20話 情熱を燃やすライトの話
カーン、カーン、カーン
朝、時計塔から鐘の音が響いてくる。
「ううん。」
呻き声を出して、ライト・ニューポートは目を覚ました。そして、寝室から洗面所に行く際に、リビングで1匹の鳥がうずくまっていることに気づき、ネイバーと名乗る魔物を召喚したことを思い出したのだった。
(まだ自分以外の人が家にいることに慣れないな。)
そんなことを思いながらネイバーの様子を伺うと、ネイバーは目を閉じて寝ているように見えた。
しかしながら首を小刻みに動かしていて、周囲の様子を探っているような仕草をしているので、目を閉じているだけで起きているのかもしれないとも思う。
「おーい、起きてるー?」
ライトは試しに、控えめな声でネイバーに話しかけてみることにした。
「ああ、起きてるよ。」
ネイバーからはすぐに返事があった。どうやら起きていたらしい。
「おはよう。」
「おはよう。ライト、よく眠れたかい?」
「それはホスト側の俺のセリフじゃないか?まぁよく寝たよ。ネイバーはいつ帰ってきたんだ?それにどこに行ってたんだ?」
ライトはネイバーが鳥の姿になって家を出ていったことを思いだしていた。
「帰ってきたのはついさっきかな、意外と暇つぶしができたよ。行き先はナイショだけどな。」
「えっ、気になるじゃないか、教えてくれよ。」
行き先を言おうとしないネイバーにライトは再度質問したが、ネイバーは「内緒だよ。」と言うばかりだった。
「そんなことより飯をくれ。」
「ああ、ちょっと待っててくれ。」
ネイバーは話を打ち切りご飯の催促をした。
ライトも起きたばかりで長話をする気はなかったため、とりあえず顔を洗って朝ご飯の用意をしたのだった。
「それで、今日はどうする?仕事に行くのか?」
ライトが朝ごはんをテーブルに置き椅子に座ると、鳥の姿のままでネイバーが尋ねた。
ネイバーの目の前にはナッツを乗せた小皿が置いてあり、ネイバーはナッツをパクパクと食べている。
「いや、今日は仕事の日じゃないんだ。」
「そうなのか?」
「ああ。さすがに毎日働いてるわけじゃないよ。」
「ふーん、それじゃあどうする?」
「とりあえず村の外に行こうと思ってる。お前を召喚した場所があっただろ?そこならあんまり人が来ないから、そこで魔法のこととか、色々教えてくれないか?」
ライトの表情は真剣だった。それを見てネイバーはナッツを食べるのをやめてライトと向かい合った。
「へぇ、やる気あるじゃん。」
「うん。昨日お前とも話したけど、たしかに俺のタイムリミットはもう始まってるんだ、って気付いたんだ。どうしたってこの家は貴族の奴らに盗られちゃう。けど、それならそれでもういいさ、ここで力を付けて、さっさとこんなところから出ていってやる。その時には一発貴族の奴らをぶん殴ってやる。そのためには頑張らないといけないな、って思ったんだ。」
言いながら、ライトはいつのまにか手を強く握り、握った自分の手を見つめていた。
「よしよし。いいぞ。やる気のある奴はやりがいがあるからな。お前をそこらへんの奴じゃ相手にならないような奴にしてやる。ま、ならなくても俺がいれば大抵のことは何とかなるんだ。安心しろよ。」
ライトの熱意に打たれたのか、ネイバーは声を弾ませてライトを励ました。そして、鳥の姿から犬の姿に変身すると、玄関の方へ駆け出して、早く来い、と言うように「ワン!」と吠えた。
「ちょっと待ってくれ。行動が早すぎるよ。」
出発準備がほとんどないネイバーに急かされて、ライトは慌てて朝食を食べ終わり準備を整えたのだった。
だが、
「よし、じゃあ行こうか。」
「グルルル。」
準備が終わり後は家を出るだけだったが、ネイバーは不満気な声を出していた。
今、ネイバーの首にはボロついた紐が掛けられていた。その紐はライトの手に繋がっている。ようは首輪の代わりであった。
ネイバーはその首輪を掛けられることを嫌がったのだ。
「なぁ、首輪がないと他の人が警戒するんだって。街を出たら外すから我慢してくれよ。」
「グルル。」
宥めるライトに対してネイバーは不満な様子のままだった。しかしながら一応、大人しく首輪をしたままになっていた。
それでも明らかに不機嫌な顔をしているので、いつ首輪を引きちぎってもおかしくないように思える。
(ここで宥めてるより、早く街を出たほうがいいか。)
そう考えたライトはこれ以上宥めるのをやめ、家を出ることにした。
「なんだその汚い犬は。」
道中、特に誰とも会うことなく進んでいた2人だったが、街から出るときに通る門で、ライトは門番に足止めをされていた。
門番は明らかにライトとネイバーを見下していた。
「汚いですけど俺の犬ですよ。散歩に連れて行くんです。」
そう言うライトをジロジロと見ると、門番はフン、と鼻息を鳴らした。
