴガァン!
なにか、硬いものがぶつかり合ったような音が響く。
なんと風王龍は、その長い尾を使って、首筋に届きかけた槍を止めたのだ。
翔の渾身の魔法だ。
さすがに受け止めるのが精一杯のようだけど、たしかに俺たちの一斉攻勢を無傷で防いでみせた。
そして風王龍は槍を受け流し、そのまま俺たちの周囲を飛び回り始めた。
クソッ!
失敗した!
俺がさっき攻めていたら、もう終わってた!
でもまあ仕方ない。
あれは二択。
翔の援護があってもなくても、危険を犯すか犯さないかだ。
さっきは無茶して、それで翔にカバーしてもらった。
でもそれを続けるのはまずい。
翔の負担が増える。
ただ、こっから一発でも首に入れられれば、もうこっちのもんなのも事実。
そのせいで俺はめちゃくちゃ警戒されてるし…
アイツもそれがわかってたみたいで、守りに徹し始めてるし。
・・・それが辛いんだけどなぁ…
俺は長期戦できないんだよ。
魔人化の消費があるせいで、どうやっても限界がある。
節約しようと瞬時発動にしたときもあった。
でも結局、それは格下にしか通用しない。
同格かそれ以上は、魔人化前のステータスじゃ食らいつけもしないから。
だからさっさと終わらせないと!
と思ってやった渾身の攻勢があれですよ。
俺が警戒されてるのを利用して翔と連携、そっから本命の魔法をドカン!
って、決まるはずだったのに。
予想以上に翔を警戒されてた。
どうしよう。
こんな高速で移動されたら手出しできんぞ。
追いつかないし、重力磁場も捕捉できなかったら意味がない。
少なくとも、俺は。
だから、考えろ。
翔に頼らない、俺ができること。
・・・全方位攻撃か?
重力磁場を、全てを俺に引き寄せるように発動する。
もちろん、最大出力で。
当然翔だけは除外する。
それぐらいの操作ならできる。
ただアイツは、全部一回やっただけで対処してきた。
引き寄せも、一回しか通用しないだろう。
ここで決めなきゃいけない。
覚悟を決めよう。
「すぅ…はぁー…」
俺が深呼吸をして、攻撃の用意をしていると。
フッ、っと、今まで周囲を旋回していたはずの風王龍が消えた。
なっ…どこに消えた!?
俺は焦り、周囲を見回す。
すると、真右から俺に向けて突進してくる風王龍が見えた。
クソッ!まずい!
俺は咄嗟に刀を構えるが、遅い。
急に体の方向を変えて、体勢が崩れる。
この体勢じゃ、受け止められない。
風王龍もわかってたんだろう、ジリ貧だって。
だから全力の攻勢をして来てる。
そんな攻撃を止めるのに、崩れた体勢じゃ不十分。
・・・仕方ない。
俺は振り向き、後ろに向けて声を張り上げる。
「翔!頼む!」
そう、俺が言った瞬間。
風が吹いた。
そして、俺と風王龍の間に、翔が現れた。
風王龍は、苦虫を噛み潰したような表情を見せて、方向を変えた。
斜め下に降りて行くように、俺たちの真下を通り過ぎて行った。
ふぅ…
助かった。
「ありがと翔!」
俺は翔に感謝を告げる。
「いや、当然だよ。そんなことより、どこか怪我してないか?」
「全然大丈夫!任せて。」
それにしても、やっぱりおかしいよな。
アイツの行動。
翔が間に入った瞬間に軌道変えるじゃん。
同族意識が強いのかね。
で、その風王龍が戻ってこないんですが。
どこ行った?
俺は下を見る。
地面が遠い。
いつの間にか、かなりの高度まで上がって来ていたみたい。
そこには、どんどん下へと降りて行く風王龍と…
カイルがいた。
地表で、少しの魔物と戦っているようだった。
まさか…
アイツの狙いはカイルか!
カイルが危ない!
今すぐ追いかけないと!
さすがにカイルでも、一人は無理だ!
「翔!降りるぞ!」
俺は翔に声をかけて、全力で下へ向かい始めた。
間に合え…間に合え…!
・・・まずい!
俺がまだまだ地表には遠いところで、風王龍はもう下に着いてしまっていた。
風王龍はカイルに不意打ちを試みる。
だが、カイルも気づいていた。
後ろから来る風王龍の攻撃を受け止め、距離を取る。
ほっとした。
少なくとも俺たちが行くまでの時間、カイルが負けることは無さそうだ。
一瞬の静止。
その後に、風王龍は動きだす。
今までで一番早い速度で、カイルから離れていく。
逃げる気か?
