33話 仲間を切り捨てるゴビと、居酒屋にいるライトについて
「だから、さっきからシルバーシーリングさんのところまで詫びに行かないと大変なことになるって言ってるだろ!」
「わかんねぇよ。なんで俺達がそんなことしなくちゃいけないんだよ?」
「俺達より偉い貴族に手を出しちまったからだろうが。」
暗い夜道の外れで、4人の男が話をしている。
何かを言い争っているようにも見えるが、そこにいたのは、昼ごろにスミ・ホワイトバードやアルト・シルバーシーリングのいたパン屋、ホワイトブレッドに押し入ってきた4人の貴族達だった。
4人はアルトのメイドであるクルルに店から追い出され、ここまで逃げてきていたのだ。
そして、4人のうち2人はクルルに投げられて気を失っており、目覚めたのはつい先程のことだった。
4人のリーダー格である、ゴビ・サンドパークはシルバーシーリング家に迷惑をかけたまま放っておくと大変な事になると理解していたため、他の3人にお詫びに行く必要性を語っていた。
しかしながら、他の3人は事の重大性を理解できないらしく、ゴビに延々と文句を言っていたのだ。これまでの生活において、叱られることなく自分のしたいままに生きてきた彼らである。彼らの辞書に「謝罪する」という言葉はなく、彼らにとって謝罪とはされるものであり、自分がするものではないのであった。
そんな彼らにゴビは再度語った。
「いいか。本当ならこんな夜中に行くこと自体よくないんだぜ。それでも今日したことを今日のうちに謝るならまだましだ。けど、もしも今日行かなかったら最悪、俺達どころか、俺達の親にまで話がいくんだぞ。わかってるのか!?」
「そうは言ってもよぅ。なんでパン家に行っただけで謝りに行かないといけないんだ?」
「そうだよ。もともと家の金を楽に盗めるっていうんで、殺人事件の捜査だかに協力することにしたんだろ?なんでシルバーなんとかとかいう貴族に謝罪する必要があるんだ?」
「そうだよな?むしろ俺達の方が投げられてケガしてるんだから、そいつらが謝りにくるべきだよな?」
ピクピク
(こいつら本当にバカなのか?)
ゴビの顔には怒りのあまり青スジが浮かんでいた。
「あのな、シルバーシーリング家は俺達より地位が上なんだよ、わかるか?その家の娘さんに迷惑をかけちまったんだよ。謝りに行かなかったら、家ごと潰されるかもしれないんだぞ!?」
ゴビはそう言って3人を説得しようとしたが、それでもなお、3人は動こうとしなかった。
そして少しの沈黙のあと、ついに3人のうち1人がゴビに言った。
「そんなに謝りに行きたいならお前だけ行けばいいじゃねぇか。」
「なんだと!?」
「そうだよ、お前が行って俺達全員分の謝罪をしてくればいいんじゃないか。」
「お前ら……」
ゴビは仲間に言われた言葉に思わず絶句した。
(バカだとは思ってたがここまでバカだったとは。)
この時点で、ゴビは他の3人と関係を切ることを決意した。
バカ騒ぎをするには楽しく騒げる相手ではあったが、本当のバカでは困るのだ。
それも、仲間を大切にするならまだしも、仲間内ですら自分1人に謝罪に行かせようとするような人間性の奴らとはこれ以上付き合っていられない。
「……」
すでにゴビには3人に話す言葉はなかった。
ゴビは無言で3人に背を向けると、彼らから遠ざかるように歩き始めた。
(時間を無駄にした。自分だけでさっさと謝罪に行くべきだった。)
「おい、どこに行くんだよ。」
「謝りに行くんだろ?俺達のこともちゃんと言っといてくれよな。」
「俺達を裏切るなよー。」
3人が口々に声を上げるが、ゴビは立ち止まらず何も言わずに歩き続けてその場から去っていった。
「それでどうする?」
「とりあえず飲もうぜ、なんかごちゃごちゃ言われてムカついてるしよ。」
ゴビが去ってから、3人はこれからどうするか話をしていた。
どうするかといっても、彼らにゴビと一緒に謝りに行くという選択肢はなかった。
「まったくだ。本当なら何件かまわって金を稼げてたはずなのによー。」
「あいつどうするんだろな?」
「知らね。なんか自分はわかってる感じを出しててムカつくわ。」
「本当だよな。お前の話なんて知らねぇっつうの。」
「なぁ、近くの店行こうぜ。腹も減ってるし。」
「そうするか。」
「クケケ。」
突然、話をしている3人の頭上から声がした。
そして、3人が確認する間もなく、
ドン
3人の目の前に大きな人影が飛び降りてきた。
「はぁ?」
「何だよ。」
3人は突然現れた人影に間の抜けたような声を出した。
そして、人影を確認して初めて、その人影が巨大な体で鳥の頭をしている人間だと気づく。
「おい、こいつって。」
1人が鳥頭の男を指差しながら一歩近づいた。
「フンッ。」
グシャリ
鳥頭の男は無造作に、近づいてきた男の顔を殴り飛ばした。
「ヘブッ!?」
顔を殴られた男の体はあまりの威力に宙を舞った。
ドサリと男の身体が落ちる。
男は一撃で気を失ったらしく、地面に落ちた姿勢のまま動かなくなった。
「な、何するんだよ!!」
仲間を殴られた1人が鳥頭に叫ぶ。
しかしながら、鳥頭は何も言わずに叫んだ男に近づいて、
ドスン!
