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23話 動き出したアルトについて

「ふあぁ。おはよう。」

「おはようございますアルト様。といっても、もうお昼ですけど。」

「そう。」

 貴族の娘であるアルト・シルバーシーリングと挨拶を交わしたのは、シルバーシーリング家で働くメイドのクルルだった。

 アルトは昼ごろに目を覚まし、部屋を出たところでクルルと鉢合わせていた。おそらくクルルはアルトの様子を見にきたのだろう。

 アルトは家のメイドや執事とあまり関わろうとしないが、クルルとは年齢が近く付き合いも長い。このため、クルルはアルトが親しみを感じている数少ないメイドであった。

「また遅くまでお酒を飲んでいたのでしょう?ひどい顔になってますよ。」

「ほっときなさいよ。」

 クルルがアルトの顔を指して笑った。

 アルトが昨晩もお酒を飲んでいたのは事実であり、実際、クルルが指摘するようにひどい顔をしているのだろう。それでも、いつもと比べると多少お酒の量を減らしていたので多少マシだとは思うのだが。

「軽食を用意しておきますから、お顔を洗ってきてくださいね。」

「ええ。」

 アルトが返事をすると、クルルはパタパタと足早に居間の方へ駆けていった。

 その後ろ姿を見ながら、アルトは二日酔いで痛む頭をおさえてゆっくりと洗面所へ歩いていった。


 アルトがずいぶんと時間をかけて顔を洗い居間にたどり着くと、そこではクルルがすでにパンなどの軽食の用意を終えていた。

 アルトはゆっくりと席につくと、人心地がついたように「ふぅ。」とため息をついた。

「ありがとう。1人分の食事を用意するのも面倒でしょう?」

「ええ!?そ、そんなことありませんよ。これくらい楽なもんです。」

「?」

 アルトはとくに何も考えずにクルルにお礼をいったのだが、クルルはやけに慌てた様子で応えた。アルトはその様子に違和感を覚えたが、気にすることなく食事を始めた。そして、

「あら、このパンなかなか美味しいじゃない。」

「えええ!?」

 アルトは静かに食事をはじめ、パンが美味しかったので素直に感想を言っただけなのだが、ここでもクルルはやけに驚いた様子を見せた。その様子がさすがに気になったため、アルトはクルルに尋ねた。

「ちょっと、さっきから何なのよ。何をそんなに驚いてるの?」

 尋ねられたクルルはハッとした表情をして、「あっ、態度に出てました?ウフフ。」と愛想笑いをした。

「ウフフじゃないの。」

 アルトがクルルを嗜めると、クルルは大きく手を振りながら弁明した。

「ごめんなさい。だって、アルト様がお礼を言ったり、パンが美味しいなんて感想を言うなんて、すごい久しぶりですよ。私がびっくりするくらい本当に久しぶりなんですから、そしたら私だって驚いちゃいますよ。しかたないじゃないですか。」

「そんなことないでしょう。私だってお礼ぐらい言うわよ。」

「そんなことないですよ。その、私はアルト様の近くにいましたから。」

 何かを言い淀んだように、クルルが言葉を切った。

 その様子を見てアルトは、「なんなの?」と言ってクルルに言葉を促した。

「その、アルト様はずっと苦しそうでしたから。」

 アルトに対してクルルが目を伏せてこたえた。

「え?」

「婚約の話が出てからずっとです。いつも苦しそうにしていらっしゃいました。話しかけてもうわの空といった感じでしたし、何を食べても味なんてわからないという状態でしたよ。」

「そ、そんなに苦しそうに見えた?」

 アルトは驚いていた。自分が苦しんでいることなど、この家の誰にもわからないことだと思っていたからだ。

「はい。私になにかできればと思っていたのですが、私ではあまりお役に立つことなんてできませんし。」

 目を上げたクルルの目は潤んでいた。アルトのことを真剣に心配していたのだろう、アルトはクルルの様子に感動した。

「そんなことない。クルルがいてくれてよかった。私のことを考えてくれる人なんて、この家にはいないと思ってたから。」

「そんなことありません。他の者も心配しております。それに、旦那様だってアルト様のことを気にかけていらっしゃいますよ。」

「そう。ありがとうクルル。」

 アルトは意識的に、クルルの名前を読んでお礼を言った。それは、父親が自分を気にかけているという言葉を否定するためであったのかもしれない。

 それを察してか、クルルはそれ以上の事は言わずに話題を変えた。

「それよりそのパン美味しかったですか?実はそのパン、美味しいと評判の店で買ってきたものなんですよ。」

「そうなの?ありがとう、本当においしい。」

 アルトは努めて笑顔を作りクルルに顔を向けた。クルルはそれに応えるように笑顔をつくり、「どういたしまして。」と言った。


 それから少しして、アルトは食事を終えて居間でくつろいでいた。

 その様子を見ながら、クルルは気になっていたことを聞いてみることにした。

「そういえばアルト様。」

「なにかしら?」

「アルト様がいつもより気分がよさそうなので思い切って聞いてみるのですが、何かあったのですか?なにか気晴らしになるようなこととか。」

 クルルがアルトに尋ねると、アルトは目を細めて俯き加減になり、何かを思い出すような仕草をした。

「えぇ。へんな、気晴らしみたいなことはあったわ。」

「(へんな?)そうですか、それはよかったです。……何があったか聞いてもいいですか?」

「構わないわよ。そうね、何があったかというよりも、考えかたを変えてみようと思ったのよ。」

 アルトが俯き加減だった顔を上げていく。

「考え方ですか?」

「ええ。私はもう少しすれば、したくもない結婚をさせられて、家畜のように出荷されていくのでしょうけれど、行った先で大人しく飼われてやる必要はないんだって。」

 そして、アルトが顔を上げてクルルを見つめたとき、その目には強い光が宿っていた。

「そ、そうですか。」

 アルトに気圧されながらクルルは相槌をうった。

「そうよ。閉じ込められて一生俯いているままなんて嫌。だから私は生きがい探してるの。結婚の期限がくるまでに。もしなにも見つからなかったら、その時はお酒を飲み続けて早めに棺桶に入るわよ。」

