18話 鳥に絡む酔っぱらい女性の話
「それで、あんた一体どこからきたのよ。」
シルバーシーリング家の三女、アルト・シルバーシーリングは目の前にいる鳥、ネイバーの頭をぐいぐいと撫で押して言った。
「おいやめろ、毛が崩れちゃうから!」
頭を撫でられたネイバーは嫌そうにアルトの手を押し除けると、ブルブルと頭を振った。
「まったく、俺がどこから来たかって?そんなの知らないよ。俺は自由なんだ。」
ぷいっ、と機嫌を損ねていることをあらわすようにアルトから顔を逸らして言う。
「あら生意気。」
「なに?」
「なんで鳥のあなたが自由で、人間の私が不自由なのよ。こんなのおかしいわよ。」
そう言うとアルトは、今度はネイバーの頬を指でグイッグイッ、と押し始めた。
ネイバーは「クエェ。」とうめくような声を出して、アルトの手が届かないテーブルの端へ移動した。
「あ!ちょっとなに逃げてるのよ、戻ってきなさい。」
「いやだ。普通ならクチバシで指を噛んでやってるところだぞ、まったく。」
ネイバーが「クエェ!」と威嚇するような声をアルトに放つ。しかしながら、すでに酔っ払っているアルトには効果がないらしい。
「嫌だじゃないのよこっちに来なさい。こっちに来ないならナッツあげないわよ。」
アルトは近くに来ないネイバーを非難すると、ネイバーが食べていたナッツを自分の手元に寄せた。
「む、ずるいぞ。」
「賢いのよ。」
アルトはネイバーに勝ち誇って言う。
ネイバーはナッツをじっと見て、「う〜む。」と唸った。ネイバーの体が足踏みをしながら少しずつナッツの方へ引き寄せられていく。
だが、
「いや!そんなのいらないね。」
「ああ!」
ネイバーはナッツから無理やり目を離すと再びテーブルの端に行った。ネイバーは食欲に勝ったのである。
それを見たアルトは驚いた声をあげた。
「ナッツで釣られるような安い鳥じゃないんでね。」
今度はネイバーが胸を反らして勝ち誇るようにアルトに言う。
アルトはそれを見て、「うぐぐぐぐ。」と悔しくそうな声を出した。
そしてそのまま、アルトは呻き声をあげながら机に突っ伏した。
「うぐぐぐぐ、うぐぅ〜。……ヒック。うえぇ〜。」
「うん?」
突っ伏したアルトの声がだんだんとぐずるような声になっていた。
その様子に気づいたネイバーは呆気にとられた。
「うええ〜ん。いじわる〜。鳥なのに私にいじわるした〜。うええ〜ん。」
顔を上げたアルトは泣いて手元にあったナッツの粒を手に取りネイバーに向かって投げた。指に力が入らないのか、投げられたナッツは弱々しい軌道を描いてポテン、とネイバーに当たった。
「うええ〜ん。こっちに来い〜。」
泣きながらナッツを投げてくるアルトに対して、実際ネイバーは戸惑っていた。
(なんだこいつ、幼児退行しすぎだろう。)
すでに帰りたい気持ちが8割近くになっていたが、目の前の女性があまりに哀れに感じたため、ネイバーは観念してアルトの近くへ寄っていった。
「そんなに泣くなよ。鳥だってそこまで泣くことないぞ。」
「うええ〜ん。」
アルトはネイバーが手の届くところまでくると、ネイバーの羽を両手で摘んだり、揉みこんだりし始めた。
そして、しばらくそれを続けると突然、泣くのをやめて笑い始めた。
「ふふ〜ん。やっと来たわね。褒めてあげましょう。」
「そう。とりあえず頭には触らないでくれよ、それ以上は望まないから。」
「わかってるわよ〜。」
そう言いながらアルトは笑顔でネイバーの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「……。」
ネイバーはもう何も言わなかったが、その顔はすさまじく渋味がかっていた。
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