押しかけるそれも愛のかたち2
「リリアス、彼は君と同じイウス王の曾孫だ。元老院派の代表格で、将来は始祖神のもとではなく、親子共々に旧居城に身を納めると神殿で誓った相手だ」
「仮面の騎士がボクの親戚で、ルイとも血が繋がっていて、おまけに旧居城に住みたいと宣言して……いる?」
「亡き後も、墓はこの地に納められる方。という事だよ……」
完全に混乱しているリリアスを湯に浸からせ、冷たい果実水を飲ませて落ち着かせる。
従僕にとっても非常に使い道が大きい駒の登場に、ルイは始祖神とイウス王に感謝の言葉を述べる。
「───つまり、仮面の騎士は旧居城が大好きで、私たち従僕の一族が大好きで、彼の亡き母上は旧居城に墓を持つ従僕の恩人で、将来は旧居城に住む、旧居城大好きっ子な騎士候補生なんだ」
「いくら旧居城が大好きでも、辺境伯の跡継ぎがここに嫁いでくれるかな……」
「アレンバイル辺境伯には第二子が居られるからね。それに、旧居城に身を収めると神殿に宣言した以上は取り消せないよ」
まだ混乱しているリリアスに、さらなる押しのひと言を策略家な従僕の長は告げた。
「つまり、私たちとリリアスと、その仮面の騎士は一緒に暮らせる」
「ルイと、一緒に…」
「私は、そもそも王のための愛妾だからね。仮面の騎士とリリアスと、私と旧居城で仲良く新婚生活を過ごせばいいんだ」
さり気なく人生設計にルイが組み込まれているが、旧居城に身を収める事に悩んでいたリリアスが既に神殿へ宣言した者と結ばれるなら、もう答えは決まったようなものである。
「神に誓ったなら、それは取り消せないね。……じゃあ、すぐにでも辺境伯領に行って旧居城に嫁いでくれるよう説得しないと……」
「うん、是非ここへ連れておいで…………もしも、拒否したら花奴隷の蜜蝋を使うから、彼の意思は無意味だけどね…」
素早くルイが身体を拭いていき、控えの小間使いがリリアスのための真新しい衣装を用意する。
成長ごとにそれは作り直されているため、旧居城のクローゼットには彼女のためのドレスと宝飾品が溢れかえっていた。
「蜂蜜を何にするの? ルイがクッキーでも焼くの?」
旧居城の地下では養蜂も行っており、貴重な蜂蜜はルイの望むままに取り放題となっていた。ただ、製法にはかなりの秘密があるらしく、リリアスは蜂の姿を見た覚えがなかった。
「そうだね、とびきりのを焼いて待っているよ。……そうだ。今から出かけるなら、辺境伯への手土産用の蜂蜜も用意しておかないとね……」
笑顔の裏が何だか怖く見えたが、旧居城の主でもあるルイが歓迎であれば何も問題はない。
長距離用の衣装への着替えを終えたリリアスは、予備の衣服の入ったバスケットと手土産の蜂蜜を手渡される。それから、普段は着けることがない豪華な細工の銀の髪飾りと耳飾りを付けられて、恋するお姫様は実家である旧居城から旅立っていった。
「…………あれ、シャルとリズ。ずっと待ってくれたの?」
アーガイル模様の廊下を抜けて大扉をくぐると、苛立った表情の二人が待ち構えていた。
「私たちでは気軽に旧居城へ入れませんし、あんな宣言の後では落ち着いて部屋で待てませんから……。それより、ルイ様は何と?」
「なんと、仮面の騎士殿はボクのはとこだったんだ!」
衝撃的な報告にさぞ驚くと思っていたが、二人のその反応は知ってて当然といったものだった。
「それは、貴族年鑑を見れば誰でもわかる話ですから……。そうではなく、ルイ様は反対されて…」
「えー。何だ、もう知ってたんだ……。なんかね、彼は旧居城でルイと一緒に暮らしてくれるから、是非連れておいでって」
「旧居城で、ルイ様と一緒に……」
あの冷徹な従僕の長が反対もせず、一緒に暮らすから連れてくるよう命じる相手。とてつもなくイヤな予感しかせず、仮面の騎士殿とやらにシャルファは心底同情した。
「じゃあ、三人で辺境伯領に行こう!」
シャルファに着替えと手土産が収まったバスケットを手渡し、ルイから渡された多すぎる旅費をリズレアに預ける。城門をくぐれば、新しい元気な馬と入れ替えられた四頭立ての豪速馬車と御者が用意されており、あとは目的地に向かうだけとなった。
第一章までを公開しました。
閑話エピソードは、アルファポリス限定にて配信しております。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/800684412/919042417




