32話 悲鳴を上げるグロウ
ライト・ニューポートの家を荒らしていったうちの1人、兵士のグロウは家の2階の一室で報告書を書いていた。
報告の内容は捜査に立ち入った家の捜査報告であり、いずれの報告結果においても、犯人と繋がりのある物品は見つからなかったという内容が記されていた。
そして、その報告にはグロウと共に捜査を行なったパイプとガムの2人が、家からお金を盗んでいたという報告は一切なかった。
それはグロウにとってどうでもよいことだったのである。
グロウは実際、2人が家からお金を盗んでいることを知っていた。だが、グロウの仕事は殺人犯を探すことであり、家の中で何が行われようとも、それはグロウの関与しないところであった。
通常で考えれば、主たる任務が犯人探しであったとしても、兵士であるグロウは窃盗犯を捕まえなければいけないはずである。
だが、任務以外のことは自分に関係のないものであり、何が起ころうとも、自分に関係ない事について自分が動く必要はないと考える。グロウはそういう人間であった。
このため、グロウにとって大事な事は捜査を行なったという記録が残される事であり、その過程において家が荒らされようとお金が盗まれようと、そんなことはどうでもよい事なのであった。
また、グロウの家には驚くほどモノが少なかった。生活に必要なもの以外には置物なども一切なく、殺風景な有り様であった。その様子はグロウが自分の仕事以外には動こうとしない心根を反映しているものにも思えたし、まるで機械のように、グロウは今自分が生きている事にすら関心がないようでもあった。
ドン!
グロウのいる部屋の窓に、何か大きなものがぶつかる音がした。
機敏な動きでグロウが窓を見ると、窓の外には大きな人影が壁にへばりついていた。
そして、その人影は外から家の中をキョロキョロと見渡して、グロウの姿を見つけると獲物を見つけた動物のように目を細めた。
人影は片腕と両足を使って壁に張り付いたまま、残る片腕を大きく振りかぶり、窓に拳を叩きつけた。
バリィィィン!!
窓をぶち破り人影が家の中へ侵入していく。
それに対するグロウの動きは早かった。
素早く椅子から立ち上がると、身近に備え付けていた護身用のサーベルを手に取り人影に駆け寄る。
そして間を置かずサーベルを鞘から引き抜くと、人影に向けて突き刺したのだ。
グロウの行動に躊躇いはなく、人影の胴体、腹筋のあたりに刃が突き立てられる。
普通の人間であったなら、腹部を大きく損傷して大怪我を負うか、もしくは死んでもおかしくない刺し方であった。
グロウは侵入者の姿をほとんど確認していなかった。侵入者が平民でも、あるいは貴族であったとしても、家に侵入してきた時点でサーベルで刺されても当然と考えていたし、また、それによって相手が死んでしまったとしても、それも当然の報いであると考えていた。
ブスッ
音にならないような小さい衝突音が鳴る。刃は相手の皮膚に食い込み、そのまま皮膚を突き破り肉を裂いていくものと思われた。
だが、
グググッ
刃は皮膚の上で止まっており、それ以上食い込んでいなかった。
(硬い!?)
グロウは驚きながらも、手にしたサーベルにさらに力を込めて皮膚に突き立てた。だがそれでも、刃はそれ以上動かなかった。
力を込めながら、グロウはあらためて相手を見た。
まず見たのは、サーベルの切先を刺した相手の腹筋だった。上半身が裸ということにもここで気づいたが、発達した筋肉の盛り上がりは目を引いた。
それでも、筋肉で真剣をとめることなどできるはずはないのだが。それでも現実に刃は止められていた。
それからグロウは目線を上げていき、相手の顔を見た。
そして、そこで目が合ったのだ。自分を見下ろす鳥の目と。
「ッ!!?」
グロウは顔を引き攣らせた。
悲鳴を上げることはなく、サーベルから力を抜くこともなかったが、目は鳥頭に釘付けになっていた。
一方で、鳥頭もといネイバーは、何も言わずに突き立てられたサーベルを眺めていた。
そして何も言わないまま、胴体にサーベルを突き立てられた状態でゆっくりと片腕を上げていく。
そして、グロウがサーベルを持っている腕をゆっくりと掴み、手に力を込めた。
グシャリ
骨のひしゃげる音がした。
グロウは、自分の体の中で骨が不自然に曲げられ、そしてそのまま折れていく、不自然で不気味な音を聞いたと感じた。
「?」
ガシャンと音を立てて、握っていたサーベルが腕から落ちた。そしてその腕も、肘から先がブランと折れて曲がっていた。
そして一瞬の後、何が起きたのか理解ができなかったグロウに、現実の痛みが襲ってきた。
「アアアアアアア!!!!!アアアアアア!!!!!」
グロウは叫んでいた。
顔は大きく歪み、とても普段のグロウの、無機質な顔からは想像もできないほど悲痛に歪んでいた。
その様子を見たネイバーは、あまりにも大きな反応を見せたグロウに逆に戸惑っているようだった。
「おいおい、痛いだろうけどそんなに泣くなよ。」
掴んだ腕を離してネイバーはグロウに話しかけた。
「ヒイィ!!ウワアアアアッ!!!!」
ネイバーの声を聞いたグロウはさらに叫び声をあげた。
グロウにとって、こんなことは起きていいはずがない事だった。
全てのことを規定の通りこなしている自分に、規定以上の事が起きていいはずがない。ましてや、超常的な現象に見舞われることなどあってはならないのだ。それがグロウにとっての常識であった。
だが、今日それは起きたのだ。
強盗が押し入ってきたかと思いきや、巨大な鳥頭の怪人がやってきたのである。
しかも、自分の腕を折り、人の言葉で話しかけてきたのだ。
グロウにとってそれは恐怖以外の何ものでもなかった。
「ば、化け物!!化け物!!ヒイイイイーー!!!!!」
グロウは悲鳴を上げて、折れた腕をもう片方の腕で押さえながら一目散に部屋から逃げていった。
「おいおいまじかよ。」
ドタバタと音を立てて逃げるグロウを、ネイバーは追わなかった。
ライトの家に押し入って来た時と、今の逃げていくグロウの様子の、あまりのギャップに呆気にとられていたのである。
「どことなく強そうな雰囲気で来てたんだからさ〜、もう少し抵抗してもいいんじゃないのか〜?」
ネイバーは頭を少し掻いたが、気を取り直したのか部屋にある棚を開け始めた。
「まぁいいや。とりあえずお金でも取っていくか。」
しばらく棚を漁るとグロウの財布が見つかり、ネイバーは財布からいくらかのお金を取り出して袋に入れた。
それからネイバーは自分が侵入してきた窓際へ歩いて行った。
窓からは、悲鳴を上げながらどこかへ逃げていくグロウの声が聞こえてきた。
その声を聞いたのか、近くの家の人間が外の様子を伺っている姿が見える。
「いい感じに注目が集まってるな。いいぞ。」
ネイバーはどことなく満足そうに言った。そして、
「あとはてきとうに1人くらいその辺にいてくれるといいんだけどな〜。」
と鼻歌でも歌うかのように言うと、グロウの家を飛び出して再び夜の空へ姿を消した。
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