「そ、そうなんですか。」

 アルトの、前向きなのか後ろ向きなのかわからない決意にクルルは何と言っていいかわからなかったため、ただ相槌をうつことしかできなかった。

 スミの姿を気にすることなくアルトは拳を握り天井を見上げて、決意をあらたにしているようだった。

 アルトはまた、(それに何かやらないと、あの鳥が来て煽られたときに悔しいし。)と心の中で呟いていた。

「そう。私には今生きがいが必要なのよ。」

「立派です。アルト様。」

 天井から視線をクルルに戻してアルトが言う。

 クルルにはすでにアルトの考えが立派なのか判断がつかなかったが、アルトの気持ちが上向いているならそれでいいだろうと考え、アルトを応援することにした。

 クルルはその一方で、(そういえばアルト様ってすごい飽きっぽいんだよなぁ。)と不安に思ったが、それは口にしないことにした。

「そういえば今日食べたパン、とても美味しかったわね。」

「え?」

 突然パンの話をはじめたアルトに、クルルは呆けたような声を上げた。

「パン、作ってみたいわね。」

「えぇ!?」

 アルトの言葉に今度は驚きの声を上げる。それを無視してアルトは続ける。

「クルル、あなたパンの作り方しってる?」

「いえ、知りませんが。」

「そう。この家でパンの作り方を知っている人はいるかしら?」

「どうでしょう?基本的にパンは買っていますし、あまり詳しい者はいないかもせれません。」

「そう。」

 アルトは少し考えを巡らせるように頭をひねった。それをクルルは不安げに見つめた。

「つまり餅は餅屋、パンはパン屋というわけね。」

「といいますと?」

「パンを作りたいならパン屋に教えて貰えばいいのよ。」

 そう言ってアルトはクルルを見つめ、クルルに命令を出した。

「さあクルル、パン屋を呼びなさい。そしてパンの作り方を教えてもらうのよ。」

「えええ!?」

 なんでもないことのように言うアルトにクルルは驚いた。そして慌てた様子でアルトの要望を否定した。

「それは無茶ですよアルト様。前もって伝えているならまだしも、今日、突然そんなことを言ってもパン屋の人にも予定があるはずですよ。」

「そうなの?」

 アルトは不思議そうな表情をしている。悪気もなくこういった命令を思いつくあたり、やはり貴族だなとクルルは思った。

「……ねぇ、今日のパンとてもおいしかったわね?」

「はぁ、それは、はい。」

「どこのパン屋で買ったの?」

「アルト様?まさか……」

「どこで買ったのか教えなさい。」

「う〜、教えるのはいいですけど、お店にあまり迷惑をかけないでくださいね。私も個人的に使ってるんですから。」

「いいから。教えなさい。」

 強引なアルトに、クルルは一度ため息をついた。

「わかりました、言いますよ。今日のパンはホワイトブレッドというパン屋で買ってきたものです。」

「ふ〜ん。ホワイトブレッドか。」

「はい。かわいい女の店員さんがパンを焼いてるんですよ。」

「ふ〜ん。女の店員か。……なら話が早いわね。」

 アルトはイスから立ち上がると、クルルの肩に手を置いて言った。

「今から行くわよ。ホワイトブレッドに。」

 それを聞いたクルルは驚いてアルトを止めようとする。

「ちょっと待ってくださいアルト様!?相手にも都合があるって話したばかりじゃないですか。」

「そうよ?こっちに来れないのでしょう?だからこちらから行ってあげるんじゃない。」

「そういう問題ではなくてですね……」

 言葉を続けようとしたクルルの唇をアルトが指で塞いだ。

「クルル、これは命令よ。そのパン屋まで案内しなさい。」

 命令と言われればクルルとしては強く反対はできない。乗り気ではないながらも、クルルは首を縦に振った。

「う〜、わかりました。けど、お願いですからあまり無体なことは控えてくださいね。とくに最近は、街で貴族の態度が横柄だって言われてるんです。」

 そう言ったクルルに対して、アルトは心外だという顔をした。

「なによそれ。他の人がやったことで私がしたことじゃないでしょう。」

「ええ。わかってます。アルト様はそんなことはしないと信じてますから。」

 クルルが宥めるようにアルトに言った。

「ふん。失礼するわね。私はその辺の奴らと違ってちゃんとしてるわよ。」

「はい。それはわかっております。ただ、他の人にとってはアルト様がいるだけでも緊張してしまうものですから。ささいなことでも大きく見えてしまうのなんです。」

「そうなの。まぁいいわ、私は脅す気なんてないし、穏やかに話を進めてみせるわよ。」

 クルルは祈る気持ちでアルトに話したが、アルトに気持ちが伝わった様子はない。

(問題が起きそうになったら私がフォローしないと。)クルルは心の中でそう決意した。また、場合によってはこのパン屋に二度と行けなくなるかもしれないと思い、心の中でため息をついたのだった。

読んでいただきありがとうございます。

たまに深夜ごろに1人、2人アクセスがあるなと思っていたら、それは何かの巡回サイトによるものかもしれないのだという。知りたくなかったそんな真実。

こんなときはボーボボを読んで心を落ち着けよう。


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