24話 アルトとスミの出会いについて
パン屋、ホワイトブレッドにて、パン屋の一人娘、スミ・ホワイトバードは静かに店番をしていた。
昼もすぎてパンを買いに来る人もほとんどいない時間になっていたので、いっそ昼寝でもしようかと考えていたところであった。そんな中、
バタンと、扉が開かれ店に人が入ってきた。
スミはお客さんが入ってきたなと思い、「いらっしゃいませ。」と言いながらその人物を見た。そして、入ってきた人物を見て、
(ええ!?)
と、声は出さなかったものの驚いてその人を見つめた。
店に入ってきたのは、銀髪の長い髪が特徴的なアルト・シルバーシーリングと、そのお付きであるらしい人だった。
スミはアルトが貴族の中でも高い地位を有していることを知っていた。
また、お付きの人は何回かこの店にパンを買いに来ているので顔見知りであるが、貴族本人がわざわざこの店に来ることなどめったにないことだった。
単にパンを買いに来たわけではないだろう。一体何かあったのだろうかと、スミは極力態度には出さないようにしつつも、緊張しながら店に入ってきた2人の出方を伺った。
一方で、アルトは少しだけ店の中を見渡した後、コツコツと、まっすぐにスミの前まで歩いていった。
「あなたは、この店の人なの?」
アルトがスミに尋ねる。
「は、はい。そうです。」
「そんなに緊張しなくていいわ。別にいじめにきたわけじゃないし。」
「は、はい。」
緊張しなくてよいと言われても、スミからするとやはり緊張する相手である。そこへクルルが間に入った。
「どうも、いつもお世話になっております。スミさん。」
「はい。いつもパンを買っていただきまして、ありがとうございます。」
顔見知りであるためか、スミは少し緊張を解いてクルルにこたえた。
「突然お伺いしてすいません、私がシルバーシーリング家で働いていることは前にお話ししたと思いますけど、こちらの方は私がお仕えしています、アルト様になります。」
クルルがアルトを紹介するのに合わせてアルトは、
「アルトよ、よろしく。」
とスミに言った。それに対してスミも慌ててアルトに挨拶をした。
「はい。私はスミ・ホワイトバードです。よろしくお願いします。」
「そう、いい名前ね。」
アルトはスミの顔を見つめながら言った。
「ねぇスミ。握手しましょう?」
「へ?」
「握手よ、わかるでしょ?」
アルトがスミに手を差し出した。
スミはなんとなく嫌な予感がしたが、断ることはできないと考え手を差し出した。
「こ、こうでしょうか。」
「ええ。」
アルトはスミが出した手をギュッと握ると笑顔を作った。
「これからよろしくね、スミ。」
「はい、よろしくお願いします。」
これからという言葉にスミは嫌な予感が高まるのを感じた。
その雰囲気を察したのか、クルルが再び口を出した。
「実は今日、アルト様はこのお店のパンを食べたんです。そうしたらとても美味しかったみたいでして、ぜひとも直接お店に行ってみたいという話になったのです。」
「そう。そうなのよ、このお店のパンとても美味しかったわ。」
握手を離してアルトが言った。
「ありがとうございます。」
「この店にあるパンはあなたが作っているの?」
「はい。私と私のお父さんでパンを焼いています。」
「そう、あなたはパンを作るのがとても上手なのね。」
「あ、ありがとうございます。」
いちおう褒められているらしいのでスミはアルトにお礼を言った。
「……」
「……」
それから少しの間、店内が沈黙で包まれた。
そして、沈黙を破るためにクルルが何かを言いかけようとした時、アルトが口を開いた。
「率直に言うわ。私がここに来たのはスミ、あなたにパンの作り方を教えてほしいからなの。」
「ええ!?パンの作り方ですか!?」
アルトの言葉にスミは驚いて聞き返した。
「そうよ、あなたの力が必要なの。」
「そ、それはありがたいのですが、その、私よりもよほどいい人がいると思うのですが。」
「そんなことないわ、私は舌が肥えているもの、いいものか悪いものかの判断には自信があるの。あなたしかいないわ。」
そう言われてスミは困惑した。
「そうですか。あの、ありがとうございます。ただ、申し訳ないのですがこの店は私と私の父だけでやっているような小さい店ですし、とてもアルト様にご指導できるような状況ではないのです。」
スミはアルトの機嫌を損ねないように頭を下げた。
スミの言葉を聞いて、アルトは少しがっかりとした様子を見せた。
「そう。あなたにも都合があるものね。ごめんなさい。」
「いえ、私こそアルト様の希望に応えることができなくて申し訳ありません。」
アルトのやけにあっさりとした態度に違和感があったが、スミはアルトの話を断ることができたと考えてアルトに謝った。しかしながら、アルトの次の言葉は意外なものだった。
「……スミ。私は悪いと思ってるし、謝りもするわ。けど、残念ながらあなたが私にパンの作り方を教るのは決定事項なのよ。」
「えぇ?」
何を言われたのか分からず、スミは呆けたような返事をした。
そして、その話を聞いていたクルルはアルトを止めようとした。
「アルト様、あまりスミさんの迷惑になるようなことはおやめになってください。」
しかしながら、アルトはクルルの言葉を無視して力強い目でスミを見つめていた。
「スミ。あなたの都合のいい時間でいいわ。お礼にお金も払うし。あなたの都合に私が合わせるようにする。私の家に来いというのではなくて、私の方からここに来るようにするわ。けど、教えないというのはダメ。あなたは私にパンの作り方を教えるの。権力をふりかざすのは趣味じゃないけど、私に教えさせるためなら、私は何でもするわよ。」
「ひぃ。」
アルトの鬼気迫る様子にスミは小さく悲鳴を上げた。
「待ってください!熱くなりすぎですよアルト様。」
アルトとスミの間に体を滑り込ませてクルルが言った。
アルトは自分の様子に気が付いたのか、目の力を弱めてスミに謝罪した。
「む、そうね。ごめんなさいスミ。恐がらせるつもりじゃなかったの。」
「い、いえ。大丈夫です。」
スミは平静を装ってアルトに返事をした。
しかしながら、スミはこの状況をどうしたものか悩んでいた。
何故かはわからないが、アルトはスミにパンの作り方を教えてほしいらしく、しかもその思いはかなり強いようだ。
それならば、アルトの機嫌を損ねてこちらの立場が悪くなるよりも早めに折れて、こちらの都合をできる限り聞いてもらえるようにした方がいいのだろうか、とスミは考えていた。
「ワン!」
その時、店の外から犬の吠える声が聞こえてきた。さらに、何かを引き摺るような音と人の話声が聞こえてくる。
「コラ、ここで待ってろって。」
「ワン。」
「よし、じゃあ中に入ってくるから、荷物の見張りは任せたからな。」
そんな声が聞こえた後、店の扉が開かれて1人の男性が店の中に入ってきた。
「こんにちは〜。」
そう言いながら店に入ってきた男はライト・ニューポートだった。
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流行りの「もう遅い」系も読んでみると、なんだかんだ面白いんだよなぁ。こういうのが面白いと感じるのは人間の本能か何かなのだろうか。




