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31話 バードストライク

 貴族の家、2階の一室で、2人の男が話をしている。

 1人は貴族で名前をパイプといい、もう1人は兵士のガムといった。

 彼らは身分は違うが顔馴染みであった。そして、兵士のグロウと共にライトの家を荒らしたのは彼らであった。

 彼らはテーブルを挟んで向い合う形で話をしていたが、挟まれたテーブルの上にはかなりのお金が置いてあった。それはまさに、紛れもなくライトの家から盗まれたお金であった。また、他の家から盗んできたらしいお金もテーブルに乗せられていた。

 彼らはテーブルのお金を律儀に数える作業をしていた。その最中、貴族のパイプが笑みを隠せない様子でガムに話しかけた。

「けっこう稼げたな。」

「おお。貧乏人達だと思ってたけどそれなりに金を隠してやがったな。」

「今日5軒まわってこんだけ稼げたんだから、これを続けたらやばい金額になるよな。」

「本当だよ。鳥頭の男だか知らないけど、そんなバカみたいな変人が出てきてくれてラッキーだよ。」

 ガムが鳥頭の男、つまりネイバー・バックヤードの事を口にだすと、パイプは「ブフッ。」と吹き出して笑い声をあげた。

「お前そいつの話したら笑っちまうだろ、鳥の頭で裸の男とか面白すぎるわ。」

「本当にな。そんな奴に出くわしたら俺、必死に土下座しちゃうよ。」

 パイプに釣られるようにガムも笑い声を上げる。

「おいおい、お前は兵士なんだから戦えよ。」

「やだよそんな変態と戦うの。俺はもう逃げるね。けど…….。」

「けど?」

「もしもその鳥男が追いかけてくる時に「ポウポウ!」とか鳴き声出しながら走ってきたら笑い転げて逃げられない自信あるわ。」

 ガムは「ポウ」と鳥の鳴き真似をした。

「ブフッ。それ最高だわ。」

「あっはっは。いやけど、俺の知り合いが兵士の上の方にいるから聞いてみたんだけどさ。結局、貴族達を殺したのは店の奴で、そいつが嘘を垂れ流してるだけみたいだよな?」

「あー、うちの親父も同じこと言ってたわ。まぁどっちでもいいんだけどな。それよりもよ……。」

 パイプはそこで一度言葉を切り、突然ヒソヒソ声で話し出した。

「あのグロウっていう奴は大丈夫なのか?」

「大丈夫って?」

「俺たちが家から金を持ち出してるのに気づいてないのか?」

「あー、わかんね。何も言ってこないし、多分知らないんじゃないか?」

 パイプが気にしているのは、パイプとガムが家の捜査の裏で行なっている、お金の盗難についてのことだった。

 パイプとガムはグロウとともに、ライトや他の家の捜査を行なっていた。そして、グロウに家の人間とのやりとりを任せて、家の捜査を行うことを口実にしてその家のお金を盗んでいたのであった。

 今のところグロウは2人が行なっていることに何も言ってきていない。しかしながら、それがグロウが2人のしていることを知らないからなのか、知っていてあえて見逃しているのかパイプには判断出来なかった。

「本当か?突然俺たちのことを告発したりとか、取り分をよこせとか言ってきたりしないのか?」

 疑うパイプとは逆に、ガムは全く気にしてない様子で応える。

「あ〜、大丈夫だろ多分。あの人そこらへんのこと興味なさそうじゃん。それに、そんなこと言っても俺たち2人でやるのはやっぱりキツいだろ?あの人が家の人間を押さえてくれるから俺たちで家の金を探せるんだからさ。」

「そうなんだけど、俺たちが集めた金なのに後から何か言ってきたら嫌じゃん。何かあの人怖いしさ。」

「あの人が苦手なのは俺もだよ。それこそあの人、殺人とかしてそうじゃん、しかも無表情にやりそう。まぁ今のところは何も言ってきてないんだしいいじゃん。」

「う〜ん。そうだけどよお。」

 パイプは納得のいかない様子だったが、現状を変える手段は思い浮かばないらしく、再びお金を数え始めることにした。

 そしてお金を手に取ろうとした時、


 バン!!


