13話 2人と魔法都市についての話
「はぁ〜。ずいぶん栄えてるもんだな。」
感心したようにそう言ったのはネイバーだ。
魔法都市フロートクラウンの大通りで、ネイバーとビジターの2人は頭上の街灯に照らされていた。夜中だが人通りはそれなりにあり、2人の住む村が灯りも少なくすでに眠りについていることに比べると、この都市はまだ人と光が多く賑やかだ。
そんな都市の様子をキョロキョロとネイバーが見ている。
「こういう複雑なものを作るのは人間すごいよな、この街灯も魔力を繋げて光を出してるみたいだし。」
興奮した様子のネイバーがビジターに話しかける。
「ああ。」
だが、話しかけられたビジターは別のことを考えている様子で空返事をしただけだ。目線もどこを見ているのか、虚ろな様子である。
そんな様子に気づいたネイバーがビジターに声をかける。
「どうした?ここに来たかったんだろう?」
「ああ。」
「ああ。じゃなくてよ、感想とかあるだろう?久しぶりに来たんだったらよ。」
「ああ。・・・・・・いや、信じられないというか、本当に来たという事に頭がついていかないんだ。」
つい先ほどまで、ビジターとネイバーの2人は村から都市を目指して空を飛んでいた。
通常なら、町から都市と繋がる列車が出ている町まで行き、そこから列車で都市まで向かうことになり、順調に進んでも1週間程度の時間がかかる。
それが空を飛ぶと、山も町も関係なく驚異的な速さで飛び進み、町を出発してから1、2時間程度で魔法都市に着いてしまったのだ。
都市は昔と同じように活気に満ちていて、前に暮らしていた時に利用していた店もそのまま残っている。ビジターはまるで過去の魔法都市にそのまま来たかのように感じほどだった。
その錯覚は、ビジターがここに来る前にお酒を飲み酔っていたことと、実際の体を離れて意識だけで遠くの場所に移動したことにより現実感を失っていることによるものなのかもしれなかった。
「ここは本当に魔法都市なんだよな?魔法で幻でも見せられてるんじゃないよな?」
ビジターが虚ろなまま口にすると、ネイバーは「クケケ。」と笑ってビジターの肩を翼で叩いた。
意識だけの状態になっているはずだが、ビジターは違和感なく肩を叩かれたように感じる。
「しっかりしろよなー。酔っぱらって全部夢だと思われても嫌なんだからよ。」
「あ、ああ。わかってる。」
実際、空から大通りに降りて来るまでに見えた街並みには、ビジターに見覚えのない高層建築物が増えていた。
(それに、これが幻でも現実でも今さらどちらでもいいか。ここにいるならここに集中するべきだ。)
そう考えるとビジターはぼんやりと前を見ることをやめた。そしてネイバーに尋ねる。
「それで、何だっけ?」
「何だっけって、お前がここに来たかったんだろうがよ。」
ネイバーはもう一度ビジターの肩を叩いた。
「感想とかよ、どこに行ってみたいとかよ、あるんじゃないのか?」
「あー感想か、うん。驚いたよ。空を飛んでるとはいえ、家からここまでとても一日でこれるような場所じゃない。それなのにこんなに早くここに着くなんて思ってなかった。」
「うんうん、そうだろうそうだろう。」
ビジターの言葉にネイバーが頷く。
「この都市も、前に俺がいたころと変わらない、栄えていて、建物と人と魔法の知識が集まってて、また来れてよかったと思う。」
「そうか。それで、ここでどうしたい?」
「そうだな。行けるなら俺の住んでた宿舎が今どうなってるか見たいけど・・・・・・・。」
そこまで言うとビジターは言葉を切った。
(前に住んでいたところを今さら見てどうするんだ?見たいといえば見たいけど、こんな機会にそんなものを見て感傷に浸ってる場合だろうか。)
「例えば、今の意識だけの状態だったら、普通は入れない場所でも入れるのか?」
「まあ、大抵の場所は行けるよな。生身と比べたら何があっても通り放題だよ。」
「それが魔法の研究をしているところでも?」
ビジターがそうきくと、ネイバーは「うーん。」と少し考えてから答えた。
「例えば、今俺たちは地面にいて、けっこうな人数とすれ違ってるよな?」
「ああ。そうだな。」
「その中で俺たちに気づいた奴がいたか?」
「いや、いないと思う。」
実際、2人は今大通りの街灯の光が当たる場所にいて、遠くを過ぎて行く人だけでなく、2人のすぐ目の前を横切る人もいた。しかしながら、2人に気づいた様子の人はいなかった。もし気づくようなら、明らかに怪しい人間と鳥なので何かしらの反応をしていただろう。
「ここが魔法に力を入れているところだって事は、ここには魔法に詳しい奴が多いっていうことだよな。それでけっこうな人数が俺たちの側を通ってる。全員が魔法に詳しいってことはないかもしれないけど、その中の何人かは魔法に詳しい奴がいてもおかしくないよな。けど、俺たちに気づいた奴はいない。ということは、俺たちがどこに行ってもわかる可能性は少ないんじゃないかと思うぜ。」
「うん。確かに、そうかもしれない。」
「まあ確約はしないけどな、行こうとしてる場所がとくに厳重に警備されてるかもしれないし。」
「そうか。」
ネイバーの考えはもっともだと思い、ビジターは判断に迷った。