・・・いや、ちょっと待て。
誰かいる。
カイルの斜め後ろ。
横たわっている人が一人と、その近くに三人。
たしか、さっきカイルが守ってた人たちか?
その方向へと、風王龍は移動していた。
まさか、本当の狙いはあの人たちか!
ダメだ。
あの人たちじゃ、絶対勝てない。
弱すぎる。
でも、俺も間に合わない。
カイルも少し遠い。
カイルが使うどんな武器でも、動けない人を庇いきることなんかできない距離。
これは…仕方ないか。
見殺しに、するしかない。
ごめん、名も知らない冒険者たち。
そう、俺は心の中で謝罪していた。
だが、カイルは動いた。
カイルも気づいたか。
でも、わからないわけじゃないでしょ。
これは、間に合わない。
全力で走れば、間に入ることはできるかもしれないけど。
その状態で、攻撃を捌きれるわけがない。
カイルは優しいんだ。
見捨てることなんかできない。
風王龍の爪が、横たわっている人に迫る。
近くにいた人たちは、かろうじて前に出て守ろうとしている。
・・・ごめん、助けられなくて。
グサッ!!
腹が貫かれ、鮮血が舞う。
地面に血が滴り、紅く染まる。
風王龍は、そこで止まった。
止められた。
・・・はっ?
なに…?
え…なんで?
なんで…カイルが…
俺は、地上に降り立つ。
そこで見た光景は…
カイルの腹を、風王龍の爪が貫通している光景だった。
カイル!?
なに、やってんだよ!
・・・いや、今は一旦いい。
落ち着け。
今やるべきことは、ここで風王龍を仕留めることだ!
カイルに攻撃して、風王龍は止まってる。
ここしかない。
俺は跳躍し、空中で刀を腰に構える。
一閃!
重力磁場を乗せて、宙を全力で駆ける。
目指すのは風王龍の首。
肉に刃が食い込む感触を感じた瞬間、龍の尾に俺は叩かれた。
だけど、弱い!
焦ってるんだ、止められて!
離れちゃダメだ!踏ん張れ!
うおおお!抜刀!
ズッッパァン!
俺は尾に叩かれ、引き剥がされつつも、風王龍の首を切り裂いた。
・・・クソ!浅い!
切断しきれなかった!
風王龍は、首を中ほどまで切り裂かれつつも、まだ闘志を失っていなかった。
カイルを突き刺していた爪を無理矢理引き抜き、俺へと差し向けた。
刀を振り抜いた状態だった俺は、かろうじて刀を防御に使うことはできたものの、衝撃は逃がせずそのまま吹き飛んだ。
だけど!
俺たちには、もう一人いる!
「翔!頼んだ!」
そう言った瞬間、電光が風王龍の傷口を目掛けて放たれた。
風王龍の動きが少しだけ止まる。
その隙を、翔は見逃さなかった。
巨大な、風王龍の半身ほどもある炎の剣を作り出した。
命の危険を感じたのか、風王龍は初めて翔へと手を伸ばす。
だが、遅かった。
翔は炎の大剣を操り、風王龍の傷口へと叩き込んだ。
「グオオオオオオォォォン!!!」
一度、咆哮。
そして、龍の首が…落ちる。
岩のように頑強で動かなかった体も、地面に倒れ込んだ。
その腕は、翔の方向へと伸ばされていた。
[ゴーマ族 ミリル マデリミア(矢島優樹)のレベルが上がりました。]
[レベルアップ後のレベルは、4です。]
[HP、MP、SPが回復しました。]
[各種ステータスが上昇しました。]
[レベルアップにより一部スキルのレベルが上がりました。]
[修練結晶を獲得しました。]
[ゴーマ族 ミリル マデリミア(矢島優樹)のレベルが上がりました。]
[レベルアップ後のレベルは、5です。]
[HP、MP、SPが回復しました。]
[各種ステータスが上昇しました。]
[レベルアップにより一部スキルのレベルが上がりました。]
[修練結晶を獲得しました。]
久々に聞く、レベルアップの音だった。
ボロボロになっていた体が治されていく感覚を、じっくり味わった。
そして俺は、一番心配だったものを見るために、後ろを振り向いた。
そこには、血をダクダクと流し膝をつきながらも、横たわっている人に魔法で治療をし続けるカイルの姿があった。
「カイル!!」
気づけば、怒鳴っていた。
当然だ。
どう見ても重症なのはカイルだろ!
治せよ!