 2人のいる部屋の窓をぶち破り巨大な人影が飛び込んできた。

 その巨人は地面に着地したかと思うと即座に2人に飛びかかった。

 そして2人が反応する間もなく2人の頭を片腕ずつで鷲掴みすると、2人の頭を持ち上げて体を椅子から引きづり上げ、勢いよく2人の頭をぶつけた。

 ゴスン!

 鈍い音が鳴る。

「ぐぁっ!」

 パイプは突然やってきた巨人への驚きと、頭の激しい痛みに混乱していた。

(痛ぇ!なんだ!?なんだこいつ、なんで俺が持ち上げられてるんだ!?)

 そして混乱が解ける間もなく巨人は2人の体を壁に投げつけた。

 バァン!

 パイプとガムの体が重なるようにして壁に叩きつけられる。

「「ぐええ」」

 壁に叩きつけられた2人は呻き声をあげて地面に落ちた。

「う、ぐうう。」

 パイプは痛む体に呻き声を上げながら侵入者の姿を見上げた。

 そしてそこにいたのは、上半身が裸で筋肉が隆起した、身長が2メートルはありそうな男だった。そして、その男の頭は人間のものではなく、鳥だった。

(こ、こいつが鳥頭の男!?本当にいたのか。じゃあこいつが貴族達を殺していった犯人なのか?……)

 パイプは驚愕した。実際に鳥頭の男がいるなど考えてもいなかったのである。それも自分の家に侵入してくるなど。

 鳥頭は2人の方を見ることなく、テーブルに置かれたお金を見下ろしていた。

 そして、腰につけていた袋を広げるとテーブルのお金を無造作に入れ始めた。

 ジャラララ

 コインが音を立てて袋に入っていく。そして10秒も経たない間に全てのお金が袋に入れられてしまった。

 お金の入った腰の袋はかなりの重さになっているはずだが、鳥頭の体格が大きいためか袋の重さを感じさせない。

 鳥頭は残ったお金がないかテーブルを一回り見ると、地面に倒れているパイプとガスに目を向けた。

 そして、パイプと鳥頭の目が合った。

 パイプはその時息の詰まるような思いをした。

 そんなパイプの様子を見たためか、少し見つめ合った後、鳥頭は「クケケ。」と笑った。

(見下してやがる。)

 パイプは動物の心がわかったことなど一度もない。しかしながら、この時は明確に鳥頭の考えがわかったと感じた。

 そして、それはパイプにとって許せないことであった。

 貴族の自分が突然やってきた正体不明の変人に見下されていいわけがないのである。

「ま、待てよ。その金は俺のだぞ!」

 地面から立ち上がれないままパイプは鳥頭に叫んだ。

 それは体が動かないパイプにできる唯一の反抗であった。

 鳥頭はパイプの言葉を聞くと、再び「クケケ。」と笑い、ズンズンと足音を立てながら2人の方へ近づいていった。

 そして、鳥頭が2人の位置まであと2歩程度まで近づいたとき、突然、ガタンと音を立てて倒れていたガムが立ち上がり扉へ駆け出した。

 ガムは気絶したフリをしていたのである。

 そしてそのまま、この場をやり過ごそうとしていたようだが、鳥頭が近付いて来たので部屋から逃げ出そうとしたのだった。

 ガムの行動は素早かった。少なくとも普通の人間ならガムを捕らえられず逃してしまう程には速く、あと3歩でも足を動かすことができれば部屋の外へ出ることができたはずだった。

 しかし、ガムがその1歩を動かすよりも速く鳥頭はガムに接近していた。

 そして、

 バァン!!