「とりあえず近くまで行ってみてから入るか考えるてもいいかもしれないぜ。」
「・・・・・・そうだな。」
ビジターはネイバーの促すような言葉に対して、少し間を空けて答えた。それはこれから向かおうとする場所への敬意であり、そして中へ侵入することへの期待と不安感から来るものだったかもしれない。
「そうだな、行こう。」
ビジターはもう一度そう言うと、ネイバーの先導で街灯から離れていった。
「それで、そこはなんていう名前の建物なんだ?」
「ああ、グレイス・ステラーって呼ばれてる、魔法の最先端の研究が行われてるらしいんだ。行くなら空を飛んだ方がわかりやすいと思う。高層の建物の中で、てっぺんが王冠みたいになってる建物だ。」
「オーケー。飛んでみよう。」
ネイバーがそう言うと、2人の意識は空に上がっていった。
そして程なくして2人は目的の建物を発見し、グレイス・ステラーの王冠の頂点部分に立っていた。
ネイバーは建物を物色するような気配で中の様子を伺っている。
「ふーん、ここで魔法の研究をしてるのか。」
「ああ、魔法の研究が行われている場所で、実際に中がどうなってるのか知りたいんだ。」
「そうかぁ。確かに他のところより魔力を感じるよ。」
「そうなのか?俺にはわからないけど。」
「俺にはわかるのよ、魔力がね。」
ネイバーはそう言うがビジターにはなにも感じられない。
(だけど、こいつには何かわかることがあるのかもしれない。)
「クケケ。まあ、お前もそのうちわかるようになるよ。」
ネイバーはビジターを慰めるかのように笑った。
「わかってるよ。」
「それで、どうする?」
「どうするって?」
「中に入るかどうかだよ。」
「クケケ。」今度は慰めではなく、挑発するようにネイバーが笑った。
「入れるのか?けど、魔力を感じるんだろ?」
ビジターが不安そうにネイバーに尋ねる。
ビジターには感じられないが、ネイバーは何かの魔力を感じているらしい。ということは、先ほどの大通りとは違って自分達の存在に気づかれる可能性が高いということだろう。さらに、気づかれるだけならまだしも、何か魔法の力を使って拘束されてしまうのではないか。グレイス・ステラーへの畏怖の念を抱いていることに加えて、自分ではまだ力が及ばない話のためか、ビジターは不安を感じていた。
「安心しろよ俺がいるんだからよ。魔力を感じるとは言ったけど驚異は感じないぜ。小動物が威嚇してきてるみたいなもんだ。」
「ほんとかよ。」
何という事もないように言うネイバーに対して、ビジターは及び腰だった。そんな様子をしばらく見て、ネイバーは肩をすくめるように提案した。
「気乗りしないなら無理に入る必要はないぜ。もともとここに入るために町から飛んできたわけでもないしな。今回は近くで見ただけでも良かったんじゃないか。」
ネイバーにとっては、実際のところここに入ろうと入らなかろうと、どっちでもよかったのである。
だが、ビジターに気を遣ったようなネイバーの提案がビジターに火を付けてしまったらしい。
「舐めるなよ。中に行くぞ。ここまできて帰れるかよ。」
「ほーう、行くのか。」
「行くに決まってる。」
このときビジターは自分の家でお酒を飲んでいたことに感謝と怒りを感じていた。
(くそ、素面だったら入るなんて絶対言わなかったのに。お酒と魔法の非現実感で気が大きくなってるのか。行くなんて言ってしまった。これで本当に捕まったりしたらどうしよう、けど、こんなチャンスは2度とこないかもしれないし。)
行くといっておきながら悩み始めた自分を振り払うようにして、さらにもう一度ビジターはネイバーに言った。
「俺は行くぞ。行けばいいんだろうが。」
「別に行けとは言ってないが。」
ネイバーは突然行くと言い始めたビジターに呆れた様子だったが、少しすると「クケケ。」と笑った。
「それじゃあ行くけどよ、上と下どっちから入るよ?」
「うん?」
「このまま屋上から中に入るか、下の玄関から入るか、どうするよ?」
「あー、ちなみにどっちが見つかりにくいと思う?」
「大抵は玄関の方が厳重に警備されてるだろうな。」
即座に答えるネイバーにビジターは少し狼狽える。
「そ、そうだよな。玄関の方が厳重だよな。じゃあ、屋上から行くか。」
「よし、そうしよう。」
そう言うと、ネイバーは2人の意識を移動させて屋上から建物内部に繋がる扉の前に立った。
そして、そのまま扉を開けることもなく扉にぶつかっていく。
すると、2人の意識は扉に当たることなく、扉をすり抜けて建物内部に入っていこうとしている。
どうやら意識だけの状態だと建物の壁などを無視してすり抜ける事ができるらしい。
(凄い。)
扉をすり抜けるときに口を無意識に閉じてしまうのか、その感想は口から出なかった。
だが、扉をすり抜けるときにネイバーが呟くように発した、「まあ、魔法の研究をしてるなら屋上の方が厳重かもしれないけどな。」という言葉に対しては「おいちょっと待て!」と咄嗟に口に出すことができていたのだった。
どちらにしろ聞く者はおらず、2人の体はグレイス・ステラーの中に吸い込まれていったのだったが。
なんだか久しぶりに話を書きました。
読んでいただいた方、ありがとうございます。




