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25話 アルトとスミの出会いについて2

 アルト・シルバーシーリングはスミ・ホワイトバードのいるパン屋、ホワイトブレッドへ来ていた。スミに強引にパンの作り方を教えさせようとするアルトだったが、その最中、パン屋に来客が現れたのであった。




「こんにちは〜。」

「あ、ライトくん。こんにちは。」

「うん。……あれ、取り込み中だった?」

 店に入ってきたのはライト・ニューポートだった。そして、ライトは店の中にいるスミとアルトの姿を確認し、何か緊張感のある空気が流れていることを感じていた。

「ううん、大丈夫。もう集荷の時間だっけ?ちょっと待っててね。」

 スミは笑顔でライトに言った。そして、アルトとクルルに向き直り、

「すみませんアルト様、クルルさん。少しお待ちいただいてもよろしいですか?」

 と言った。

「構わないわよ。邪魔はしたくないし。」

 スミに対してアルトが答えると、スミはアルトに向かって頭を下げた。

「ありがとうございます。ライトくん、すぐに戻ってくるからちょっと待ってて。」

「うん。いってらっしゃい。」

 スミはライトにそう言うと、足早に店の奥に消えていった。

「……」

「……」

 スミがいなくなった店の中には、先ほどとは別の緊張感が生まれていた。

 ライトはアルトが貴族であることを知っているが、なぜこの店にいるのかは見当がつかなかった。少なくとも、ライトがこの店で店番をしているときにアルトがこの店に来たことはない。しかも何だか重苦しい空気が漂っていたことも気がかりだった。

 しかしながら、アルトにもスミにも話を聞けるような空気ではない。

(一体何があったんだ?よくわからないけど早く出ていきたい。)