 鳥頭はガムの頭を壁に叩きつけた。

 さらに、鳥頭の腕に力が込められ、ガムの頭が壁に押しつけられる。

 メキメキメキメキ

 壁が軋む音なのか、あるいはガムの頭が軋む音がパイプの耳に聞こえる。

「〜〜〜!!!」

 ガムは声にならない悲鳴をあげていた。

 腕を上げて鳥頭の腕を引き剥がそうとしていたが、ガムの腕力では全く意味をなさない。

 そして、少しするとあまりの痛みで気絶したのか、ガムの腕がブラリと垂れ下がった。

 ビクン、ビクン

 気絶しているのだろうが、壁に押し付けられたままのガムの体が魚のように跳ねた。

 パイプはその光景に恐怖を感じた。

「ヒイイ。」

 パイプは床を仰向けで這いずるようにして鳥頭と距離を離そうとした。

 だが、鳥頭はそれを見逃さなかった。

 鳥頭がガムから腕を離すと、ガムの体は何の抵抗もなく地面に落ちた。

 それを見ることもなく鳥頭はゆっくりとパイプに近付いていった。

「ヒイイ、やめろ。お金はあげるから助けて、助けてくれ。」

 つい先ほどまで鳥頭に抱いていた怒りも消え失せた様子でパイプは鳥頭に懇願した。

 パイプが目上のもの以外に頼み事をしたのは生まれて初めてのことだった。目下のものは全て自分に従うべきと考えていたからである。

 だが、命の危機を感じるようになって初めてパイプは目下と考えているものに懇願したのだった。

 その声を無視して鳥頭は地面に仰向けになっているパイプの両足を掴んだ。

 そして、勢いよくパイプの体を振り上げると、勢いをつけてパイプの体を振り下ろし地面に叩きつけた。

 ドスン!!

 床が抜けてしまいそうな衝突音が響く。パイプの体は地面に叩きつけられた衝撃で上に跳ねた。

 パイプの目は飛び出しそうなほど見開かれて白目をむき、口からは泡が吹き出した。

 パイプは完全に気絶していた。


「とりあえず、ここはこんな所にしておくか。」

 鳥頭、もといネイバーは気絶したパイプとガムを見下ろして言った。

 ネイバーが2人の位置を知ることができたのには理由がある。

 ネイバーは犬の姿のときに嗅いだ、グロウ、パイプ、ガムの3人の匂いを記憶していたのである。

 そして、魔物であるネイバーの嗅覚は犬よりも優れており、離れていてもパイプやガムのいる場所を探し出すことができたのであった。

「また来るから楽しみにしとけよ。」

 気絶した2人にその声は届いていなかったが、ネイバーは言葉を残すと、自分が侵入するときに割った窓のそばへ歩いていった。

 そして、タックルの姿勢をとると、窓際の壁をタックルでぶち破り外へ出た。

 バゴン!

 壁が破壊され、家の外へ破壊された壁の破片が落ちていく。

「これで他の奴らも気付きやすいだろう、次のもう1人のところへ行くとするかね。」

 地面に着地したネイバーは自分が破壊した壁を見上げて「クケケ。」と笑うと、夜の闇へ姿を消した。


 それから程なくして、

「おい、何を騒いでいるんだ。」

 家の1階にいたパイプの父親であるバリが2階の騒音に気付き部屋の扉を開けた。

 その時バリが考えていたことは、いつもうるさい2人が今日は輪をかけてうるさいので、文句の1つでも言ってやろうということだった。

 だが、扉を開けてバリの目に飛び込んできたものは倒れ伏す2人の姿と破壊された壁の姿だった。

「な、なんだ、何があったんだ。」

 凄惨な室内を見て慌てるバリをよそに、街の空気はまだ静まっていた。

お読みいただきありがとうございます。


感想や評価などいただけるとうれしいです。


年末体調を崩さないようにしたいですね。

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