「なにやってんだ!まず自分を治せ!翔も!カイルを治してやってくれ!」
「わかった!」
そうして、翔がカイルに近づくと。
「・・・いや、いい。俺より、この人が先だ。」
そう、淡々とカイルは言い放った。
頭の中で、なにかが切れる音がした。
「───ふざけんな。」
「・・・ユウキ?」
「ふざけんなっつってんだよ!!!」
俺の口から怒号が飛び出る。
「よく見ろ!おまえの方が重症だ!早く治せ死にたいのか!?」
「・・・いや、そんなことはない。ただ、この人を…」
「だからなんでだよ!命を大切にしろって言ったのは、おまえだろ!?そんなに治す気がないなら、このまま───!」
「優樹ストップ!カイルさんも!」
俺が、言ってはいけないことを言おうとしたとき、翔が割って入った。
「この人は、僕が治します。カイルさんは、自分を治すことに集中してください。僕も終わったら治療をしに行くので。」
「・・・わかった…」
カイルは、翔に丸め込まれて少し不服そうだった。
そして歩き出し、少し離れたところに座り、目を閉じた。
翔は言った通りに静かに治療を始めた。
その時、俺はというと、イライラしていた。
なんでだよ。
自分の命を、大切にしろって言ってたじゃないか。
それなのに、自分は他人を優先するのかよ。
おかしいだろ…
「あの…」
俺が腹の奥に沈みこんでいく感情を押し殺していると、後ろから声がかかった。
振り返ると、そこには三人の若い冒険者がいた。
「ありがとうございました…!助けてもらって…」
感謝された。
・・・けどそれは、俺に言うことなのか?
「守ってもらっちゃったし、さらにリーダーも治してくれるなんて…」
リーダー?
ああ、今転がってる人ね。
「優樹、終わったぞ。」
そう言って、翔が立ち上がる。
その顔が青い顔をしていることなど、俺は気づかなかった。
ずっと横になっていたリーダーは、体を起こし、座った。
「ゾル…!」
冒険者の一人、女がリーダーに抱きつく。
「おっと、待ってくれよ。恩人に感謝を伝えないとだろ?」
そう言って、リーダーは女を引き剥がす。
そして、口を開いた。
「助けてくれて感謝してる。俺がこのパーティのリーダー…ゾルディンだ。」
「・・・ああ、優樹だ。一応、このパーティのリーダー…かな。」
「俺がヘマをして、毒草なんか触ったばっかりにな…痺れて、一歩も動けなくなって。」
「この毒を治せる魔法使いなんてうちのパーティにはいないし。まともに口も動かせないし。」
「そんなときに龍に襲われたんだ。それも、あんな化け物にな。」
「死んだと思ったよ。だが、あんたらが助けてくれた。」
「助かった。本当に、ありがとう。」
ゾルディンは、俺に頭を下げた。
「・・・たしかに助けたけど、それは俺に言うべきことじゃない。」
その言葉は、カイルが受け取るべきものだ。
「アイツに…カイルに言ってあげて。」
カイルは、たぶんやった後のこと全部考えた上で、助けたんだろう。
その献身は、報われるべきだ。
「・・・ああ…わかった。ただ、あんたも話すべきなんじゃないか?」
「さっき、揉めてただろ。大方、俺たちを助けるかどうかだろう?俺たちがいない方が都合がいいはず。一回俺たちは席を外す。だから話してこいよ。恩人さん。」
そう言って、ゾルディンたちは立ち上がり、離れていった。
・・・ありがとう。
これで存分に、話せる。
「カイル。」
離れた場所に座っていたカイルに近づき、俺は声をかける。
カイルはゆっくりと振り向き、俺を見た。
カイルの傷は、塞がりきってはいないものの、もう危機的状況には見えなかった。
「ユウキか…あの人たちは、大丈夫だったか?」
「ああ、カイルのおかげでな。」
静寂。
また、俺が口を開く。
「・・・なんで、あの人を優先した?」
「俺より、助けられるべき人だからだ。」
それは、予想外の理由だった。
てっきり俺は、底抜けの善人だから、自分より他人を優先するのが美徳だから。
とか言われるものだと思い込んでいた。
「・・・どういうことだ?」
「俺は、なにもない。そんな者が、冒険者パーティのリーダーより優先されるか?」
こいつは…!
何言ってんだよ!
それ、自分がどうでもいいって言ってるようなもんだぞ!
「なに考えてんだよ!おまえにはおまえの価値がある!人より価値がないなんて、二度と考えるなよ!」
「・・・ごめん。ユウキ。もうしないよ。」
「とにかく、みんな無事でよかった。」
そう言うカイルの目は、どこか冷たい目をしていた。
『みんな無事』
そのみんなに、自分を入れていないような気がした。