 ライトは早くスミが戻ってくるのを祈るばかりだった。

 一方で、アルトはライトが誰なのか知らなかった。アルトがライトを見て思ったことは、なんだか冴えない男が入ってきた、ということだけだった。

 また、アルトはスミと話の途中で入ってきたことに対するイラつきを感じていたが、それと同時に、ちょうど話を落ち着ける時間ができてよかったかもしれないと考えていた。

 それでも、アルトはライトに興味がなかったのでとくに話をしようと思うことはなく、そのまま静かにスミを待つことにしたのだった。


「お待たせ〜。」

 1分ほどすると、スミが両手で抱えることができるくらいの荷物を持って戻ってきた。そして、それをそのままライトに手渡した。

「はい、じゃあこれをお願いねライトくん。」

「うん。まかせてよ。」

 助かったというような表情でライトはスミから荷物を受け取った。

「あとは何かある?」

「うん。いつものところで紙に書いてあるものを買ってきてほしいの。」

「わかった。じゃあもう行くね。」

「うん。ありがとう。」

 ライトは荷物を抱えて店を出ていった。

 店の外では再び犬の鳴き声とライトが何かを言う声が聞こえてきたが、何かを引き摺る音とともに声は遠ざかっていった。


「今のは何をしていたの?」

「えっと、今の荷物を渡していたことですか?」

「そう。」

 ライトがいなくなり、アルトはスミに今の出来事が何だったのか尋ねた。

「毎週隣の街に、こんな感じで荷物を持っていってもらっているんです。あとそのついでに、隣の街に欲しいものがあるときは買ってきてもらっているんですよ。」

「へぇ。そんなことをしているの。」

「はい。」

「それって、パンを作る材料も隣の街から買ったりしてるの?」

「え、えぇ。そういうものもありますよ。」

「ふ〜ん、興味深いわね。私がパンの作り方を教えてもらう上で勉強になるわ。」

「そ、そうですか。」

 スミはアルトの様子を見て、アルトにパンの作り方を教えざるを得ないということを感じていた。

 スミはチラッと横目でクルルを見た。クルルはその視線を受けて申し訳なさそうに顔を伏せた。

 アルトがどういう人なのかはわからないが、クルルの様子を見るにここで折れてくれる人ではなさそうである。

 スミは心の中で大きくため息をついた。そして静かに呼吸を整えた。

「アルト様は、そんなにパンを作ってみたいのですか?」

 スミがアルトに聞くと、アルトは目を輝かせた。

「そう、そうなのよ。」

「わかりました、お役に立てるかわかりませんが、簡単なパンの作り方くらいなら教えられると思います。」

「ホントに!?パンの作り方を教えてくれるの!?ありがとうスミ。あなたホントにいい人だわ。」

 アルトは大喜びしながらスミの両手を手に取って強く握った。

「いえ、いつもパンを買ってもらっていますし、これぐらいなんでもありませんよ。」

「そんなこと言わないでいいわよ。迷惑なのはわかってて、それでもあなたに教えてほしかったから。そのかわり私にできることがあったら何でも言ってね。」

「はい。その時はよろしくお願いします。」

 喜ぶアルトに対して、スミの表情は苦笑いであった。

 アルトはしばらくスミの手を握っていたが、手を離すとクルルに顔をむけた。

「やったわクルル。あなたがこの店を知っててよかった。ありがとうね。」

「どういたしましてアルト様。スミさん、本当に申し訳ないのですが、どうかよろしくお願いいたします。」

 クルルはスミに対して頭を下げた。それに対してスミは両手を振って「気にしないでください。」と言った。

「さて、話もついたし、これ以上邪魔するのも悪いわね。」

 アルトはパンの作り方を教えてもらえることが決まったためか、晴れ晴れとした顔をしていた。

「いえいえ。」

「とりあえず次に来る日は決めるとして、そうだ、せっかくだからパンを買わせてよ。」

「ええ!?いいですよそんなこと。悪いですし。」

 パンを買うというアルトの申し出をスミは断ったが、アルトはここでも引き下がるつもりはないらしい。

「私が買いたいのよ。クルルも選んで。買ってあげるから。」

「私もですか?」

「1人で買ってもつまらないでしょう。」

「そうですか。奢りならまぁ、ありがたく選ばせていただきます。」

「よしよし、家に持って帰るのが楽しみね。」

 そうしてアルトとクルルは店内のパンを物色し始めた。

 2人で互いにこれがいいか、あれがいいかなど話をしている。

 その様子を見てスミは、パンの作り方を教えるように強制されたものの、ヒドイ目には合わないで済むかもしれないと感じていた。

(いちおう、私に悪気を感じているみたいだし、他の貴族の人よりかはマシかもしれない。クルルさんに横柄な態度をとっている感じでもないし。おとなしくパンの作り方を教えていれば満足してくれそうだ。)

 スミは突然2人が入ってきた時はどうなることか気が気でなかったが、大分落ち着きを取り戻していた。

 しかし、


 バタン!!

 突然、店の扉が大きい音を立てて蹴り開けられた。

「オラぁ!!出てこい殺人犯が!!」

 怒鳴り声を上げながら、店内に4人の男が入ってくる。

「きゃあ!や、やめてください。」

 スミは男達に悲鳴をあげながら懇願した。

 スミの声を無視して男達は乱暴な足取りで店内を歩き、周りに置いてある商品のパンや備品を床にぶち撒けた。そして、ヅカヅカと店の奥に行こうとする。

 スミは突然入ってきた男達に怯えてしまい、壁際まで後退りをした。そして、胸の前で両手を握りしめることしか出来なかった。

 しかしながら、男達が店を荒らしながら店の奥に行こうとした時、男達の目の前に1つの影が颯爽と舞い降りた。

「待ちなさい!あなたたち一体どういうつもりですか!」

 そう言ったのはクルルだった。

 クルルは素早く跳躍し男達の前に立ちはだかったのである。

 男達は突然現れたクルルに驚いた様子だったが、すぐに気を取り直すと何も言わずにクルルの体を押し除けようとした。

 そのとき、

 クルルを押し除けようとした男の体が宙を舞っていた。

 そしてそのまま受け身をとることもできずに地面に叩きつけられた。

 ドン!!

 激しい音が店内に響いた。

 クルルが男を投げたのだった。地面に叩きつけられた男は目を見開いて痙攣していたが、そのまま気を失った。

「な、何しやがる!!」

 仲間が投げられた事に驚いたのか、他の男が声を荒げてクルルに殴りかかる。

 それに対してクルルは、

「はっ!」

 と掛け声を上げると、男の拳を避け一瞬で男の懐に入り込んでいた。そして先ほどの男と同様に男の体を投げ飛ばして地面に叩きつけたのだった。

 ドン!という音が再び響き、また1人男が気絶した。

お読みいただきありがとうございます。

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