男の腹を蹴り上げた。
「オゴッ!」
男の体は空に高く蹴り上げられ、受け身を取ることもできずにそのまま地面に激突した。
ゴシャ
鈍い音が鳴る。男は腹部に受けた蹴りの衝撃と空高くから地面に激突した衝撃で気絶していた。
「ヒイィ。」
瞬く間に2人が気絶させられて、残りの1人となった男は悲鳴をあげてその場から逃げだした。
あまりの恐怖に足をもつれさせながら逃げようとする。
そして、鳥頭は男が逃げるのを許さなかった。
素早く男に近づくと、男の足に蹴りを放つ。
グシャリ
足を蹴られた男の体はキレイに一回転して地面に落ちた。
「うああああああーーーー!!!!」
他の2人と異なり男は気絶しなかった。しかしながら、男は足に手を当てて異様なほど悲鳴を上げた。
「痛ぇーーー!!!痛えよおおおーーーー!!!」
男の足は折れて歪に曲がっていた。
鳥頭の蹴りで足が壊されていたのだ。
鳥頭の男、ネイバー・バックヤードは地面に転がった3人を無感情に見下ろすと、そのまま3人を放置してその場を去っていった。
後には気絶した2人と悲鳴を上げ続ける1人が残されていた。
(ネイバーはまだかな。上手くいったのか、今どうなっているんだろう。)
所変わって、街にある居酒屋でライト・ニューポートは考えにふけっていた。
ライトはネイバーと別れた後、ネイバーが家を荒らした兵士達に制裁を加えている間、居酒屋で時間を潰すことにしていたのだ。
店に入ってから1時間以上経っているだろうか。出された食べ物はほとんど食べ終わり、ライトは今ちびちびとお酒を飲んで時間を過ごしていた。
事が終わったら、ネイバーから何かの合図がある事になっている。それまでは時間を潰さないといけない。
「それにしても、お前が店に来るなんて珍しいな。」
「あ、ああ。そうだね。」
突然キッチンから話しかけられて、ライトは戸惑いながら返事をした。
話しかけてきたのはこの店で働く男、サムだった。
ライトと仲が良かったというわけでもないが、顔見知りではあった。
「今日は突然兵士が家に来て、家を散々荒らされたから何もやる気がしなくて、それでここに来たんだ。」
「それ本当かよ。実はうちにも兵士が来たんだ。何か殺人事件が起きたとかでさ。」
サムは深刻な表情をしてライトに語った。
「そっちにも来てたの?何か言ってた?俺には何も話してくれなかったよ。突然やってきて家を荒らされたんだ。」
ライトはその出来事を思い出して顔を歪ませた。
「酷い奴らだよな。俺のところでも詳しいことは何も話さなかったな。うちはその時たまたま親父がいて、親父がお偉いさんと仲が良いから家を荒らされずにすんだけど、親父がいなかったらどうなってたかわからないよ。」
「そっか。一体何なんだろう?ここまでされたことなんて初めてだよ。」
「さぁな。うちの親父から話しを聞けたら教えてやるよ。そうだ、慰めにせっかくだしお前に一杯奢ってやるよ。」
そう言うと、有無を言わさずにサムは新しいグラスに酒を注いだ。
「えぇ!?けど悪いよ。」
「いいから、これからたまに来てもらえると嬉しいっていう営業の意味合いも込めてだから、飲んでよ。」
「う、うん。ありがとう。」
グラスをテーブルに置きながら笑顔で話すサムの姿に、ライトは陰鬱とした気分が晴れるのを感じた。
「えっと、料理も美味しかったよ。」
「あはは、ありがとう。」
たどたどしく料理を褒めたライトにサムは笑顔を向けてキッチンへ戻っていった。
サムの姿を見ながら、ライトは新しいお酒に口をつけた。
「苦い。」
ライトはお酒の軽い苦味と、爽やかな冷たさを感じていた。
コンコン
店の外から窓を叩く音がした。
ライトが窓へ目を向けると、小さな鳥がクチバシで窓を叩いていた。そしてライトと視線が重なると、鳥は「こっちに来い。」というように首をクイクイと動かした。
(ネイバーだ。)
ライトは椅子から立ち上ると席にお金を置き、サムに向かって話しかけた。
「ごめーん。お金を置いておくから、少し店の外に出てもいいかな?また戻ってくるから。」
「うん?ああいいよ。」
話しかけられたサムは不思議そうな表情をしたが、特に気にすることもなく了承した。
そして、ライトははやる気持ちを抑えて店から出たのだった。
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緊急事態宣言再びですか。はやく収まるといいな。