「お前に似て頭の悪そうな犬じゃねぇか。お前と一瞬にそのまま捨ててきた方が良さそうだな。」
「はぁ、そうですか。」
ライトはここで何かを言っても損にしかならない事を知っていた。また、ネイバーも罵倒されたことはわかっていそうだが、どこか遠くの方を見て何もわからないような様子で大人しくしていた。
そして、何か反論してくるのを期待していたのか、門番はつまらなそうに舌打ちをすると、
「シッシッ、さっさと行けよクズ。」
と言って2人を追い払うようにして街の外に出した。
(見てろよ、必ず目にモノ見せてやるからな。)
門番の冷ややかな視線を背に受けながら、ライトは街の貴族達の鼻を明かしてやることを改めて決意したのだった。
「う〜、絶対に許さないぞあいつ。」
「燃えてるねぇ。」
森に入り、犬の姿から人間の姿になったネイバーと地面に腰をおろしながら、ライトは門番に対する怒りをあらわにしていた。
(もちろんネイバーは全裸ではない。穴を開けた布をポンチョのように着ている。)
「燃えるよそりゃあ。人のことを汚いだの頭悪いだの言ってきて、ネイバーもムカついただろう?」
ライトはネイバーに同意を求めた。だが、ネイバーはあまり怒った様子を見せない。
「まあ、そうだな、落とし前はつけさせる気マンマンだよ。」
「そのわりにあんまり怒ってないように見えるけど?」
「俺は楽しみながらやり返すほうだからな。」
そう言ってネイバーはニヤリと笑った。
ライトはその笑顔にうすら寒いものを感じ、俺よりもよほど怒ってそうだなと感じた。
もしくは本当にたいした怒りを感じておらず、虫を見つけた子どもが笑いながら虫をつぶすような、無邪気な恐ろしさなのかもしれない。
「それはそれとして、そろそろはじめようか。魔法を教えてやるよ。」
ネイバーは地面から立ち上がりライトに言った。
(とうとう本格的に魔法を教えてもらえるのか。)
ライトは興奮とともに緊張しながら、ネイバーに合わせて立ち上がろうとした。しかしながら、それをネイバーが止めた。
「待てライト。お前は立ち上がらなくていいよ。」
「え、そうなのか?」
意表を突かれたライトが戸惑いながらネイバーに言う。
「ああ、そのままでいい。俺は今から鳥の姿になるから、お前がするのは鳥になった俺の頭の上に手をかざすだけ。オーケー?」
「はぁ、わかったけど、それだけでいいのか?」
手をかざしてなにがあるのか、ライトにはよくわからなかった。一方で、ネイバーはニヤリと笑みを作ると、自信満々に答えた。
「お前に今から幽体離脱を経験させてやるよ。体から意識を飛ばして空中遊泳するんだ。」
「ええ!?大丈夫なのかそんなことして?そのまま死んじゃったりしないのか?」
幽体離脱という言葉を聞いてライトは尻込みする。ライトはなんとなく、魔法の練習は火を出す魔法を少しずつ大きくしていったりする事などを考えていたのだ。
「安心しろよ。超オススメだから。これを経験した奴は泣いて喜んでたぜ。こんな体験めったにできません、って。」
「それは恐怖で泣いてたんじゃないか?」
「そんなことないぜ。お前みたいに魔法を使えるようになりたいっていう奴に体験させてやって、それですごい良かったって言ってたんだから。」
「そうかぁ。」
「まぁ、嫌なら別にいいけど。」
「うっ、それはズルいよ。わかった、やるよ。やりますよ。」
魔法を教えるのを渋るような態度をとられるとライトとしては弱い。しかたなく、ライトは幽体離脱に挑戦してみることにしたのだった。
「よし、じゃあやってみるか。」
そう言うとネイバーは鳥の姿に変身した。着ていた布がバサリと落ちて布の間からピョコピョコと歩いて出てくる。
「それじゃあ俺の頭に手をかざしなよ。」
ネイバーは顔を下に向けてライトが頭に手をかざしやすい体勢をとった。
「う〜ん、よし。やるぞ。……本当に死んだりしないよな?」
「信じるものは救われるのだ。」
「うぅ〜。」
ライトはしばらく唸り声を上げていた。しかしながら、意を決したのか少しずつネイバーの方へ手を伸ばしていった。
そして、ついにネイバーの頭に手のひらが触れた。
グイッ
と、ライトは意識が引っ張るられるような感覚になった。
(これが幽体離脱!?)
ライトはさらに、自分が上空に引き延ばされながら意識を抜かれているのを感じた。
そして、ついに意識が全て、身体から離れるような感覚がした瞬間、
ガクリ、と意識が飛んで暗闇に落ちるのを感じたのだった。
そして、ライトの意識が暗闇に落ちる前に聞いたのは、
「あれ、幽体離脱するには魔力が少なすぎたかなぁ?」
というネイバーの言葉だった。
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