騎士学校の御前試合2
卒業を控えた騎士学校の生徒による御前試合を、リリアスは頬杖をつきながらのため息で迎えた。
将来の騎士を決めるとだけあって、期待して見続けたものの、こうもレベルの低い剣術を観させられただけではなく、明らかな爵位順での手加減や傲慢な素振りには呆れかえる以外に言葉も出ない。
当の女王はわざわざ離れた位置に座り、間に貴族院の者たちを置いて、リリアスは一応王室席に見えなくもない程度の端に追いやられていた。
無論、本来なら置かれるはずの第三王女への護衛でさえ皆無で、何のために旧居城を出たのかさえよく分からないくらいだ。
隣席でシャルファとリズレアは控えているが、不遇さを見せ物にするかのような仕打ちを受けても、おとなしく座っていては女王を助長させるだけだろう。
「せっかくだから、こっそり紛れちゃおうかな……」
試合も終盤に差し掛かっていた事もあり、王室席から離れても咎めるような兵も居なかった。そもそも第三王女に護衛も付けないで、何かあったらどうするのだろうか?
簡単すぎる王室席からの脱走に心弾ませながら、いっそ優勝して姉上を驚かせてやろうなどと密かにリリアスは微笑んだ。
「姫さまは、早速の脱走ですか……」
シャルファは試合の流れを振り返り、外に飛び出したくなっても仕方ないなと行動に納得した。
表向きは護衛の伴わない不遇の公式行事に見えるが、実は元老院と従僕による陰の護衛たちがしっかり見守っており、危害を加える相手に対しては容赦なく剣を向ける。それは女王に対しても同様であり、リリアスが旧居城から出たばかりの頃にそれを心底味わっている。
本来の王の護衛を務めるはずの相手に処罰を加えることも出来ず、女王や貴族院関係者は危害を伴わない、今日のような嫌がらせばかりを繰り返して自己満足していた。
「例の仮面の騎士とやらの試合まで待っていたら、リリアス様も熱心に見ていたでしょうに……。でも、対戦表を見る限りで、仮面の騎士くんは相当の扱いね……」
リズレアが出場録を開いてみれば、仮面の騎士とやらが、どれ程にハンデを付けられているかがひと目でわかる。連戦に次ぐ連戦で、対戦相手の体格や戦歴もわざと不利になるように組み合わせている。
「騎士さまは、元老院派の代表格となる辺境伯の御子息だそうよ。仮面は普段も常に着けていて、噂によればひどい怪我を負ったとか、醜い顔を隠している、なんて色々言われているみたい……」
記載されていた名前から姿を思い出そうとしても、全く記憶になかった。恐らく顔の仮面を気にして社交の場に出ないようにしているか、普段は辺境の務めを任されているかのどちらかだろう。
「そう聞くと、素顔がどんな子なのか気になるわね……。あ、すごい、あの状況から体勢を立て直して勝っちゃった」
普段は姿を見せない上に、王家とは別派閥の子息が優勝してしまい、完全に貴族院と女王の思惑丸潰れとなった。リリアスが観戦していたら、大声で笑いながらさぞ女王の顔を指さしていただろう。
『……それでは、ボクがお相手しよう!』
急に聞き覚えのある声と背丈を持つ甲冑の騎士候補が現れ、仮面の騎士の前に真剣を振るい出す。
「あれって、どう見ても姫さまよね……」
甲冑でも被れば気が付かれないとでも思ったのか、審判の制止を完全に無視して謎の飛び入りは仮面の騎士候補生に襲いかかる。従僕たちや王のための護衛に鍛えられたリリアスにも後れを取らず、仮面の騎士は攻めに向かった。
何度かのやり取りの果てに体力不足からリリアスが剣を取られ、すぐさま甲冑を外して汗に濡れた蜜色の髪を揺らした。
『……仮面の騎士殿、ボクと結婚してくれないか!?』
あれは、マズイ。シャルファとリズレアは素早い動きで席を飛び出し、家族計画について語り出したリリアスを革袋に丸めて競技場の外へと連行する。
前の試合を見る限り好意は抱くかもしれないとは思ったが、まさか素顔さえ見えない相手に婚姻を申し込むとは、付き合いが長い二人でさえ驚きだった。
何が気に入って、どこにキュンと来たのかは知らないが、彼女は従僕の長であるルイリントベル一番のお気に入りだ。下手な相手に嫁がせる事は絶対に認められなかった。




